コタツで昼寝する君を見ながら、蜜柑を食べて寛ぐ俺
side:五十鈴
1月。
今日から、3学期。
なのに、このモヤモヤとして気持ちは…。
全てはこの左手の薬指にあるモノのせい?
(選りにも選って、左の薬指とは…)
石鹸で!何度も何度も洗ってもダメだった。
この休みの間、誰にも気付かれないように頑張ったのに…。
どうして、外れないの?
という訳で、わたしはピンクの手袋を外せずに教室の席に座っている。
「おはよっ!五十鈴!」
「おはよう、五十鈴さん」
「おはよ…、千星ちゃん、つかさちゃん」
二人はわたしの様子がいつもと違うのをこの一瞬で察知したようで。
「あら、可愛いわね、その手袋」
「うん、ありがと!」
手袋を褒めてくれる、つかさちゃん。
自分でもパっと顔が明るくなるのが分かる。だって、透からのプレゼントだもん。
「その手袋外さないの?」
と、今度は千星ちゃん。
確かにもう教室に居る訳だし、いつまでも嵌めたままというのも…。
仕方ない…。
思い切って手袋を外すと、先に気が付いたのはつかさちゃん。
「素敵な指輪ね。タンザナイトかしら?プレゼントなの?」
「え…うん、まぁ…その~…透…の――」
「はぁ?白澤が五十鈴に~~っ!!許せな~~いっ!!!」
さ、最後まで話を聞いてよ!と思っても時すでに遅し。
千星ちゃんは隣のクラスへ「白澤~っ!出て来~いっ!!」と大きな声を発してまさに単独なぐり込み。
何となく、こうなる事は分かっていただけに…。
だから、手袋を外すの嫌だったと言うか…。
一方、つかさちゃんはいつもと変わらない微笑を浮かべ
「ねぇ、その指輪、どうなさったの?」
と、訊いてくる。
「透のお父さんからのプレゼント。えーっと誕生日兼、クリスマス兼、お土産兼、お年玉…」
「そ、そうなの…」
少し唖然としながらも微笑を絶やさないつかさちゃん。
つかさちゃんなら、何か良い外し方を知ってるかもと思い、外したくても外れない事を伝えてみる。
「そうね~、最終手段としては――」
(さ、最終手段…?)
「切ってしまう、という方法があるけど…」
「へ?切るぅ?」
「消防署で切って貰えるらしいわよ」
「しょ、消防署?き、切るんだったら病院じゃないの?」
見る見る血の気が引いていく。
切るって切るって……、それはやり過ぎ!
だから、病院は嫌いなのよ~~~っ!!!
「五十鈴さん、切ると言っても指輪の方だけど」
「なっ?!」
「でも、切ってしまうと…ねぇ、指輪としては…」
「――う~~ん…」
つかさちゃんは色々教えてくれる。
糸を巻き付けて取る方法とか。
むくみがあるなら、少し水分を控えてみるとか。
少し痩せれば、指も細くなるとか。
「痩せよう…かな…」
「絶対!ダメよ!!」
「ダメだからなっ」
千星ちゃんが息を上げて戻って来た。透を引き連れて…。
透の制服が少し乱れてる。取っ組み合いの喧嘩でもしてきたの?
「五十鈴!どうして、言わなかったんだ?指輪の事!」
だって、言えないよ~、透。
馨さん、ずっと気にしてたし、しかも気にしたまま海外でお仕事でしょう。
「え~っと、少し痩せてもいいと思うんだけど…。この冬休みで太ったし…」
「だから、ダメだって言ってるでしょう!!」
「痩せるなんて、ダメだからなっ!!」
どうして、こんな時に限ってこの二人は意見が合うの?
困った顔で「どうしてよ~?」と訊くと――。
「「抱き心地が悪くなるっ!!」」
一瞬、時間が止まった。
最初にこの空気を破ったのは、つかさちゃん。
ぷっと吹き出し、クスクスっと笑いが止まらない。
何も涙を浮かべながら、そんなに笑わなくても良いと思う。
何か言ってやらないと、わたしだって気が済まないよ。
「透も!千星ちゃんも!な、何、言って――」
――って、所で先生が教室に入って来て、急いで透は隣の教室に戻るし、千星ちゃん達も自分の席に着く。
わたしのモヤモヤは増すばかり…。
どうやら、あの時の母が追い払った暗雲は、わたしの頭上で雷雲になりそう。
――帰りに。
つかさちゃんは朝の出来事を事細かく、その場に居なかった光星くんに話してしまう。
「俺も見たかったなぁ。姉さんと透のユニゾン」
虫の居所が悪かったんだと後になって思う。
雷雲は雨雲と一緒になり、風を呼び嵐に変わる。
「光星くん!そんな事、よく言えるよ!!私の気持ちも知らないで!!」
もう、泣きたいよ。
たかが指輪、されど指輪。
だけど、どれだけ一人で悩んだと思うのよ~!!
「五十鈴ちゃん、ちょっと手を」
「ん?」
光星くんに手を取られ、されるがままに。
「力を抜いて、指は…ここ少し曲げて」
「こう?」
「痛くても、少し我慢して」
「う、うん…」
……あっ!!
抜けた!!!
「光星く~ん!ありがとう!!凄~~く嬉し~い!!」
本当に嬉しくて、形振り構わず光星くんに抱き付いてしまった。
「ごめんね、ヤツ当たりなんかして」
「いいよ。はい、コレ」
光星くんは、わたしの手のひらの上に指輪をそっと乗せてくれた。
こうして、わたしの頭上にあった暗雲はどこかへと去って行った。
でも、暗雲は雷雲となり、雨雲と一緒になって、風を呼び、嵐に変わったはず…。
「光星、あんた!五十鈴に何、抱き付いてるのよ!!」
「え?姉さん?だって、あれは五十鈴ちゃんから抱き付いて来た訳で…」
「例え、五十鈴からでも、相手がおまえだと思うとな!!」
「はぁ?透?お、おまえまで何言ってるの?見てただろう?完全に五十鈴ちゃんから…!!」
「「見てただけに、悔しいだろう!!」」
どうやら、わたしが造り上げたしまった嵐は光星くんの頭上に移動してしまったようで…。
そして、最後に五十鈴ちゃんがひと言。
「良かったわね、穂高くん。二人のユニゾンが見れて」
と、天使の微笑みをくれた。