夏は、遠くから聞こえる蝉の声
side:透
今、俺の家に男が一人やって来た。
「よく、来たな。この暑い中」
そう言って、冷たい麦茶が入ったグラスを俺は呆れ顔で、やって来た光星に渡す。
外はすっかり真夏だ。太陽が地上に近付いて来てるんじゃないかと思うほど。
「光星、おまえ、暇なんだ」
「それ、どういう意味?」
一気に麦茶を飲み干して、眉根を寄せる。
部屋の中は冷房が効いていて涼しいが、さっきまでこの暑い中自転車で来た俺の友達、イライラしていてもおかしくはないが…。
「おまえ、何しに来た?――」
「五十鈴ちゃんはどこ?」
(どうして、五十鈴の事を訊く?)
お互いが尋ね合っては、会話は成立しない。
仕方ない、ここは俺が先に答える事にする。
「五十鈴は出掛けてるけど…」
午前中、五十鈴は水色のワンピースに、手にはカーディガンを持ちサンダルを履いて玄関の所で会っている。
よく憶えてる。去年までの五十鈴ならTシャツにジーンズが定番で、制服以外にスカートなんて珍しかったからだ。
「やっぱり…。五十鈴ちゃん姉さん達と一緒だ」
「…?」
「――水着?」
「そう!姉さんと麻生さんと水着を買いに行ったんだよ!」
「…それで?」
「うわっ!透は見たいって思わない?俺はものすっご~く見たいけど!!」
「おまえが見てどうする?」
「だって、五十鈴ちゃんって、可愛いから!」
(だからって……)
「五十鈴ちゃんは、自分だけのものって思ってる?アレは皆のもの!皆で愛でるものだよ!」
「おまえが五十鈴を“アレ”と言うな!!」
(しかも、“愛でるもの”って、何なんだ?)
「まぁまぁ!でもな~、何で俺って男なんだろ?双子なのに姉さんは抱き付いたり出来て、いいよな~」
「光星、いくらおまえでもいい加減な事ばかり言ってると……!!第一、千星が二人も居たら……微妙だ」
「あははははは、でも、俺は応援してるから」
「応援って言うより、高みの見物だろ?」
「そうとも、言うかも」
`~~♪~~~♪~~~♪
俺の携帯にメールの着信音。
差出人:麻生
件名 :至急です!
本文 :選んで至急返信下さい。白澤くんの好みはどちら?
何を選ぶ?添付?画像があるのか?しかも2枚?
(――っ!!!)
それは五十鈴の水着姿。どちらか選べって言われても…。正直、どちらも可愛い!
確かにあんな水着姿を他人が見れて、俺が見れないなんて許せない!
「メール?誰から?――ヤ、ヤバいって!!絶対、ヤバいって!!」
(人のメール覗き見るな!!)
「透!見れると思うと楽しみだな。五十鈴ちゃんの水着姿!」
「………」
「ま、そういう事だから一緒に行こうぜ!姉さんには俺から上手く言っておくからさ」
したり顔で俺を見る光星は、本当に千星にそっくりだ。二卵性のくせに、性別も違うくせに。
やはり、双子だと姉弟だというのを認めざるを得ない。
そんな、光星を視界に入れつつ、俺はメールの返信を打った。