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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
王姫と執事 Und der Butler
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「15」晩餐会3

 四国連合の表向きはガースが治めている裏路地街の、とある一角に、スターリン率いる『ギルド』が、そこに構えられていた。


 そして、今日。そこに、はじめてのお嬢ちゃん(ヤナギ・チホ)からの依頼が、届いた。


 内容は、『ネロ王国政権代理人ヤナギ・タケルの妹、ヤナギ・ヒツギの護衛。ただし、本人に所在を知られることなく遂行せよ』。


「こりゃぁ、でかいのが来たなぁ」


 お嬢ちゃん特製の掲示板の前に、ギルドのメンバーが集まっていた。


「報酬は、ランダムで異能をプレゼント。ただし、二人まで。ってのがなぁ」


 こちらは文句を言える立場ではないのだが、この人数制限は騒動を巻き起こしかねない。


 しかしながら、それは任務遂行に当たって、数は少ない方が良しとするものだからという理由は、ここにいるみんなは、当然のごとく理解していた。


「誰がいく?」


 スターリンが、彼らに呼び掛けた。


 要人を影から護衛。とはまぁなんとも難易度の高い話だ。


 任務の失敗は、心理的にも許せるものではなかったため、人選は慎重になる。


「あの、それでしたら、僕たち二人で行きましょうか?」


 そう手をあげたのは、二人の少年少女。歳は10代半ば前半といったところか。


 しかし、ここにいた誰もが、それに納得した。


 なぜなら、彼らには実積があるからだ。


 カルラ・エーデルフと、カンナ・エーデルフ。彼ら兄妹二人は、ここに来る前、依頼された人物の暗殺を生業としていた、今ではガースの傘下となってしまっているマーリンのところにいたのだ。


 そして、彼ら二人の実績は、そこではトップを争うものだったという。


「決まりだな」


 スターリンはそう言うなり、依頼書に彼ら二人の名前を書いた。













「こちらカルラ。目標を補足した」


『オッケー。じゃあ、これからそっちに地図を送るわ。15秒で暗記して』


 午後7時頃。


 カルラは、ネロ王国で行われる晩餐会会場の周囲を取り囲む植木の影に潜んでいた。


 彼のかけるグラスの中に、地図が表記される。


 彼は、それをものの15秒で暗記を終えると、そのまま目標、ヤナギ・ヒツギへと意識を向ける。


 彼の脳内は、彼女のプロファイリングによって得たデータを元に、数パターンの行動予測と、暗記した地図の中に含まれていた監視カメラの数、死角の情報の整理を、同時に進行させていた。


 同時思考演算と驚異的な暗記能力と情報解析能力。それらが、彼ら二人が暗殺者のプロフェッショナルたる所以でもあった。


 依頼の細かい内容は、ヤナギ・ヒツギに、不審人物を近づけさせないこと。万一拉致された場合、犯人の捕獲、及び目標の奪還である。


 そのためには、この晩餐会前に入手した出席者と目標の関係をきっちりと把握しておかなければならない。


 目標に、とある人物が近づいていく。


 黒いスーツを来た女性だ。


「目標に不審人物が接近中。どうする、カンナ?」


『拉致ってちょうだい。量子テレポーターでこっちに送ってくれるだけでいいわ』


「了解」


 彼はデバイスを取り出すと、彼女にそれの銃口を向けた。


 デバイスには銃口は存在しないが、形状上、照準器の役割を果たすために銃身のようなものが存在するため、そう表現する他はない。


 彼は、デバイスの引き金を引いた。


 サイレンサーをつけていたため、そこには僅かなノイズが残った。


 そのノイズが鳴った瞬間、彼女はその場所から姿を消していた。


 ちなみに、サイレンサーをつけていなかった場合、ジュオォオンという風な起動音が大音量で流れていただろう。


「対象をテレポートした」


『対象の輸送を確認したわ』


 グラスに付随している通信機から、カンナの声と、その後ろで騒ぐ女性の声がしていることを確認して、彼は目標の監視を続ける。


(それにしても、きれいな人だ)


 彼は、ヤナギ・ヒツギの後ろ姿を見ながら、そう思った。


(これなら、誘拐しようとする人の気持ちも、少なからずは理解できるな)


 等と、そんなどうでもいいことを考えていると、不意に、グラスの中の目標の足下に起動点が現れた。


(まずい!)


 彼は咄嗟に、術式破壊の魔法を放つ。


 しかし、間に合わなかった。


 魔法式の残痕情報から、術者の座標を逆探知する。


 彼は直ぐにその場へと駆け出した。


「イレギュラー発生、目標を何者かに拉致された。現在、対象を追尾中。案内を頼む!」


『了解したわ。逆探知の情報を送ってちょうだい』


 彼は木と木の上を移動しながら、情報をカンナに送る。


『対象を捕捉。対象は、テイラー領東北区二番地の住宅街の路地裏を疾走しているようね。監視カメラの映像と地図の映像を照らし合わせるに、そうね。最短ルートを送るわ』


 カルラはバイクにまたがり、彼女に指示されたルートを走る。


(くそっ、油断した!)


 今になってはもう遅い。反省はまた今度だ。と、彼は自分に言いつけて、夜道を走る。


 今日はどうやら豪雪のようで、いくら反重力加工のされてあるバイクと言えど、視界が悪くてあまり前方がよく見えない。


『次の角を左よ!』


 彼女の指示にしたがって、バイクを傾けた。


 すると、そこには大量のウルハウンド(灰色の巨大な狼。魔獣ではない)を従えた、数人の獣使いと、その奥に、ヤナギ・ヒツギを背中に背負う銀髪の青年の姿があった。


『誘われたわね...」


「できのいい暗殺者とは、笑わせるな。これは...」


 と、いう会話は、もちろん茶番である。


「彼女を返してもらえませんか?」


 カルラは、できるだけにこやかに、銀髪の青年にそう聞いた。


「返すと思ったか?」


 予想通りだ。


 彼は、おそらく返す気は更々ないだろう。あるのならば、最初からこのようなことはしていないはずだからだ。


「思ってませんよ?だけど、一応聞いてみたんです。でも、そうですか。その気なら、僕としても本気でいかせてもらわなければなりませんね」


 彼は、針流第七の構え、般若をとった。


 無論、これも相手の気をそらすための茶番にすぎない。


『準備できたわ。10秒後にアクション1をおねがい』


 その台詞を聞いて、彼は内心安堵するが、顔には出さない。


「どうした?来ないなら、こちらからいかせてもらうぞ!」


 ウルハウンドが地を蹴った。


 瞬間、彼はその場から姿を消した。


 同時に、その場の地面、つまりは雪の積もったそこが、氷へと変化した。


 それとほぼ時を同じくして、カルラは青年の腕から目標を奪い去って、その後方で待機していたカンナが操縦していた自動運転用AI搭載の車に乗り込んだ。


 そして、その車の中から、彼らを待機場所へ拉致し、仕事を終えた。


特化型デバイス


一つの系統の魔法を発動するのに特化させたニュンプ。拳銃型の他に、ライフル型や衣服型、垂れ幕型などが存在する。しかし、その中でも最も多い形態のデバイスは拳銃型である。利点としては、ひとつの系統の魔法を同時に、三種類まで平行使用が可能であるということ。


汎用型デバイス


端末型のものが大部分を占めるが、腕につけるブレスレット型との二種類が存在する。汎用型は、二つ以上の系統の魔法を発動させることが可能。しかし、ひとつの系統を複数同時使用できず、また、複数の系統を同時に使用することはできないという欠点が存在する。


系統


ウェイデンバーム暦400年現在、魔学学会では、魔法の系統は、エネルギー、物質、変異、座標変更の四種類に分けられるとされている。この分類の方法は、ウェイデンバーム暦216年に、魔学士クノウ・アカシが発表した。


次回「16」

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