メザメタ・チカラ
夕ご飯の片付けも終わり、少し休憩中。
透はリビングでテレビを観てる。
わたしは雑誌に目を落としてる。
後はお風呂に入って、眠るだけ。
テレビの音の方が大きいはずなのに、時計の針の方が耳に付く。
もうすぐ9時。
2階の自室から着替えを持って降りる。相変わらず、母は透の服もわたしのクローゼットに入れる。
「透!お風呂入って!」
着替えを受け取った透は。
「一緒に入るだろう?」
「?!!!」
何ソレ?“一緒に入るだろう?”って、確定なの?決定なの?
「昔は――」
「む、昔は昔!!今は今!!」
確かに昔は一緒に入ってたわよーーっ!!
「昔と何も変わらないけど」
「どどどど、どういう意味よっ?」
昔と体型変わってないとでも?わたしだって少しは成長してるんだから!!
透だって、この前大きくなったって言ってくれたじゃない!!
――って、わたし、何を考えてーー!!!
一気に体温が上昇する!もしかしたら、気化しちゃうんじゃないかと思うほど。
「俺が言ってるのは、気持ちの事だけど」
「き、気持ち?」
「昔も今も五十鈴とお風呂入りたいな~っと思ってる事」
「~~~~~~~~!!!!!!」
「五十鈴は何だと思った訳?」
「も、もう!いいじゃない!早く入ってきなさいよ!!」
「じゃあ、明日は一緒に――」
「遠慮します」
「即答かよ」
「当然です」
透って、絶対お風呂に入ってる間、勝手な妄想で真っ赤になったわたしを思い出して笑うに違いない。
(…別にいいけど)
お風呂場からお湯の流れる音が聞こえた途端、力が抜けてその場にペタンと座ってしまった。
電話が鳴っている。
誰から?と思いながらも余所行きの声で出てしまう固定電話。
「はい、匂さ…か…」
『五十鈴ちゃん?五十鈴ちゃんだね!』
「はい…」
『お、おじさんだよ!馨!馨おじさんだよ!!』
「あ、馨さん!お久し振りです」
『だ、大丈夫なんだね?』
「へ?」
“だ、大丈夫?”って訊かれても…。
それに凄く焦ってる?馨おじさんって落ち着いた柔らかい物腰の素敵なおじさまって感じの人。
なのに、今日はどうしたんだろう?
『びっくりしたよ!!空港に迎えに行ったら、羽澄ちゃんが詩帆ちゃんと来るから!!』
馨さんは母の事を“詩帆ちゃん”と呼ぶ。
馨さんは母や羽澄さんより10歳も年上で母の事を妹みたいだって言ってたっけ。ちなみに父の事は“勇斗くん”って呼んでる。
『てっきり、羽澄ちゃんと透が来るものだと思ってたから』
どうやら、馨さんも内緒にされてたらしい。
『ところで、透が何処に居るか知ってる?家に電話しても出ないんだよ!』
「あ、透なら今ウチでお風呂に入ってますよ」
『お…風…呂…?』
「はい」
『☆@&%#■$△!!!!!』
か、馨さん?!何言ってるのか分かんない…って言うか、何語?
「か、馨さん!透、出たみたい!代わりますから!!」
コードレスなので、そのまま受話器を持って、急いでお風呂場に向かう。
「透!!馨さんから、でん…わ……わわわわわ、ひゃああ~~!!」
忘れてた!すっかり、忘れてた!!
お風呂上りなんだもん!!
みっ!見てしまった~~っ!!
透の裸~~~~~~っ!!!!
透は「あぁ」と言って何事も無く受話器を取る。身体を拭きながら話してる。
頭の中、真っ白!!身体が動かない!!
石化だ!石像だ!!出来ればやり直しを!!こんな変な顔で固まるのは嫌~~~!!!
あ~!待って!!
今まで何度も見てきてるじゃない!!
小さい頃は一緒にお風呂に入ったりしてたんだから!!
そうよ!!今さらよ!!今さら気にする事なんてないんだから~~!!
ピっと電話を切る音が聞こえ「次、どうぞ」と。
着替え済みの透がわたしの肩をポンっと軽く叩いて去って行く。
「………」
はぁ~~~、石化解除完了……。