魔法のスプーンで砂糖はいくつ?そんな紅茶を君に… 2
着替えを済ませて、階段を降りる。
ドンドンっと、足音で威嚇してみる。
先にリビングで紅茶を飲んでいる、透。
目が合う。
わたしの方は非難の目。
“むぎゅう”も、“ちゅう”も、慣れて来たけど、着替えを覗くのは別の話。
「透!部屋に入る時は、ちゃんとノックしてからにして!」
今日こそ、分かって貰わないと!!
「それより、五十鈴…」
むむぅ!わたしが大事な話をしてるのに、違う話に摩り替える気ね!
そうは、いかないんだから!!
「透!わたしの話!ちゃんと聞いてるの!」
「聞いてるよ、だから、俺の話も聞いて」
何よ!こっちは怒ってるのよ!なのに、ニコニコと楽しそうに笑って。
こんな事で怒ってるわたしが、可笑しい?
でも、きちんと言わないと!!
だって、――困る!
普通にしていられない。
全身が心臓になってしまったみたいに、ドキドキバクバクして変になりそう。
何より、問題は――。
触れたいと思う。
触れて欲しいと思う。
わ、わ、わわわ、わたしって、こんな事考えたりする子だったの~~っ!!
「五十鈴」
「ふへ?」
「顔が赤いけど…」
「!!――ぜ、全部、透のせいなんだからね!」
「?…それより、俺の話」
「な、何よっ!覗きはしないと言うなら、聞いてあげても良いわよ!!」
透は立ち上がり、わたしの前まで来る。
(?…?!――えっ!!!)
透の両手がわたしの胸元に伸びて来て、ボボ、ボ、ボタンを――!!
「ちょ、ちょっと、何するのよっ!!」
「ボタン、掛け違えてる」
ボ、ボタン?掛け…違えてる?
一番上のボタンは留められる事無く、一番下のボタンホールはボタンを留める事無く…。
見事に、一つずつボタンが、ずれてしまっている。
「五十鈴、上から順に留めて」
と上から一つ外していく透。わたしが正しい位置にボタンを留め直していく。
透の長く綺麗な指がわたしの胸に触れそうで触れない。
器用に全て外し終わる。
わたしは、その後を追う様に留めていくけど、指が震えて思うように留められない。
(う~~っ、情けない~~~!!)
透が“手伝おうか?”なんて言うから!
逆に意地張って、ボタンの多い服なんかを選ぶんじゃなかった!
それとも、最初から素直に着替えを手伝って貰えば良かったの?
「――五十鈴…」
「な、何…?」
わたしは顔を上げられない。顔が赤いって自分でも分かるし、ボタンを留めるのに必死で…。
「早く留めて貰わないと…」
「だから!今、やってるじゃない!」
震える指先で、これでも音速光速並みで頑張ってるのよ!
「五十鈴、ごめん…」
「へ?――な、な、ちょっと、何なのよ~~?!」
ボタンもあと一つって所で、キスの雨が降ってくる。
優しい雨なんかじゃなくて、まるで突然激しく降り出したスコールのよう。
そして、透に抱き上げられ2階に運ばれてしまう。
(う、う、うそ~~~~っ??!!)
せっかく、留めたボタンもまた全部外されて、二人してベッドの中へ。
(ど、ど、どうして、こうなるのよ~~~っ!!!)
その後、すっかり冷めてしまった紅茶を透と一緒に飲む。
――というのが、ここ最近のわたしの困った日常…。