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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
王姫と執事 Und der Butler
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「19」迷子

 翌日。


「なぁ、メアリー。俺、この仕事は向いていないと思うんだよ」


 俺は、ふと彼女にそう漏らした。


「急にどうしたんですか、陛下?」


「いやな。昨日、カランとやってて思ったんだよ。俺にはこの職は向いてないんじゃないかって」


「そんなものですよ。政治なんて、他人に任せておけばいいんですよ。今までと同じように、分身に代わりをさせておけば」


「気づいていたのかよ?」


「当然です。同時刻に二人も居るところを見ればすぐにわかりますよ」


 彼女は呆れ声でそう言った。


 メアリーが俺の服を着替えさせると、その肩をとんと叩いて、着替えが終わったことを告げる。


「そろそろ朝食のお時間です」


 扉の向こうから聞こえてくるニーフの声に返事をして、俺はいつも通りの停滞した日常を歩き始めた。












 朝食の席でも、何も特に面白い話などせずに、淡々と時間が過ぎていった。


(気まずい。そして何より面白くないな)


 何でも生成することができるから、何も要らないっていうのは、面白味に欠けるのだ。ということを、俺は改めて知った。


「ねぇチホちゃん。今日は元気無いね?どしたの?」


 ふと、ヒツギがそう話しかけてきた。


「いや、最近停滞してるなーと思ってさ」


「停滞?」


 タケルが不思議そうな目で見てくる。まぁ、それだけではわからないのは当然だろうけどさ。


「そ。なんかいつも一緒だなーってさ」


「平和でいいんじゃないか?こっちは国王が北オルグ海の底にあるレアメタルを採掘するって理由で、資金を集めなきゃいけなくて大変でさ。それに比べて、こちらは呑気な方だよ。戦争なんかしなくて済むんだしな」


 俺の回答に、ブレックの実(ブドウに似ている赤紫色の果物)を頬張りながら意見を返した。


 彼はブレックの実を呑み込むと、あ、と声をあげた。


「なんなら、ひとつ仕事を頼んでもいいか?北オルグ海でレアメタル採掘の護衛。あそこの海獣が少し厄介でさ。チホが護衛してくれるなら、その分費用も浮くし」


「北オルグ海...」


 北オルグ海か。あそこは確か、オルグオニダコが棲んでるんだったか。ぷりぷりとした歯ごたえに、魚介類なのに生臭さは無くさっぱりとした味らしいな。高級レストランでは、そのまま刺身として出されることもあり、足ならば10グラムで金貨二枚はする高級品だとか。


(食べたい...)


 そう思ってしばし黙考していると、メアリーが口を開いた。


「いつも通り、12:00から3:00までなら時間は空いていますが。どうなさいますか?」


「さすが!気が利くな、メアリー!」












 そうして俺は、数百キロ先の北オルグ海海上までやって来たのであった。












「海だーっ!!」


 海を見るのは初めてだった。普通ならとっくに死んでるはずの年齢。見た目は子供でも、年齢的には大人...いや、この先の思考は止めよう。うん。自滅する。


 まぁ、とにかく俺は生まれて初めて、前世含めて初めて海に来たのであった。


「陛下、これはあくまでも仕事なんですから、あまり騒がないでくださいよ?」


 ニーフは遠くの方からそう呼び掛けた。


「海に来て騒がない理由があるかーっ!」


「仕事中ですよー!」


 そう。本来なら仕事でレアメタルを堀にいく予定なのだが。途中でトラブルが起きた。いや、トラブルっていうのかわからないけど。


 現在位置は旧アシロ帝国の北東区域、クォンツ領の、アシロ唯一の夏が楽しめるサンアシロという海岸である。


 それで、そのトラブルというのが


「船が壊れてるんだったら、修理終わるまで遊んでてもいいよね!」


 ということである。


 北オルグ海、別名、オニダコ海域は、アシロ海を横切って北東に数百キロ進んだ所にある。しかし、来る途中、船が豪雪で壊れてしまったのだ。


「わかりましたよ。あんまり遠くに行かないで下さいねー!」


 俺は彼のその声を受けて、砂浜を駆け出した。












 俺はまず最初に、海の家で水着に着替えた。(服は異次元ポケットにしまっておいた)


「いい!」


 すぐ後ろにはツンドラが広がっているのに、ここは真夏の空気がひしめき合っている。この世界ではごく一般的な風景だが、今の俺には新鮮に見える。何もかもが。


「いい!」


 俺の真似をして、隣でエディスタがそう叫んだ。彼女は俺の方を向いて、ニッと笑う。


「エディ、楽しい?」


「楽しい!」


 楽しい、とか言うけど、まだ着替えただけなんだよな。さて、何をしよう。


 俺はとりあえず海の水に浸かってみることにした。


(ふぅ。冷たくて気持ちいい)


 しばらく俺はエディスタと海を何となく泳いでいた。そして、虚しさを感じた。


(気持ちいいのはそうなんだけど、なんか虚しくなってきたな...)


 海で遊んだことのない俺からしてみれば、泳ぐ以外の遊びを知らない。


 そんな虚しさに流されるように、俺は浮き輪に乗って、エディスタと共に流れ行くままに流されていった。













 午後一時半頃。船の修理が終わったので、俺は陛下を呼びに浜辺へと出ていった。しかし、そこには陛下の影も形もなかった。


「へ!陛下?!」


 あまり遠くには行かないでくださいとは言ったけど、まさか、見えなくなるとは思わなかった。彼女の行動範囲は広い。何せ、遊びで国ひとつ横断する位だからだ。


(まずいな。ここは一度、メアリーに相談して...)


 そう思って後ろを振り向くと、メアリーがそこにいた。


「あまり大声を出さないでください、お兄様。いったい、どうなさったんです?」


「陛下が、居なくなった」


 俺はありのままのことを彼女に告げた。


 しかし、彼女は呆れたように首をすくめた。


「仕方ありませんね。オラシオン部隊に連絡して、捜索をお願いしてみます。お兄様は直ぐに船を動かせるように準備しておいてください。私は探知魔法を使って、ある程度把握しますんで」


「わかった」


 俺は頷いて、船のところへと戻った。












 一方その頃、俺は浮き輪の上でエディスタと昼寝をしていた。

ピラノスペーレ


オルグオニダコを使った海鮮料理。主にオルグ海に住まう大型の海獣を使う。ヒツギ曰く、味付けには黒ソース(醤油の少し塩分が控えめなクォンツ領発祥の調味料。少し淡めの柑橘系の臭いが特有)が一番らしい。相場価格は白金貨四枚と金貨八枚(約480000円)。


黒ソース


クォンツ領サンアシロ発祥の調味料。淡い柑橘系の臭いが特有の塩分控えめな醤油のようなもの。オルグ海の魚介類によくあう。ボトルひとつの相場価格は銀貨一枚と銅貨三枚(約530円)。


次回「20」

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