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チイサナ・ユウキ

side:五十鈴

行きと同じで自転車で二人乗りで帰る。


日は傾いてきてるけど、暑さは変わらない。


さっきまで、涼しい店内に居たせいもあって軽い立ち眩みでもしそうなほど。


氷もドライアイスも沢山入れたから、食料は大丈夫だと思うけど…。


「急いで帰ろうね」と、わたしは透の背中に向かって言うと「あぁ」と、答えペダルを力強く踏む。



(こういうの、いいかも…)



近い将来、透に自転車に乗せて貰って、二人でスーパーへお買い物。



(――想像するだけなら、いいよね)









自宅に着くと、透は自転車を自分の家に置きに入ってすぐに戻ってくる。



「おまたせ」

「うん」



「五十鈴~~~~~~~~~っ!!!」



遠くの方から、わたしを呼ぶ声。


オーバーな表現かもしれないけど、砂煙を上げて猛スピードで何かがこっちに近付いて来る。


それは、自転車に乗った女の子で…。



キーッキキーーーッ!!



目の前を横滑りで止まるその姿は、まるで映画かドラマのアクションシーンさながら。


彼女なら絶対スタント無しのアクション女優になれるよ。


――って、あれ?千星ちゃんだ~~!!



「千星ちゃん!どうしたの?」

「五十鈴!乗って!!」

「へ?」

「いいから!!早く乗って!!」

「な、なに?」

「えいっ!!」



腕を掴まれ、自転車の後ろに乗せられる。


座った途端また猛スピードで走り出す。これって自転車だよね?と疑うほど。



「ち、千星ちゃ~~~~ん??!!」

「しっかり、掴まってるのよ!」



(何?何?何?な、何なのよ~~~?)



振り返ると、透はスーパーの袋を持ってその場に立ったいる。



(ごめん!透!買った物、冷蔵庫に入れといて~!)



あっという間に小さくなっていく透の姿にわたしは心の中で謝っていた。




     







着いた場所は、穂高家。


「ただいま~」と千星ちゃんは入っていくけど…。わたしはその場に固まったまま。



「さ、五十鈴もそんな所に立っていないで、入ってよ」

「う、うん…」


「姉さん!いきなり出て行って――って、五十鈴ちゃん?!」



珍しく光星くんが大きな声を出してる。しかも、不機嫌っぽい。マズい所に来ちゃった~?



「まさか、本当に拉致って来るとは…」



そして、今度はがっくり肩を落とす。



「何、言ってるの?光星!拉致だなんて、人聞きの悪い!救出よ!救出!!」



(ら、拉致~~っ?わたしって拉致られたの~~?)



千星ちゃんは救出って言ってるけど、あれは、救出だったの?


でも、何から?


そして、もう一人、ふわっと現れたのは――。



「つ、つかさちゃん?!」

「いらっしゃい、五十鈴さん!」

「あれ?でも、どうして、つかさちゃんがここに居るの?」

「あまりに可愛い若夫婦を見かけたので、千星さん達にご報告に来たのよ」



そう言って、わたしの手を取る。


つかさちゃんの言ってる事が分かんなくて首を傾げる。



「ごめんなさいね、さっき、五十鈴さん達と会った事、千星さん達に話したらいきなり出て行くんですもの」



手を取られたまま、わたしにニッコリ微笑むつかさちゃん。



「せっかく、白澤くんと二人っきりで過ごしてるのに、邪魔してしまったわね」



つかさちゃんは微笑を浮かべたまま、視線は何故か千星ちゃんの方へ。



季節は夏。


そろそろ夕方とは言え、まだまだ暑いはず!なのに、感じるのは冷気。


千星ちゃんからドライアイスのようにゆらゆらと白いものが今にも見えそうな…。



(ぜ、絶対零度?!)



つかさちゃんはフフっと笑み、光星くんは片手で顔を覆い隠している。


千星ちゃんは腰に手を置いて――。



「五十鈴も五十鈴!おばさん達が旅行で出掛けるなら、ウチに来ればいいものを!!」



(え?え?千星ちゃん?)



「あんなヤツと5日間も!!…って言うか、すでに4日目だし――っ!!!」



“4日目だし”と途中まで言いかけて、千星ちゃんは急に黙ってしまう。



「五十鈴…。ま、まさかとか思うけど……何も無い?よね?」

「?――何も無いって、何が?」



一瞬、空気の流れが止まったような…。


でも、わたしが“何が?”と聞き返した途端、すぐに流れ始めて。



「相変わらず、白澤くんも情けないわね。手を出さないなんて!」



と言って、チっと舌打ちをする。


誰が?え?え?――つかさちゃんが~?


わ、わたしの見間違いよね?聞き間違いよね?そうよね?


そそそ、そういう事にしておこう!!!


それより“手を出さない”って、そういう意味よね?


わ、わたしの事、そんな風に見てるの~~?



「ななななな、何、言って――そ、そんな、こと…」



口はパクパク動くだけで、言葉が出て来ないじゃないっ!!



「とにかく、こんな玄関先で話のも何だから入ってよ、五十鈴ちゃん」



光星くんはキッチンに向かって行く。



「そうそう、五十鈴!今夜は餃子なんだよ!た、食べってよね!」



千星ちゃんが光星くんの後に続いて行く。



「私は、この辺でお暇するわ。またね、五十鈴さん」



つかさちゃんは帰って行く。









穂高家は両親共働き。


家事を分担して、千星ちゃんも光星くんも交代でご飯を作ったりしている。


今夜は餃子。


手馴れた手付きで餃子の具を皮に包んでいく光星くん。


千星ちゃんは“忘れてた!”と言って2階のベランダへ。


洗濯物を取り入れに行ったまま降りて来ない。



「て、手伝うね」



と、わたしも何かしてないと落ち着かない。餃子作りをし始める。



「五十鈴ちゃん」

「な、なに?」



ちょっとビクっとなってしまった。


光星くん、怒ってる?いつもと感じが違うんだけど…。なんだか、ムスっとしてる。



「好きな人が、自分の事を好きになってくれたら嬉しいよね?」



それは、確かに嬉しいと思う。だから、コクコクと頷く。けど、突然何の話?



「相手の心が手に入ったら、次は何が欲しくなる?」

「へ?」


「俺だったら、その子の身体が欲しくなる」

「――なっ?!こ、こ、光星くんっ!!!」


「次は一緒に居たいと思うから、その子の時間が欲しくなる」

「………」


「最後には、その子の未来も手に入れたくなる」

「………」


「五十鈴ちゃんはどう?女の子も同じ事、思うのかな?」

「…そ、それは…」



理解出来ない事もない。でも急にそんな話されても答えなんて出て来ない。


好きな人が出来れば、身も心も欲しくなる。


そして、相手も同じ想いならこの上ない喜びに違いない。


そして、全てを奪いたいと思うし、奪われてもいいと思う。



「五十鈴ちゃん、透が迎えに来たら帰るよね?」

「え?あ、――うん」



考え込んでしまっていた。


こんな時って妙に気恥ずかしいと言うか。


光星くんはついさっきまで不機嫌だったのに、今は明るくいつもの笑顔を見せてくれている。



「じゃあ、はい!これ!」



手渡されたのは光星くんの携帯電話。



「五十鈴ちゃんが“迎えに来て”って言えば、あいつ、光速で来るよ」



(光速って…。いくら何でも…)



少し呆れたけど、ちょっと想像してみる――光速でやって来る透を。



(可笑しいかも…)



噴出しそうになるのを我慢する。だって、光星くんがわたしの事を見てククって笑ってるんだもん。



「わ、笑わないでよ~!!」

「五十鈴ちゃんって、やっぱり可愛いと思ってさ」



言い返したいけど、ここは止めておいた方が無難。


顔がだんだん赤くなるのを自覚しながら、わたしの指は透の携帯番号を押していた。








     


匂坂家も夕ご飯のおかずは餃子。


あの後、すぐに迎えに来てくれた透。またまた、自転車の後ろに乗る事に。


「やっぱり、帰るね」と、告げると千星ちゃんは「何かあったら絶対連絡してくるのよ!!」と言ってむぎゅうっとされてしまった。


光星くんは「五十鈴ちゃんも手伝ってくれたんだから、コレどうぞ」と言って餃子をくれた。






その夜。


わたしは「疲れちゃったから先に休むね」と言って早々にベッドに潜り込んだ。


でも、頭の中ではグルグルと光星くんの言葉が巡っている。


眠れぬ夜になってしまった…。


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