それは、もっと好きになる――おまじまい
side:五十鈴
11月。
今日もいつもと同じで変わらない日だと思っていた。
朝一緒に学校に行って、帰って、ご飯も一緒に食べて、宿題も分からない所を教えて貰って。
リビングで教科書を睨んでるわたしと寛いでる透。
「透くん、コーヒー飲む?」
と、母が声を掛けている。
「はい、頂きます」
と、透が答えると母はすぐにトレイにのせて持って来る。
「いつも、ごめんなさいね。五十鈴の勉強見てもらって」
母はにっこり笑ってる。透も笑い返してる。
(どうせ、わたしは頭良くないわよ~)
唇を尖らせ、ちびちびとコーヒーを飲むわたし。
そして、透が帰る時は見送りにいつも玄関まで行く。
ここでも、いつもと同じで「じゃあ、また明日」と言うので「うん、明日ね!おやすみ」と。
わたしの言葉を毎回変わらない。だけど、違ったのはここから先。
靴を履いて透が顔を上げた、目が合う。
すっと、伸びてきた透の手がわたしの左頬に触れて、次に“ちゅ”っと唇に。
「ただいっ――まっ!ま、ま、うわぁーーっ!!!」
「お、お、お父さ~~~ん?!!!!」
タイミング悪く帰って来た父。
見られた?思い切り、見られたよ~~っ!!
父は青い顔をしてワナワナと震えている。そこへ、母が「どうしての?」とやって来る。
「お、おまえ達!!――こっちに来いっ!!」
母は「何?どうかしたの?」と訊いて来るけど、今ここでは、ちょっと。
透はさっきから表情は変わらないから、何を考えてるのやら。
わたしは“うわぁ~~~ん”って感じで冷や汗がダラダラ。
さらに、羽澄さんもピアノ教室から帰って来て、父を前にわたしと透、そしてその両端にそえぞれの母親達。
この異様な空気を完全に無視して羽澄さんが――。
「なになに~?どうしたの~?トンちゃん」
“トンちゃん”――それは、父の学生時代のあだ名。
「は、羽澄!!いい加減!!ソレで呼ぶな!!」
「えぇ~?いいじゃな~い!見た目は変わっても、トンちゃんはトンちゃんなんだも~ん!!」
父は眉間に皺をグっと寄せている。それでなくても機嫌が良くないんだから、火に油を注ぐようなもの。
「ねぇ、勇くん。本当に何?透くんと五十鈴、何かしたの?」
と、今度は母。
“何かしたの?”って、わたしは答えないから!答えられないからっ!!
「“ちゅ”ってしてる所、見られたなんて言えないから~~!!!」
「………」母。
「………」羽澄さん。
「………」透。
「!!!」父。
なっ?なに?みんな、なに?何で、みんな、わたしを見るの?
さらに汗が全身からぶわ~っと…。
「五十鈴…、声に出てるから…」
隣に座る透が少し呆れた声でぼそりと言う。
「へ?――わ、わたし、何も言ってない。言ってないよ!ね?ね?」
「いや、言ったから…。はっきりと言ったから」
(うっ、ううう~、嘘~~~~~っ?!)
思わず、頭を抱え項垂れてしまう。
「な~んだ、そんな事~」
「何事かと思ったわよ」
と、両端に座る母と羽澄さんが声を揃えて言う。
「てっきり」
「てっきり」
「「ね~」」
母親同士で何が“ね~”なのよ~~!!
それに“てっきり”って何?何なのよ~~~!