深まる秋と深まってゆく想い
side:透
10月。
あれは、いつの頃の話だったろう?
嫌なヤツが居て、学校にも行きたくなくて…。
でも、必ず決まった時間にあいつがやって来て
「一緒に行こう!」
と迎えに来る。
羽澄がやたらと可愛がるあいつは朝から元気だ。
「どうしたの?早く行こうよ~!遅刻するよ~!」
と部屋に篭ってる俺に言う。
「悪いのは向こうでしょう!気にする事無いって!!」
どうやらあいつは喧嘩の原因を知ってる様子。
「でも、怒ったり悔しがったりする事も大事。だって、そういう気持ちも時には頑張るパワーになるもんね!」
そう言って、無邪気に笑う。
「じゃあ、今日から別々に行こうっか?」
「先に行くね」と玄関に向かい「行ってきま~す!」と羽澄に声を掛けている。
何だろう?
目の前の靄が晴れていくような、感じは…。
バタバタと歓談を降りる。
羽澄が「な~んだ、行くんだ?」と訊いてくる。
「悪いかよ?」と横目で睨む。
靴を履くのもそこそこで、走り出す。
あいつの背中、目指して――。
ふと、あの頃の事を思い出した。
クラスのヤツと喧嘩したんだ。でも、喧嘩の原因は忘れて思い出せない。
所詮、その程度のものだったのだろう。
ただ、あいつの言葉で気持ちが軽くなって、負の感情も悪くないのだと認めてくれる。
俺が俺らしく居られる場所は――。
あいつが居る場所。