春の風は君を包んで離さない
side:透
結局、五十鈴は千星に連れて行かれてしまう。
先週から、毎朝こうだ。
千星は中学からの五十鈴の友達だ。
そして、千星とよく似た顔の男がここに――。
「おはよ!透!」
「あぁ、光星」
「今日も姉さん来た?」
「6日目だ」
そして、光星と登校する羽目になるのも、6日目だ。
「そうだろうね~。随分早く家を出てる事だし」
光星はニコっと笑って俺を見る。
「何とかならないのか?アレ」
「あ~~、無理無理!姉さん、五十鈴ちゃんの事溺愛してるから」
中学の入学式の日に千星は五十鈴の前に現れ、いきなり「私と付き合って!!」と言った。
五十鈴も五十鈴だ!「いいよ」なんて言いやがって。
「仕方ないよ。透が五十鈴ちゃんに告白なんかするから」
“告白”を千星にバラしたのは光星だ。
他人事だと思って楽しんでやがる。
「それで、五十鈴ちゃん、何て言ったの?」
「は?」
「だから『付き合ってもいいよ』とか『わたしも透の事好き』とか色々パターンが…」
「………」
俺は思い返してみる。
あの桜の花びら舞う校庭の片隅での出来事を。
「もしかして、返事貰ってない…、なんて事無いよな?」
「……」
あのまま、五十鈴と手を繋いで帰ったのを良い事にすっかり忘れてた!!!
「その話、本当ですの?」
背後から声。
そこには――。
「あ、麻生!!」
「白澤くん、偶然にも聞いてしまいましたわ」
(おい!本当に偶然かっ)
「この話、千星さんにお話しようかしら~?」
天使の微笑だ。いや違う!小悪魔の嘲笑だ!!
麻生は教室に着けば、じゃれ合う二人の下へ。
千星がちらりと俺達の方を見る。
ほんの一瞬だったが、フンと不敵な笑みを見せた。