あなたの手に導かれて、わたしはここまで来た 2
前半side:五十鈴 後半side:詩帆
午後。
「五十鈴、まだ出掛けないの?」
と母が尋ねてきた。
「うん、もうすぐ出掛けるよ~」
午前中に透にマフラーを渡した時、午後から出掛ける約束をした。
「だったら、迎えに行ってあげれば?」
「ううん、違うの?今日は待ち合わせ!!」
「え?」
「じゃあ、行ってきま~~す!」
待ち合わせ場所は、駅の改札前。
行き先は、特に決まってなくて…。
いつもは迎えに来て貰ったり、迎えに行ったり。
でも、今日は“待ち合わせ”というものをしたくて…。
その事を透に話したら、笑われてしまった。
「それで、何時にどこで待ち合わせ?」
「そ、それは…」
もう!笑うなんて、ちょっと酷くない?
玄関を出て、時間を確認して待ち合わせ場所に向かう。
わたしが待つの?それとも、透?
どっちでも構わないよね。
目印は、青いマフラー。
* * *
「出掛けた?」
「出掛けたけど」
五十鈴が出掛けて少ししてから、はっちゃんがウチにやって来た。
「透と五十鈴ちゃん、どこへ出掛けたの?」
と、はっちゃんが訊いてくるけど、私も知らない。
さらに、はっちゃんは「透、マフラーなんてして行ったけど…」と話してくれる。
(マ、マフラー?――あ!あの、マフラーねぇ)
五十鈴が必死になって編んでいた姿が浮かんで来て、フフっと思い出し笑いをしてしまう。
はっちゃんがダイニングテーブルに座って頬杖を付く。
何となく、今日はミントティーが飲みたいな、と思いカップを用意する。
「ねぇ、しぃちゃん?」
「なに?」
「五十鈴ちゃん、本当に透でいいのかな~?」
「………」
はっちゃんたら、何を今さら…。
透くんが産まれた時、自分も女の子が欲しかった~と言って、“五十鈴ちゃんが透と一緒になれば、自動的に五十鈴ちゃんは自分の娘だ~~!”と言っていた人が…。
「でも、透くん。中学の卒業式の後、ちゃんと断ってきたわよ」
「な、何を?」
「高校に入ったら、五十鈴と付き合ってもいいですか?って」
「うそ?」
「その時は、五十鈴がいいって言えばいいわよって答えたけど」
「い、いつの間に…」
コトンっとはっちゃんの前にティカップを置くと、ミントの爽やかな香りが広がる。
「ねぇ、はっちゃん」
「ん?」
「二人が幸せなら、それでいいんじゃない?」
「うん、まぁね」
カップに口を付け、ひと口含んで、ゆっくり飲んでいく。
「はっちゃん、この先も色々あると思うけど――」
「しぃちゃん、迷惑ばかり掛けると思うけど――」
これからもよろしくね。