朝は熱い抱擁から始めよう!
ピンポ~ン♪
朝、白澤家のチャイムを鳴らすのがわたしの日課。
「は~い!おっはよ~!五十鈴ちゃ~ん♪」
「おはようございます、羽澄さん」
「ん~もう!今日も可愛い~~!!」
むぎゅう!
「………」
声が出ません!息が出来ません!く、くる…し…い…。
「いい加減にしろよ!羽澄」
「だって~、抱き心地良いのよね~。五十鈴ちゃんって」
(わたしは、なに?ぬいぐるみ?)
「あ!でも、透は“むぎゅう”ってしたらダメだからね!」
羽澄さんの言葉に透は天を仰ぐ。
初めてチャイムを鳴らしたのは幼稚園の入園式の日。
その日から羽澄さんに「毎朝、来てね」と言われ、今では完全習慣になってしまった。
そして、この抱擁もいつの間にか日課になっている。
「行って来る」
「行って来ます」
「行ってらっしゃ~~い!!――って、ちょっと待って!五十鈴ちゃん!」
「?」
「こ~れ!」
「何ですか?これ?」
「防犯ブザー♪」
「ぼ…っ!!!!」
「迷わず!躊躇わず!思いっきり、このピンを引っ張るのよ!!」
「………」
羽澄さんは、にこ~っと笑っている。
それって、どういう意味?
わたしの手の中には可愛いパンダ型のブザー。
「気を付けて、行って来なさいね~~!」
* * *
「毎朝――少しは断るとか、拒否するとか、逃げるとか出来ないのか?」
「う~~ん、何度も挑戦してるんだけど…」
あんな愛情たっぷりに“むぎゅう”ってされたら…。
嬉しいって言うか…、何て言うか……。
「ま、俺も抱き心地良いの、知ってるし」
「………」
この防犯ブザー、近いうちに必ず使う日が来そうです。
羽澄さん!!
遠慮無く、使わせて頂きますっ!!!