「10」デバイス
祝!第100部!
「では、前回、といっても二日前ですが。復習をしましょう」
ヒエロは電子黒板をタップした。
「前回の内容を覚えておりますか、陛下?」
「勿論覚えている。アマイ・サクによる、己の魔力を消費せずに魔法を扱うデバイス、たしか名前はNot using magic power略してニュンプと言ったか?」
ヒエロが黒板を撫でた。そこに、ニュンプの図と名前が表示された。
「お見事。それで?」
「商品名、ニュンプ。通称デバイス、または法機と呼ばれるものは、自分の魔力を消費しないため、コストが安くすむ。故に、その普及は、350年ほど前から急増した。結果、現在では、ニュンプ無しでの魔法の使用は希で、全国の魔法科学校でも、それの普及と共に、それを活用した授業が主流となっている」
「上出来です、陛下!」
だって現在絶賛カンニング中なんだもんな。答えられない通りがない。
俺はニヤリと口を歪ませた。
「...陛下。カンニングとはまた、古典的な...」
「メアリー?!」
彼女はため息をついた。
呆れたのだろう。
「陛下、カンニングはよくありませんぞ?」
その台詞を聞いたヒエロが、肩をすくめて注意する。
「わかってるよ。ったくもぅ」
でもまぁ、やめる気はしないのだが。
「それでは、授業を再開しましょう。今回は、陛下にはデバイスの仕組みを理解していただきます。技術ファイルを開いて──」
「んーった。やっと終わった」
午前の授業が終わり、俺は椅子の上で伸びをした。
「陛下、ここの式が間違っていますよ?」
隣から、ニーフが俺の机上の魔法学の演算式が間違っていることを指摘する。
「あ、本当だ。符号が逆になってた」
それは魔法数学という科目で、魔法式を組み立てるための設計図をつくるための学問だ。
俺はイルスで高校一年生を途中から飛び級したため、そこら辺りがよくわかっていなかったのだ。
だからククルんに教えてもらっていたのだが、彼女の説明は感覚的過ぎてよく理解できなかったのだ。
その点、ヒエロの講義は分かりやすいが、難しい。
俺は間違いを直して、ファイルを閉じた。
「午後の授業まで三時間はあるな」
エディスタは、別の教室で簡単な算数や国語の授業を受けている。彼女の授業は午前までだという話だから、もうそろそろ終わっている頃だろう。
「エディスタを迎えに行くか」
俺は席をたって、教室をあとにした。
教室を出ると、エディスタが走りよってきた。
(どうやら彼女の方が早かったらしい)
俺はエディスタの頭を撫でた。
「チホ様!」
彼女は嬉しそうに顔を歪めた。
彼女の猫耳も、嬉しそうに垂れている。
(本当、なんでこんなにかわいいんだろう。こいつは)
無論、小動物的な意味ではあるが。
(それにしても、猫はいい)
猫と言えば。
そういえば昔、変身を試してみたくて黒猫になったとき、フレアが猫なで声、と言うのだろうか。あんな感じで俺に話しかけてきたことがあったか。
「ふふっ。お前は本当にかわいらしい」
俺は目を細めてそう言った。
「自分だけのケースに閉じ込めて、永久凍結して飾って置いておきたいくらいだ」
「陛下、それはいささか猟奇的ではありませんか?」
ふともらした俺の独り言に、メアリーがそうコメントした。
「本気になれば、それくらい余裕だぞ?俺は」
ニヤリと俺は口角をあげた。
ニーフとメアリーが、そんな俺を見てぞくりと肩を震わせる。
エディスタは話がわからないのか小首をかしげている。
(本当に、こういうところがこいつはかわいい)
「さて、いつまでもこんなところではなんだしな。すこし外に出ようか」
俺は彼女から手を離すと、お気に入りスポットめがけて足を運び出した。
名残惜しそうに両手を頭にのせるエディスタを眺めながら。
次回「11」




