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眠る君に送ろう、紅い花を


そろそろ透も弾き終わる頃かな?


キッチンで紅茶の用意だけしておく。


わたしも小さい頃は羽澄さんに習ってたけど。


結局、わたしは趣味程度。



「――五十鈴、五十鈴」

「あ、透…」



いつの間に居眠りしてたんだろう?


リビングまで来てソファに座ったまでは覚えてるのに…。


わたしは「食べるでしょ?」と言って紅茶を淹れ始める。



「羽澄は?」

「わたしと入れ違い」

「そう」



リビングで他愛無い話をしながら、シュークリームを食べて紅茶を飲んで……。



(さっきのお母さんと羽澄さんが言ってた“頑張って~~”って、どういう意味なんだろう?)



「五十鈴?」

「…え?なに?なに?」



少し考え事をしてたわたしに透が――。


「クリーム、付いてる」透は自分の口元を指差してる。



「え?」

「反対」

「こっち?」



わたしの動きより透の方が速かった。


すっと伸ばした透の指先に白いクリーム。ペロっと舐めている。



「………」

「………」



妙に気恥ずかしくなってきて、透を見れないっていうか…。


それに、透もさっきからわたしをちらっと見ては視線を外す。


挙動不審。わたしも透も。



「わ、わたし、帰るね」

「あ!ちょっと!」

「なに?」

「これ!」



“これ”と言って透が渡してくれたものは、チェック柄のシャツ。


「これ、着て行け」

「?…寒くないけど」

「いいから!」


強引に着せられた透のシャツはぶかぶか。


しかも、上から下まできっちりボタンまで留められる。



「五十鈴…ごめん」

「?なに?…謝ってるの?」

「いや…その…ごめん」

「…?」



変な透…と思いながら自宅へ。



「ただいま~」


「おかえり」

「おかえり~♪」



リビングの方から聞こえてくる、母と羽澄さんの声。


寒くも無いのに着せられたシャツのボタンを外しながら、もう一度二人の顔を見て「ただいま」と言う。


二人はわたしの顔を見て一瞬固まった。でも、ふふふっと突然笑い合う。


透も変だったけど、二人も変!


今日のわたしって何処ゥ違う?それとも、クリームがまだ口に付いてるとか…。


「五十鈴ちゃん、頑張ったんだ~~♪」と羽澄さん。


「あら、頑張ったのは透くんでしょう!」と母。


何の事を言われてるのかさっぱりなわたしに羽澄さんが自分の胸を指差してる。



(胸?)



同じように母も「ここよ」という感じに胸を指している。


首を傾げながらも、洗面所へ。



(まさか、胸にクリームなんて付いてる訳無いし…)



自分の姿を鏡で確認。



「――っ!!ひゃああああ~~~!!」



奇声を発しながらわたしは玄関を飛び出し、隣家に突入!!



「と~お~る~!!どこ~~~!!!」

「うわぁ、五十鈴!!だ、だから、ごめんって!!」

「謝って済むと思ってんのーーー!!」

「お、おまえが寝てたから、つい…」

「“つい”って、どういう事よ!!!」



もう、信じられない!!人が寝てる間にこんな事、普通する?


しばらく、口も利いてあげないんだからっ!!!



そして、わたしの胸には紅い花。

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