5月の日差しはポカポカ、お昼寝日和
休日の昼下がり。
お隣から聞こえてくるのはピアノの旋律。
「お母さん、なに作ってるの?」
母の柔らかい歌声と甘い香りが漂うキッチン。
「あ、五十鈴。今日はシュークリームよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
わたしは母の隣に立ち、一緒に作り始める。
「今日は、透くんね」
母の独り言。
聞こえてくるピアノの音に合わせて歌う母。
心地良い、その音は――。
透の音。
「五十鈴、出来上がったらお隣に持って行ってね」
「う、…うん」
「何かあった?学校で」
「別に、何も無いよ」
「じゃあ、透くんかな?」
「へ?」
母は、うふふと笑う「やっぱり、透くんか~」と。
出来たばかりのシュークリームを可愛くラッピングして、母はわたしに手渡してくる。
「五十鈴!!頑張ってね~!!」
(“頑張ってね~!!”って何をよ?たかが、お隣に持って行くだけなのに…)
玄関を出た所で羽澄さんと鉢合わせ。
「羽澄さん?」
「だって~、さっきから良い匂いなんだもん!!待ちきれなくって!!あ、鍵はかかってないから。頑張ってね~~♪」
「え?ちょっと、羽澄さん?」
ささっとウチに入って行く羽澄さん。「しぃちゃん!来ちゃった~!」と声が外まで聞こえてるって。
(でも“頑張ってね~~♪”って羽澄さんまで…?)
よく意味も分からないまま、わたしは白澤家の玄関のドアを開けた。