表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/55

変わらないものを、守ってあげたい

side:五十鈴


12月は――。


誕生日、クリスマスイブ、クリスマス、誕生日の順でやってくる。


最初の誕生日は、わたしの16回目の誕生日。


最後の誕生日は、あいつの16回目の誕生日。


怒涛の4日間。


――じゃなくて、1年で一番我が家が盛り上がる日。


わたしも母と一緒に準備を手伝うのに、今年は…。


ゴホゴホっという咳と、微熱でボーっとする頭。


しかも、意味も無く目はウルウルしてくる。


今日から冬休みなのに…。


わたしの誕生日なのに…。


日頃の行いが悪い?ま、まさか、わたし、悪い事なんてしてない、…と思う。






トン…トン…っと遠慮がちなドアをノックする音。



「お、お母さんっ?わたし、絶対、病院には行かないからねっ!!」



と言い放ち掛け布団を頭から被り、布団の中でゴホゴホっと咳をする。



「相変わらず、病院嫌いなんだ」



ドアが開く音と、母ではなく愛しい人の声。



「と、透!!べ、別にいいじゃないーーっ!!」



今度は布団を跳ね除けるようにガバっと起き上がる。


そして、またゴホゴホっと咳が出てなかなか止まってくれない。


苦しくて、涙が出て来るわたしの背を優しく擦ってくれる手は大きくて温かい。



「早く治したいなら、観念して薬飲めばいいのに」

「ゴホっ…、な、何言ってんの?し、自然治癒が一番なんだから!!」

「その薬嫌いも、いい加減にしろ」



(うっ――!!!!)



真顔で言わないでよ!!分かってる!!自分でもちゃんと分かってる!!


わたしは大の病院嫌いな上に、薬嫌い。小さい頃から医者もダメ!


だって、予防接種の時、先生が「痛くないからね~」なんて嘘付くんだもん。


それなら「痛いから我慢しろ!」って言われた方が……。ど、どっちも嫌だけど。



「とにかく、詩帆さんから頼まれている」



そう言って、錠剤タイプの風邪薬の箱を見せ付けてくる。


そうなのだ!母はいつも透に頼んで無理にわたしに薬を飲ませる。


いつの間にか、透はわたしの薬を飲ませ係りになっている。



「少しでも良くならないと、ケーキも何も食べれないぞ!」

「そ、それは…ヤダ…」

「今日は五十鈴の誕生日だろう。いいのか?おまえ抜きで、この4日間始まるぞ!」

「それも……ヤダ!!」



だって、1年で一番楽しみにしてる4日間。


ご馳走を作って、ケーキも作って、他にもたくさんおスイーツをここぞとばかりに食べ尽くす。


わたしは、この4日間の為に生きている――と言っても過言ではない!!



「だったら、少し食べて、薬を飲む事!」

「………」

「今なら、もれなくプリンが付いてくる」

「!!――ププ、プ、プリ…ン?!」



透が一瞬悪戯っぽく笑う。甘いモノに弱いわたしは毎回同じ手で簡単に堕ちてしまう。



「さらに、バニラアイスもあるけど」

「~~~~~っ!!バ、バニラ~~っ!!」



風邪を引いていても甘いモノは別!!絶対、別よ!!


食欲が無い分、こういう物の方が食べたくなる。


でも、……薬~~~~っ!!飲みたくな~~~~いっ!!



「最終告知」

「ほへ?」

「薬を飲むか?それとも――」

「そ、それとも…?」

「飲んでみるか?俺の愛」



はぁ~?愛ぃ~?俺の愛って、なにぃ~?



「それ、どうやって飲むのよっ?」



うわっ、何言ってんのよ~~!!


そんな事、訊きたいんじゃなくて!!


どうして、思う事と言う事が違うのよ~~!!



「こうやって――」



い、いきなり実演なのーっ?!


近付かないでーっ!何で“愛”って、キスの事なのーーっ!!



「ととと、透のバカ~~!!くくく、薬、飲む~~~っ!!!」



今にも触れ合う寸前で、思い切り透を突き飛ばしてしまう。



「複雑だな。俺の愛より、薬を選ぶとは」



少し残念そうに、だけど思惑が成功したのかニヤっと笑っている。


そして、わたしの手のひらの上には、2錠の白い薬。


意を決してそれらを口の中に放り込む。



「うっ!!うぬ~~~っ!!!!」

「五十鈴!!何やってんだ!!水、早く水飲めって!!」




手渡されたミネラルウォーターの入ったペットボトル。

ぷは~っと飲み干し、ケホケホっと咽る。



(う~~っ!わたし、何やってるんだか!!)



でも、飲んだもんね!飲んだんだからね!!



「透っ!!」

「な、なに?」

「プ」

「ぷ?」

「プリンとバニラ!!」

「は?」

「今すぐ、持って来なさ~~いっ!!」



苦い薬の後は、愛よりも甘いモノ。


こんな、わたしでごめんね…。










「はい、あーん」

「………」



しかめっ面してるわたしの前に、冷たいバニラアイスが乗ったスプーンが運ばれる。



「ほら、口、開けて!あーん!」

「ひ、一人で食べれるけど…」

「五十鈴が悪い!俺の愛よりアイスやプリンがいいなんて言うから!」

「だって、こっちの方が美味しいもん…」



そう言いながらも、溶けて落ちそうになるアイスをパクっと食べる。


熱で火照った身体にすーっと滲みこんで行く。



「俺の愛だって、旨くて甘いに決まっている!」

「へ?」

「治ったら、たっぷり喰わせてやる!!」

「………」



どうやって?――なんて、いくらわたしでも2度も訊かない。


目を見れば分かる。透は本気だ。


次は、まさか胃薬?


薬はもう懲り懲りなんだけどね…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ