想いは空に溶けて、天より降り注ぐ
side:五十鈴
9月。
見上げた晴れた空に、気持ちも晴れていく。
2学期が始まった。
いつものように、白澤家のチャイムを押す。
すると、真っ先に羽澄さんが出てきて
むぎゅう!
これも、いつもと変わりない朝の挨拶。
「おっはよ~!五十鈴ちゃ~ん♪」
「おはようございます。羽澄さん」
と言って、わたしもお返しに“むぎゅう”とした。
「い、五十鈴ちゃんっ?」
「はい、何ですか?」
にっこり笑って答える。
どうかした?羽澄さん。
少しびっくりした顔でわたしの事見てる。
わたし、朝から何かした?
そして、通学路。
透と並んで歩いていると、いつもの所で千星ちゃんが待っている。
高校に入ってから千星ちゃんはこうして迎えに来てくれる。
「五十鈴!行くよ!」
「お、おはよ…。千星ちゃん」
わたしは手首を掴まれ、ちょっと引き摺られるように歩く。
千星ちゃんはわたしより10cmも背が高い。
足の長さが違うから仕方ないのかも。
振り向いて、後ろに居る透に目で“先に行くね”と合図を送った。
学校につ着くと、つかさちゃんと光星くんが廊下で話してる。
「おはよう!つかさちゃん!光星くん!」
二人に声を掛けると、つかさちゃんが――。
「あら、千星さんったら、これからも続けるつもりなの?五十鈴さんのお迎え」
「………」
千星ちゃんの無言の返事。
何も言わない千星ちゃんって、怖い…。だから、ここは、わたしが!
「わ、わたしも前から言ってるんだよ!千星ちゃんは遠回りになるし、朝だって忙しいでしょう!だから“いいよ”って言ってるのに…」
「五十鈴は私に来て欲しくないって言うの?」
「へ?そ、そういう意味じゃなくて…」
「私ではなく、アレと一緒に居たいって言うの?」
アレ?…アレって?
千星ちゃんの指す方に視線を向ける。
そこには少し遅れて登校してきた透がこっちに向かって来る。
「嫌だわ~、千星さん。五十鈴さんは白澤くんのですもの。一緒に居たいわよね~?」
と、うふふっと微笑んでつかさちゃんは言う。
いきなりそんな事言われて、何の話か分かってない筈なのに透は――。
「俺のものじゃなくて、俺が五十鈴のものだから」
そう言って、教室に入って行く。
しかも、さらっと真顔で…。
(と、透?熱でもあるんじゃない?)
聞いてしまったこっちが恥ずかしいというか、赤面ものっていうか。
わたしが今にも熱が出て倒れそうだよ!
「あ、あのね…。どっちがどっちのものとかって…」
しどろもどろで、自分でも何を言いたいのやら、上手く言葉が出て来ない。
「五十鈴は何処にも行かせないんだから~~!!」
「何処にも行かないよ!千星ちゃんとはずっと親友だからね!!」
突然、千星ちゃんに抱き締められ、思わずわたしも抱き締め返す。
すると、あっさり千星ちゃんは腕の力を緩めて解放してくれる。
その隙に「鞄、置いてくるね」と言って、千星ちゃんの反応なんて気にもせず、わたしは教室に向かった。
わたしが、教室に入った後。
つかさちゃんが千星ちゃんに言う。
「良かったわね。朝から熱い抱擁を返して貰えて」
「ずっと、親友って…」
「当然ね。親友以上になんてなれませんわ」
「やっぱり…、なれないの?」
そして、光星くんが千星ちゃんに言う。
「姉さん、親友以上のものって、何?」
「う、うるさいっ!何だっていいでしょうっ!!」
(姉さんって、一体五十鈴ちゃんの何になりたいんだろう?)
そんな疑問を光星くんに残していたなんて、勿論わたしは知る由もなかった…。