「12」暇潰し
暇だ。
(何か暇潰しになるものはないだろうか)
ある日、俺はそんなことを考えていた。
仕事は面倒くさいので分身に任せてこちらに来たものの、なにもすることがない。
「んー...。あ、そうだ」
俺はそう言うなり、巨大な黒い鳥の幻想生物、その中でも最もレアなディンゼルに変身して、屋敷を飛び出した。
服は部屋に置いてきた。
だって作れば問題ないしな。うん。
ディンゼルは、黒翼の天使の異名を持つ大きな黒い鳥で、別名、砂漠烏とも呼ばれている。
こいつの爪は、固い岩盤を砕くほど鋭いと言われているが、実際のところは、触れたもののあらゆるものを腐食させるというだけである。
したがって、ディンゼルの爪は非常に高価で、保存も難しいレアアイテムなのだ。
因みに、一般的にはワンワンという鳴き声を発するが、年寄りになってくると、モーモーという鳴き声に変わるらしい。
そのためか、メリゴ辺りやバルス東部では、狗烏とも呼ばれている。
俺は地上の路地裏に降りると、もとの姿に戻って、黒を基調とした服を着た。
(そういえば、最近はこういうところが増えた気がする)
建造物の増量が、こういった路地裏を作り出し、さらには、そういうところに不良街っぽいのが出来上がる。
「よぉ、そこの嬢ちゃん!俺たちと少し遊ばないかい?」
染めているような金髪の、背の高い男が、俺を見上げて話しかける。
「誰?」
いきなり、俺みたいな幼女幼女した少女に、遊ぼうと誘いかけるこの金髪野郎。
きっと、危ない人に違いない。
「そう警戒するなよ?」
警戒するなという方が無理があると思うのは、果たして俺だけだろうか?
「俺はここ一帯を仕切っているガースって者だ。ここいらじゃ見ない顔だから、ちょいと挨拶だよ」
こいつの言う挨拶とは、暴力と考えておこうか?
明らかな不良コーデだし。
「なら、挨拶はちゃんと返さないとな」
俺はそう言って、座っていた換気扇の屋根から飛び降りた。
因みに、それは地上三階の高さだ。
ガースと名乗る金髪不良青年(仮)は、驚いた様子でこちらを見やる。
「デバイス無しであの高さから飛び降りたのか?!」
「そうだが、問題あるか?」
簡単だ。
降りる途中途中で、位置エネルギーから運動エネルギーへ変換される所に区切りをつけることで、このくらいの高さからならば、降りてもなんの怪我はない。
発動条件としては、近くに壁などの物体が存在することくらいだろうか。
「どうする?始める?」
俺は殺気を放ちながら、彼に歩み寄った。
ガースは後ずさりをした。
「いや、やめておこう」
なんだ、つまらないな。
(まぁ、やりあったところで勝敗は見えているが)
「俺のことはお嬢ちゃんでかまわない」
ここで本名を明かしてしまえば、おそらくは俺の株が下がる。下がったところで何とはならんとは思うが、一応な。
「わかった。お嬢ちゃん。俺は君を歓迎するよ」
四国連合の裏路地街
四国連合は、今やネロ王国を越える大都市であるが、反面、住宅や、背の高い建物などの隙間に、広い土地特有の治外法圏が存在している。
裏路地街には、区間ごとにリーダーがおり、それらが管轄する場所を、彼らは国と呼んでいる。
次回「13」




