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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
王姫と執事 Und der Butler
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「18」変動

 空中庭園、第一取調室。正直、俺もこんなものが地下に作られていたとは思ってもいなかった。アロンは今、そこで取り調べを受けているらしい。


 俺は面倒なので外でエディスタと遊んでいると言ったんだが、メアリーとニーフ曰く、「今回の件は少なからずとも陛下が関わっていることは明白なので、陛下も見ていてください」とのことだった。


 正直なところ、分身でも使って誤魔化そうかとも考えたが、すぐにばれてしまうだろうと考えてので、諦めて付き合うことにした。


「直球的に聞こうか。アロン。貴様の目的はなんだ?」


 直球的に、オラシオン部隊(俺専属の警察官的な存在。皇宮警察みたいな感じの人たち)の隊員の一人が言った。しかし、彼はそっぽを向いて、だんまりを決め込んでいる。それもそのはずだろう。なぜと聞かれて素直に答える犯罪者なんて、そうそういないからな。


「...なるほどな。お前一人でやったわけではないということか。後ろに誰かいるな。それも、少し大きめの組織か、強大な人物だな?」


 彼は、アロンのその動作からそう答えを導きだした。正直、その技術力と観察眼はすごいと思う。あれはおそらく、プロファイリングか何かをしているんだろう。俺にはよくわからないが。


 アロンは少し目を見開いて、視線を下に落とした。


「図星か。なるほどなぁ...」


 彼は何か分かったかのように頷くと、助手の耳元に何か囁いた。すると、助手は取調室をあとにした。そして今度は、もう一人の助手に何か紙を手渡した。


(数列?)


 書かれていたのは、大陸で広く一般的に用いられるテンブ数字だった。よく見ると、それは何か規則性をもってかかれているように見える。確か、数字と文字を組み合わせて作られた暗号文を解く、IQテストもあったな。あれ、名前は何て言うんだったか。


 助手はPCを何やら操作すると、その画面を彼に見せた。すると彼は、得心のいったように頷いた。


「どうやら、ルートの吸血鬼と華の吸血鬼が戦争をしているようだな?」


 それがいったい、どうということなのだろうか?


「それが、何か?」


 アロンは彼にそう聞き返す。適当な返し方だとは思うが、彼の表情を見るに、少し焦っているような気が見られた。


「先日、陛下のところへ、フェルンと名乗るルートの吸血鬼の貴族が、亡命に来たそうだよ。華一族に戦争吹っ掛けられて、苦戦しているからかくまってくれ、と」


 確かにそうだが、なぜ彼がそんなことを知っているんだ?もしかして、俺の部屋に盗聴機か監視カメラでもつけられているのか?それは気持ちのいい話ではないな。むしろキモいというか。なんというか。


 彼は鋭い眼差しで彼を睨み付けると、さらに話を続けた。


「確か、お前の家にはフルーレとかいう華一族の貴族の娘がいたな。今、彼女はどうしてる?」


(なぜ、こいつの家に華のコウモリがいるんだよ?)


 ひどく疑問だ。でも、勘がいいならば、ここまでの仕組みはよく理解できた。おそらく、アロンの家にいるとかいうフルーレなるコウモリは、彼の愛人か何かなんだろう。そして、彼は彼女を利用して、吸血鬼の一族を乗っ取ろうと考えた。結果、戦争が起きた。おそらく動機は権力を欲したためだろう。


 なるほどなぁ。よく考えたものだ。俺は細かい説明は苦手だから細部までは言葉では説明できないが、まぁ、何となくわかった。


 俺はため息をついた。


「大丈夫ですか、陛下?」


 メアリーが心配した声をかけてきた。


「あぁ。あまりにも滑稽なものだから、ついな。もういいか?疲れた」


「左様ですか。では、お連れいたします」


 このとき、もしやあのときのあれが続いていたとは、俺は微塵も思ってはいなかった。



















 翌日。


「よろしくお願いします!」


 屋敷の裏庭に取り付けられていたグラウンドで、俺とカルラは対峙していた。


「いつでも来い」


 カルラは般若の構えをとった。対して、俺は無武の構えをとって、相手の動きに最速で対応できるようにしていた。


 こうなった理由は、彼が俺が作った針流の使い手だったという情報を知ったので、俺が稽古をつけてやると言ったからだ。


 俺は、カルラの視線と足の向きから、最初に来る技を予測した。カルラが動いた。彼のいた場所に砂煙が立ち込める。しかし、それは自分の位置を知らせる材料になってしまう。


 突進してきた彼の貫手を手で掴み、小手返しの要領で相手を投げつけた。


「動きが単純すぎる。もっとフェイクを入れてみたらどうだ?」


「はい!」


 正直に言うと、彼の移動速度はおよそ秒速25メートルはあった。この時代の人間にしては速すぎるというものだが、対応できないわけではない。


 彼は元の位置に戻って、次は鳳の構えをとった。


「行きます!」


 彼はそう言ってジグザグにこちらへと接近してくる。そして、死角に入った瞬間、彼は俺の首に足刀を繰り出してきた。俺は端までそれを払うと同時に足をつかんで地面に叩きつけた。


「忘れてはいないだろうが、相手には捕まるなよ?捕まえられたら、今みたいにダメージを食らうからな」 


「はい!」


 でも、俺みたいな奴じゃなければ、さっきの一撃でダウンしていただろう。一般的な相手なら、だけど。でも、ボクサーみたいな人からすれば、あんなのは蚊の針だろう。


「じゃあ、次は俺から行かせてもらうよ。ちゃんと避けろよ?」


 俺は重心を下に落として、呪雷の構えをとった。


 そして、俺は砂ぼこりのひとつもたてずに、最速で彼の死角に潜り込み、抜き手を放つ。彼はその手首を捕まえたが、俺はそれを利用して彼を投げ飛ばした。


「くはっ?!」


 カルラが地に背中を打った。


 俺が使った技は、1種のカウンター技。慣性質量を使って相手の重心を崩し、掴んだ相手の手を手の甲で弾きながら投げる技だ。針流には投げ技が少ない。しかし、無いわけではない。


「ちゃんと捕まえたはずなのに、どうして...」


 彼は天を見上げながらそう呟いた。非常に悔しそうな顔をしている。


「さっきのは無明むみょう投げっていうカウンター技だ。使い方、教えてほしいか?」


「はい!」


 彼は元気よく返事をした。














 一方その頃、先程の戦いを見ていたカンナとメアリーはというと。


「うわぁ、一方的だなぁ...」


 投げ飛ばされ続ける自分の兄を見ながら、カンナはそんな感想を口に出した。


「いえ、それでもあの陛下の死角に潜り込むことができるその技量は、評価されるべきですよ、カンナさん」


「それはそう、なのかもしれませんけど...。メアリー様は、兄があの無明投げを覚えたら、陛下に勝てると思いますか?」


 彼女は、少しづつ技のコツをつかんでいく兄を見ながら、ため息混じりにそう返した。


「絶対無理ですよ。陛下は空歩くうほと呼ばれる仙術をお持ちなのですから、たとえ空中に投げ出されたとしても大して今とおかわりないでしょうね」


 彼女の淡々としたその話に、少々驚きながらも、そっかー、などと言って、兄の勝利を諦めていた。













 そして数十分が過ぎた。


「だんだんコツはつかんできたようだな」


「はい!師匠!」


 いつの間にか、彼と彼女の関係は、師弟関係へと変わっていた。

死守シモリ


家守ヤモリ井守イモリといった爬虫類の仲間。死骸を住み処として、その死骸を食べに来るウジ虫や蝶等を食べている。その目は複眼で、見たものが生き物であるか、又は生きているか死んでいるかを見分けることができる魔力を持っているらしい。別名、オラシオン。


オラシオン部隊


ヤナギ・チホ専属の皇宮警察。諜報、工作、監視、追跡、思考、西岸しがんの六つの小隊に別れており、そこからさらに百の部隊に別れて、多方面の警備を行っているらしい。六つ目のシガン部隊は、オラシオンの中でも知っている人物も少ない、謎の部隊である。いまではちょっとした都市伝説にもなっているらしい。


次回「19」

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