表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
王姫と執事 Und der Butler
107/159

「17」手紙

(溜まった水は、熱して、除雪作業にでも回すか)


 そう思って下を見下ろすと、しかし既に除雪は終わっていた。たった三時間半程度で、除雪は終了していた。


(早いな。もっと時間がかかると思っていたんだが、仕方ないか)


 俺はその水の玉を複数に分裂させて、霧化させた。


「終わった?」


 屋根から飛び降りながら、ニーフに聞いた。彼は頷くと、手紙を差し出してきた。


「作業中に、陛下宛へと手紙が届きました」


「手紙?」


 今時紙の手紙なんて珍しい。機械で書いたのか、それとも手書きか。俺はその封を破った。中には、黒い紙に白いインクで魔法陣が描かれていた。そして、魔法か発動された。どうやら、条件発動式だったようだ。


「新手のテロか?」


 しかし、その魔法は、発動途中で俺の手によって引き裂かれたことで、キャンセルされた。魔法陣というのは繊細で、一部でも不都合が起きれば発動はしないし、陣そのものが破り捨てられれば、もはやただの模様でしかない。


 俺は安心してそれを解析する。と、その紙が突然爆発した。


「んっ?!」


「ヘカッ?!」


「うわあぁぁぁぁっ!」


 それぞれが口々に叫び、その爆発に巻き込まれた。








 そんな中、一人の男が、その光景を双眼鏡で確認していた。男は、任務に成功したことにガッツポーズを決めた。しかし。


「おしっ!任務成功──?!」


「いったい、なんの任務が成功したと言うのですか?お父様?」


 彼、オリガヤ・フレア・アロンは、その背後からの台詞に顔を歪ませた。


「その声は...メアリーか?」


 彼女は、手に持った実弾の装填された、白い銃の口を、彼のこめかみに突きつけたまま、その冷たい瞳を彼へと固定し続ける。


 銃口と彼の頭との距離、わずか二センチ。必中距離である。


「でしたら、何か?」


 彼女は、トリガーから外していた指を、引き金にかけた。かちり、と、音が鳴る。


「先程の、任務、というのは、あの起爆札のことでしょうか?」


 彼女は、彼の目の前に、それの破片を撒き散らした。アロンの目が見開かれる。


「反逆罪として、あなたをここで処刑します。陛下、許可を」


 こちらを見る彼女に、俺は首肯した。


「どうぞ、お好きに。でもしかし、子が親を殺すというのも、俺からしてみればあまりしてほしくないんだ。君がそうしたいなら、話は別だがね?どうする、メアリー?」


 俺は、爆風の余熱が残る頬を手でさすりながら言った。俺としては、本当は彼女にこんなことをしてほしくはない。本当なら、メアリーのいない場所で勝手に死んでくれたらいいし、そもそも、こいつを殺すことに何か意味はあるのかという疑問さえ出てくる。俺は無事なのだから、別にどちらでもいいじゃん?というのが、本音だ。でも待てよ、こいつが任務、と口走ったのには気になる節がある。そうだな、やっぱり処刑は無しに...いや、いっそ拷問にでもかけようか。


 俺は、ふと彼女の手を見た。瞳孔は開かれ、息づかいも少し荒い。しかし、その小さな手には似合わない大きさの白い銃が握られているが、少しも震えてはいない。だからといっても、彼女からは敵意も殺意も感じない。


(殺したくないんだ。なら、助け船を出してやろう)


「あ、でも殺すなよ?あとで拷問...もとい、尋問するから」


 俺はそう言って彼女の顔を見上げた。すると、自然と彼女の動悸は収まったようで、いつもの表情に戻っていた。彼女は銃口をこめかみから肩の付け根へと移動させた。


「陛下、危険ですので、お下がりください」


 そして、その日の昼、アロンは肩口を負傷して、投獄された。

魔法器官エヴァ


脳幹にあるとされている、魔力を操るための中枢神経的役割を果たす、仮想器官。剣術における技と剣を魔法とするのならば、その腕の筋肉と、それを動かす神経がそれに当たる。


次回「18」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ