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トキメク・ココロ

side:透→side:五十鈴→side:透

翌朝早く、勇斗さんは仕事に戻って行った。


朝食後、洗い終わったお皿を食器棚に片付けながら五十鈴は一人ごちに話し始めた。



「さっきね、お父さんが仕事に行く前に“まだ、じいさんにはなりたくないから気をつけろ”って言ってたんだけど、あれってどういう意味なのかな~?」

「?!――っ!!!」

「変よね~。お父さんってまだ40過ぎで“おじいさん”って感じには見えないよね?」



う~んっと、という感じで考え込んでいる五十鈴。


本当に分かってないのか?と詰め寄りたくもなるが…。


逆に考えれば、気を付けてさえいれば、それでいいのか?と思ってしまう。



「五十鈴」

「…ん?」

「わ、分からないなら、また今度の時にでも勇斗さんに訊けば?」

「う~~ん、そうする。…あ!それより、今日はどうする?」

「なにが?」

「透に予定が無ければ付き合ってよね!買い出し!今日は何食べたい?」



五十鈴自身、分かってやってないから困り者だ。


にっこり笑って“何食べたい?”と言われたら、目の前に居る特別級の可愛い笑顔を見せ付けているモノを食べたいと言いたくなる。


でも、そんな事を考えてるなんて、おくびにも出さない。



「五十鈴が作るものなら何でも――」

「えー?本当に何でもいいの~?」



という訳で五十鈴を二人で出掛ける事になった。






*   *   *






行き先は、大型ショッピングモール。


最上階には映画館もあるので、午前中は映画を観て、お昼はそこで食べて、午後からお買い物をして帰る。


そういう事に決まった。



「自転車で行くの?」



準備が出来、玄関を出たら透が自転車に乗っていた。



「この暑い中を歩いて行くつもりか?」

「そ、それはイヤかも…」



確かに、真夏の太陽は灼熱の炎。


一歩でも外に出ると眩しくて目がチカチカする。



「もしかして、後ろに乗れって事?」

「当たり前だろ」



あ、当たり前って…。断定なのが気に入らないと言うか…、嬉しいと言うか…。


わたしって、どっち?



「早く乗れよ」

「う、うん」

「しっかり、掴まって」

「え?」



両手を掴まれ、透のお腹に手を回されてしまう。



「しっかり掴まってないと、落ちても拾いに戻らないぞ」

「し、失礼ね!わたしは荷物じゃない!!」



爽やかに笑う透がちょっぴり意地悪で、わたしはプクっと怒り顔。


でも、シャツ越しに感じる透のお腹は硬くて、わたしのぷにぷにしたのとは全然違う。



「じゃあ、行くぞ」

「え?――あ、はい!」



変な想像をして、自分でも顔が火照ってるのを感じる。



「五十鈴?」

「と、透は前を見て!安全運転で行ってちょうだい!!」



(こんな顔、見せられないもん)



目の前には大きな背中。緊張するけど、安心もする。


快走する自転車から見る流れる景色はいつもと同じなのに、今日は少し綺麗に見えた。






*   *   *






映画は五十鈴が観たいと言ったSFもの。


かなり気に入ったのか昼食中興奮気味に映画のストーリーを語っている。


(隣の席で俺も一緒に観てたんですけど…)


感動を伝えたい気持ちは分かるけど、こういう所って五十鈴はまだ子供っぽい。でも一生懸命話してくれる姿は可愛いし…。



(結局、五十鈴だからって事で許してるな)



俺は心の中で苦笑する。呆れるけど、愛しさも増える。



「さぁ、次はお買い物に行こう!」



五十鈴は食事も話す事も満足したのか席を立ち、俺も後に続いた。



1階に降りれば食品売り場。


カートを押して先に歩いて行く五十鈴の後ろを少し離れて付いて行く。


一人前に品定めなんかして、俺の事なんか目に入らないという感じだ。


いずれ、近い将来こんな風に週末は買い物なんかに連れ出されるんだろうか?



(……なに、一人で想像してるんだろう?)



勝手な想像に照れてしまっている。傍から見れば、俺って怪しい人?



「怪しいわ…」



背後から突然声がしてビクっと身体が震える。


この声――甘い声の中にも何かを含んだ――振り返るのが恐ろしいが…。



「うわっ!!あ、麻生!!」

「お生憎さまね!白澤くん!」



こんな所で!いや、ここは近くのスーパーだ!知り合いの一人や二人…誰かに会ってもおかしくはない!が、寄りにもよって麻生とは!!


しかも、クスクスと天使の如き微笑を浮かべてるが、内心まで天使とは限らない。



「白澤くん、デートなの?」

「は?」

「だって、あそこに五十鈴さん…」



麻生の視線が五十鈴に向けられる。倣って俺の目も五十鈴を捕らえる。



「あれ?つかさちゃん!」



俺が付いて来ない事に気が付いたのか、離れた所から五十鈴がこっちを見てカートを押して早足で駆け寄ってくる。



「つかさちゃん!つかさちゃんもお買い物?」

「お使い頼まれてしまって、五十鈴さん達も?」

「えーっと、わたし達は親が旅行中で…」

「え?それって――」



女同士の会話って、段々小さい声になって行く事が多くないか?ま、聞き耳立ててる俺も俺だが…。


麻生がチラっとこっちを見る、クスっと笑う口元は悪戯好きの妖精のようだ。


話し終わったのか二人はお互い手を振り、麻生はこの場を去って行く。



「麻生のヤツ、何て言ってたんだ?」



思わず、五十鈴に尋ねてしまう。



「へ?別に何も…。夏休みが終わったら話を聞かせてねって。でも、何の話なんだろうね~?」



“ね~?”って訊かれても…。


俺も答えるに答えられないって。



「さて、そろそろ帰ろう!」



五十鈴は再びカートを押してレジに向かう。



ブルブルブル…。



ポケットの中の携帯電話が着信を知らせてる。



(映画観てたから、マナーモードもままだ…)



相手の確認もせずに、咄嗟に出てしまった。



『白澤くん、私…』

「!」

『すでに3日間も、二人きりなんですって?』

「!!」

『五十鈴さんを泣かせたりなんかしたら』

「あ、あのな、麻生!おまえ――」

『千星さんの怒りの鉄槌が降りるわよ!』

「………」

『あ、でも、お二人って自然な感じでいいわ~。まるで、結婚3年目の夫婦のようね♪』

「……」

『じゃあね!』



な、なにが“じゃあね!”だ!!しかも、結婚3年目って何だ!!


そもそも、何故、俺の携帯の番号を麻生が知ってるんだ?俺、教えた記憶無いぞ!!



(しかも、メールまでしてくるし!)



「どうしたの?透――誰からか電話でもあった?」

「あ?――ワンギリ」

「ふ~ん、そう」



まさか、とは思うが考えられるのは、五十鈴か光星か。



「五十鈴、麻生に俺の携帯の番号とか教えたりした?」

「へ?――前に聞かれたけど。何かあった時連絡出来るようにって、つかさちゃんが言ってたから」



(五十鈴ー!おまえかーー!!)



それが何か悪い事?みたいにきょとんとした顔をしてる。


五十鈴は悪くない。きっと、麻生が言葉巧みに…。


いや、五十鈴相手に遠回しに訊かなくても…、五十鈴なら普通に答えるだろう。



「透?」

「え?あ!か、帰ろうか?」



五十鈴が持ってる荷物を持ってやると、五十鈴は空いた手を俺の手に伸ばしてくる。


五十鈴が少し照れてニコっと笑うから、俺はさっきの事なんて忘れ、釣られて笑ってしまう。


ずっと、このまま手を繋いでいたい、と強く思ってしまっていた。

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