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蘇る記憶

戦え 正義のサクランジャー

負けるな 我らのサクランジャー

 ローズランド公爵邸、春の光もうららかな昼下がり。

 数時間後にはそれぞれ予定を控えているものの、ぽっかり空いた隙間の時間を仲睦まじい一家が共に過ごしていた。

 ゆったり過ごすのに丁度いいこぢんまりとした居間に、心落ち着くお茶の香りがふんわり漂っている。設えてある調度品は質のいい、落ち着いたものばかり。壁で控えている使用人は特に信頼のおけるエレーヌとソフィアのみで、長椅子に腰掛け、テーブルを囲む家人たちの表情も心からくつろいでいる。


「そういえば、今まで誰にも言ったことなかったんだけど」


 その、のんびりとした空気を、いかにも秘密を打ち明けるといった調子の声が打ち破った。


「私、実は元の世界では地球の平和を守ってたの」


 今の今まで己の膝の上でおとなしくしていた桜が何を言い出したのか理解できず、アステルは端正な目を二度瞬かせた。ちなみに桜がおとなしくしていたのは、膝の上から脱出する無駄な努力を諦めという便利な感情で覆って隠した結果なのだが、そんな些末なことはアステルにとって問題にもならない。


「あなた、どこかで頭でも打ちました?」


 星の煌めき、大輪の花、あらゆる美しい事象に例えられる顔を心配げに曇らせ、リディが微妙に失礼な疑問を投げかける。相も変わらず兄の関心を一人占めする桜には「前々からおかしな言動が目立っておりましたけれど、とうとう決定的になったのかしら」程度のことは言ってやりたかったのだが、敬愛するお父様とお兄様の前で厚く被った猫の皮を脱ぎ捨てるなどという愚をリディは決して犯さない。

 ローズランド公爵その人、家長のヘンリーはといえば、何を考えているのか決して悟らせない鷹揚な態度を崩さず、日だまりのような視線を注いで桜を見守っていた。少し離れた場所では、エレーヌとソフィアが不安げに顔を見合わせている。


「リディが驚くのも無理はないんだけど」


 そして真剣な表情で桜は語り出した。


「私の元いた世界にはね、ヒーロー戦隊っていう正義の味方がいて、地球――あ、世界のことね、地球を守ってるの」

「ええと、そのヒーロー戦隊とは、ユヴェーレンのようなものと解釈すればいいんでしょうか?」


 わけがわからないながらも、桜が前触れもなく突飛な物言いをすること自体には耐性がある。アステルは世界の平定者を思い浮かべながら、控えめに疑問を差し挟んだ。


「それ」


 桜が大きな目を嬉しげに細め、深く頷いた。


「構成単位は大体が五人一組で、戦隊によっては人数が上下するのね。機械がメンバーだったりするところもあってね、歴代に30組以上の戦隊がいるんだよ、凄いでしょ」

「はあ、なるほどそうですか……お役目ご苦労さまです」


 何がすごいのかが全く理解できないまま、得意げに胸を張る桜にアステルはとりあえず話を合わせておいた。


「戦隊の中の一人一人はそれぞれ色分けされてる。まずはレッド、これ赤色ね。どんなピンチに陥っても諦めない、熱血リーダーの色」


 猪突猛進単純バカ、桜にぴったりの色分けですわね、とリディは心の中で独りごちながら、お話はしっかり聴いていますわよとばかりに頷いてみせた。


「レッド以外の色はまた戦隊によって微妙に異なってくるんだけど、私のところはブルー、ピンク、イエロー、グリーンだった。青のブルーは冷静沈着、桃色のピンクはしっかり者のお姉さん、グリーンの緑は変則的な感じで、黄色のイエローは……なんだったっけ? ま、いいや」


 ――いいのか?

 ただ単に思いつかなかっただけなのではないかとその場の全員、忠実な侍女二人までが見抜いていたが、誰も口には出さなかった。何故なら、語っている間中桜が、頭の中にある思い出の道筋を辿るように、それはそれは懐かしそうな面持ちをしていたからだった。

 いつもの触れ合いに紛れて、それとなくアステルが桜の首筋に手を当てる。体温は正常、脈拍が僅かに早いような気もする。目で問うてくるヘンリーに同じく目線で結果を伝え、脳内で原因を模索していく。


「じゃあ話すね。私の戦隊、多役戦隊サクランジャーの活躍を」


 英勇譚を諳んじるように、うっとりと語り始めた桜に「お願いします」とこれまた神妙に返しながら、そういえば桜は昨日ペリドットと一緒に町へ出ていたのだったな、とアステルは思考を巡らせていた。

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