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変わりゆくものを、大切にしたい 2



一瞬、きょとんとした顔をして首を傾げる、羽澄さん。


気分良く飲んでいた父が「げげっ!」と驚きの声を上げて――。



「言うな~!!羽澄~!!絶対、言うな~~っ!!」



と懸命に阻止しようと声を荒げている。


しかも、少しずつ泣きが入ってくる。そんな父に母が「勇くん、泣かなくてもいいのよ」と、まるで子供を相手にしてるように優しい声を掛けている。


完全に父は酔っている。


あれで、実は父は泣き上戸。


そして、羽澄さんはニヤっと目を細める。



「高校ん時、太ってたから、それで“トンちゃん”!」

「へ?」

「太ってたの!私が最初に“トンちゃん”って呼んだのがきっかけなのよ~」

「…え~っと…そうなんだ…」



案外、あっさりとした回答に力も抜ける。



「頭も良くて、体型に似合わず運動も出来て、クラスの皆から人気もあって、先生からも信頼されていて、絵に描いたような優等生」

「――ふ~ん…」



わたしから見れば、父は少しそそっかしくて、お茶目な人というイメージが。



でも、太っていたなんて、知らなかったし、今は痩せているし、想像も出来ない。


「そんな、トンちゃんが…」

「な、何でしょう…?」

「恋をしちゃってさ」



(はぁ~?恋?――恋って…)



「隣のクラスの…あ~、え~っと、確か、リョウコちゃんだったかな~?」

「そ、それで…」

「勿論!」

「もちろん…?」

「玉砕よ~~~~~っ!!!!」



そう言って、羽澄さんはゲラゲラ笑い出す。


昔の事を思い出しては、ヒーヒーっと笑いが止まらない。


羽澄さんって、笑い上戸だったっけ…。



「ぎょ、玉砕って…?」

「まさに当たって砕けて!復活不可能!!ものすご~く落ち込んじゃって~!可哀想過ぎるって言うか~~~っ!!!」



笑い過ぎて、呼吸困難寸前の羽澄さん。



「だって~、振られた理由が“太ってるから”って言うんだも~~んっ!!」

「そ、それだけ…?」

「そう!トンちゃん本人は自信があったのよ。好かれてるって!」

「それで…」

「だから~、言ってやったのよ!!人間、所詮“外見”だって~!!」

「え?――えぇっ!!!」

「だって、そうでしょう?初めて会う人の、どこを見る?」

「それは…やっぱり…顔とか?」

「ね?五十鈴ちゃんも、外見から入るでしょう?」

「う~~」

「第一印象って、所詮“外見”だ!ってトンちゃんに言ったのよ。初対面で内面の良さなんて、超能力者でもない限り分からないんだから~~!!」

「ちょ、超能力者…ですか…」

「“外見”が自分の好みという所から、相手に対して興味を持つ。で、次に相手の性格や考えてる事なんかを知りたいって思うんじゃないの~!」

「は、羽澄さん、それ…お父さんに…話し…たの…?」



羽澄さんの目がギラっと光った!



「それ以来、トンちゃんったら、ダイエット宣言しちゃって、高校卒業する頃にはすっかり痩せちゃって、イイ男になるんだもーん!」



と、かなり不満げな顔をする。でも、わたしも協力したのよ~~!と言う羽澄さんに父が――。



「おまえは、俺の邪魔ばかりしてただろう!!」

「何、言ってんの?結果オーライよ~!!」



(…一体、どんなダイエット法だったんだろう?)



訊くべきか、訊かぬべきか。



そんな事を考えていると、母がすっと羽澄さんの前に立つ。



「ねぇ?はっちゃん。“リョウコちゃん”って誰?確か、前にこの話聞いた時は“サヤカちゃん”だったはずだけど…」

「なっ?!そ、そうだっけ?え、え~っと、そう!そうよ!!“サヤカちゃん”!“サヤカちゃん”だった~!!」



慌てる羽澄さんとマズいという顔をしてる父。


こめかみをピクっと、させている母。



「今まで、何度もその話聞いてるけど、聞く度に違う女の子の名前なのは、どういう事?はっちゃん?勇くん?」



結論。


父は“リョウコちゃん”以外にも“サヤカちゃん”にも告ってたという事。


そして、他にも多数居たっていう事よね…。


過去の失恋話とは言え、毎回違う女の子の名前が出てくるのは、母にとっては面白くないようで…。



この3人の力関係は昔から――。



『父<羽澄さん<母』



そして、今も、これからも……。


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