「22」タコ2
「さぁ、陛下。お願いします!」
「よっしゃ来たあああぁぁぁぁっ!」
現在位置、オルグオニダコの棲息域。そして、現状は。
「タコ祭りだぜええええぇぇぇ!」
突如として目の前に現れたオルグオニダコ×1と対峙しているところだった。
オルグオニダコには、その名前の通り、鬼のような角が生えている。その数は個体によって様々だが、今回のは目の上に一本ずつ、計二本の角が生えているタイプだった。
「チホちゃーん!気をつけてねーっ!」
「わかってるわかってるぅー!」
甲板からのヒツギたち以下数名の声援を耳に受けて、俺は船から跳び上がり、そのタコの頭(正確には腹なのだが)の上に乗った。
「──────!」
タコが太い声で鳴く。
「うおおぅっと!あぶねぇな。暴れんじゃねぇよ高級食材!」
俺はその角にしがみついて、その巨体から振り離されないように踏ん張る。
(さて、どう料理してみようか)
俺はまず、どの部位を食べるか悩んだ。
「やっぱりここは、脚だろ!」
※正確には脚ではなく腕です。
俺は角の上から、こちらに伸びてきた腕に、体術最終奥義、『雷鳴』を放った。
高速で振動する空気の刃が、奴の腕を切り落とす。と、俺は思っていた。
しかし、その腕は少しぶちっと表面を覆う細い触手を数本切り落としただけに止まった。
「これはこれは。なかなかやるじゃねぇか。さすが高級食材!」
俺は落ちていった触手を分身に回収させると、狙った部位だけを完全に切り落とすことは、並みの技じゃ出来ないと踏んだ。
「さて、どうするかなぁ...っと!」
再び飛んでくるタコの触手を、まるで子供をあしらうかのようにひょいひょいと避けながらそんなことを考えた。
不意に、ある一本が、船の方へと延びていくのが見えた。
「甘い!」
俺は巨大な包丁を生成して、その腕を叩き斬った。
ズバァーン、という大波をたてて、その腕が水面に落ちていく。
「待て!俺の獲物!」
俺は数百人の分身を召喚して、それを回収させる。
「ふぅ。危うく星硬貨数百枚分の俺の食材を彼岸に送りそうになったぜ...」
空から降り注ぐ海水の雨に身を濡らしながら、俺は標的の額の上に降り立った。
あまりの痛さに、このタコもかなり暴れているが、俺は今はもはやこいつの上に足をつけてはいない。というより、すれすれでホバリングしている。
仙術、空歩。体表面の魔力に斥力を持たせることで、ある程度宙に浮くことができる仙術だ。これもリレルとの特訓で習得した。
「よし、そろそろ腹も減ってきたし、細かく刻んで、とっとと料理してもらうか。それに、苦しませて殺した魚は不味いって言うしな」
俺はふぅーと息を吐くと、襲い来る触手をひょいひょいと避けながら、奴の上空30メートル辺りまで上昇した。
ここなら、奴の長い触手も届くまい。
「去らばだ、わが高級食材!そしておめでとう!お前はこれから、俺の糧となるためバラバラになってもらうぞ!」
俺はそう叫んで、空中に大量の刃物を召喚した。その種類は剣や斧、鎌や槍に限らず、包丁やスコップ、フォークやスプーンまで、ありとあらゆる武器になりうる金属塊を召喚した。
「Und singe ich ein Requiem!」
(さあ、レクイエムを歌おうぞ!)
その合図とともに、その金属塊は、オルグオニダコへと急降下して飛び去り、奴の体へとぐさりぐさりと、時にはグシャリやらバキッ、グチュッ!という音を立てて、刺さりに刺さりまくった。
剣はその太い芯腕をぶち抜き、その細い触手を切断して、目に刺さり、外套幕を突き破り、脳をえぐり、内蔵をかき回し、海の底へと沈んでいった。
そして、弱りきった食材を見て、俺はひとつのボールを作り出した。
上半分は赤く、下半分は白い。真ん中には黒い線が走っており、そこに白いボタンがついている。
そう。それは某人気アニメでお馴染みの、あのボールだった。
「いけっ!モ〇〇〇〇〇〇ル!」
その掛け声は、運良く、タコのうめき声などでかき消えたが、まぁ、うん。セーフだね。セーフ。
とにもかくにも、そのボールは毎度お馴染み、赤い光を放ってタコをその小さなボールの中へと吸い込んでいった。
ボールは分身に回収させた。
「ふぅ、楽しかった!」
俺は甲板に戻ると、タコの腕をせっせと運んでいる分身を尻目に、やりきった清々しい顔をして、一息ついた。
「...ま、まさか、現在最新鋭の軍艦を一撃で仕留めるレベルの海獣を、こんなにも意図も容易くあしらうとは......。英雄、おそるべし...ですね、陛下」
口をパクパクと開けていた彼らだったが、最初にそう口に出したのはニーフであった。
「あぁ。こいつはなかなか面白かったぞ?いろんな方向から触手が伸びてきてな?捕まるもんか!って必死でさ。久しぶりに結構汗かいたよ。いや、ナイスファイティング!」
俺はそう言って、彼らに向かってサムズアップしてみせた。
「でも、こいつがたまたまバカな個体で助かったよ。あの動きから鑑みるに、頭いい奴ほもっとすごい手を繰り出してきそうだしな。もう一回やりあいたいかなぁー。なんて」
俺は満面の笑顔で1人興奮の余韻に浸った。
すると、向こうの方からメアリーが大きなバスタオルを持ってこちらに来た。
「陛下、今お体をお拭きしますので、こちらについてきてくださいますか?」
「はいはーい!」
そうして、俺たちは無事にレアメタルの採掘現場に着いたのであった。
本当はオルグオニダコはもう少し、いや、あれよりかなり強いレベル設定だったんですよ。
でも、さすがと言いますか。チホさん。あれを軽くあしらってましたね。
ひょっとしたら、本気を出せば三十秒もかけずに倒せたかもしれないレベルです。
いやぁ、俺、ちょっと主人公の最強加減を間違えてしまったかもしれない。そう思う話でした。
以上、作者の感想でした。
えっと、次回はようやくレアメタルを採掘、といきたいんですけれども、さてさて。このあといったいどうなってしまうのか。
それでは次回 『王姫と執事』 第23話 「23」 お楽しみに!




