「17」手紙
(溜まった水は、熱して、除雪作業にでも回すか)
そう思って下を見下ろすと、しかし既に除雪は終わっていた。たった三時間半程度で、除雪は終了していた。
(早いな。もっと時間がかかると思っていたんだが、仕方ないか)
俺はその水の玉を複数に分裂させて、霧化させた。
「終わった?」
屋根から飛び降りながら、ニーフに聞いた。彼は頷くと、手紙を差し出してきた。
「作業中に、陛下宛へと手紙が届きました」
「手紙?」
今時紙の手紙なんて珍しい。機械で書いたのか、それとも手書きか。俺はその封を破った。中には、黒い紙に白いインクで魔法陣が描かれていた。そして、魔法か発動された。どうやら、条件発動式だったようだ。
「新手のテロか?」
しかし、その魔法は、発動途中で俺の手によって引き裂かれたことで、キャンセルされた。魔法陣というのは繊細で、一部でも不都合が起きれば発動はしないし、陣そのものが破り捨てられれば、もはやただの模様でしかない。
俺は安心してそれを解析する。と、その紙が突然爆発した。
「んっ?!」
「ヘカッ?!」
「うわあぁぁぁぁっ!」
それぞれが口々に叫び、その爆発に巻き込まれた。
そんな中、一人の男が、その光景を双眼鏡で確認していた。男は、任務に成功したことにガッツポーズを決めた。しかし。
「おしっ!任務成功──?!」
「いったい、なんの任務が成功したと言うのですか?お父様?」
彼、オリガヤ・フレア・アロンは、その背後からの台詞に顔を歪ませた。
「その声は...メアリーか?」
彼女は、手に持った実弾の装填された、白い銃の口を、彼のこめかみに突きつけたまま、その冷たい瞳を彼へと固定し続ける。
銃口と彼の頭との距離、わずか二センチ。必中距離である。
「でしたら、何か?」
彼女は、トリガーから外していた指を、引き金にかけた。かちり、と、音が鳴る。
「先程の、任務、というのは、あの起爆札のことでしょうか?」
彼女は、彼の目の前に、それの破片を撒き散らした。アロンの目が見開かれる。
「反逆罪として、あなたをここで処刑します。陛下、許可を」
こちらを見る彼女に、俺は首肯した。
「どうぞ、お好きに。でもしかし、子が親を殺すというのも、俺からしてみればあまりしてほしくないんだ。君がそうしたいなら、話は別だがね?どうする、メアリー?」
俺は、爆風の余熱が残る頬を手でさすりながら言った。俺としては、本当は彼女にこんなことをしてほしくはない。本当なら、メアリーのいない場所で勝手に死んでくれたらいいし、そもそも、こいつを殺すことに何か意味はあるのかという疑問さえ出てくる。俺は無事なのだから、別にどちらでもいいじゃん?というのが、本音だ。でも待てよ、こいつが任務、と口走ったのには気になる節がある。そうだな、やっぱり処刑は無しに...いや、いっそ拷問にでもかけようか。
俺は、ふと彼女の手を見た。瞳孔は開かれ、息づかいも少し荒い。しかし、その小さな手には似合わない大きさの白い銃が握られているが、少しも震えてはいない。だからといっても、彼女からは敵意も殺意も感じない。
(殺したくないんだ。なら、助け船を出してやろう)
「あ、でも殺すなよ?あとで拷問...もとい、尋問するから」
俺はそう言って彼女の顔を見上げた。すると、自然と彼女の動悸は収まったようで、いつもの表情に戻っていた。彼女は銃口をこめかみから肩の付け根へと移動させた。
「陛下、危険ですので、お下がりください」
そして、その日の昼、アロンは肩口を負傷して、投獄された。
魔法器官
脳幹にあるとされている、魔力を操るための中枢神経的役割を果たす、仮想器官。剣術における技と剣を魔法とするのならば、その腕の筋肉と、それを動かす神経がそれに当たる。
次回「18」




