魔法のスプーンで砂糖はいくつ?そんな紅茶を君に…
side:五十鈴
1月下旬。
学校から帰ると家には誰も居なくて…。
今年になってから、母は出掛ける事が多くなった。
それも、母は昨年末から近くの集会所で週一でやっているママさんコーラスに入ったからで。
大学では、声楽科という話は前から聞いて知っていたけど――。
“昔、しぃちゃんが歌って、私が伴奏をして…、なんて事もあったのよ~♪”
そんな事を、羽澄さんが言ってたっけ。
「詩帆さん、出掛けてるの?」
「うん、ママさんコーラスだよ」
母の事を尋ねてきたのは、透。
いつもと変わらない。一緒に学校に行って、一緒に帰って来る。
そして、今日も…。
透がエアコンにスイッチを入れ、リビングを暖めてくれる。
その間に、わたしは2階へ行き自分の部屋で着替え。
今日も、リビングへ行く頃には透が温かな紅茶を淹れているはず。
それを飲みながら、今日の復習と予習を透に見てもらう。
――というのが、ここ最近のわたし達の日常。
そして、わたしはまだ部屋で着替えの途中。
コートを脱いで、ブレザーも。
次に制服のブラウス。なのに、指がかじかんで、ボタンが上手く外せない。
はぁーっと、息を手に吐き、もう一度ボタン外しに取り組む。
「手伝おうか?」
「?!――な!なぁ~~~~~っ!!」
振り返ると、ドアの所に着替えを済ませた透が立っていて、中に入って来る。
「ボタン、外せないんだろ?」
「な、何!言ってるの~!!一人で出来るってば~~っ!!」
透の視線が少し下へ移る。
「あ、――白」
「へっ?」
どこを見て“白”なんて言ってるの?…―って、うわぁ~~ん!!
ボタン!上から3つ外した所だ~~~!!!
ブラの白いレースがチラリとイイ感じで見えてるじゃなーーいっ!!
「俺、白も好み」
「~~~~~~っ!!!」
“白も好み”って。
べ、別に透の好みに合わせて着けてる訳じゃ…。
「――じゃなくて!早く、出て行ってよーーっ!!」
全く、信じられない!
着替えを覗きに来るなんて!
あれ?――先週も同じ事、あったような…。