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順応性って大事!  作者: 宮野 圭
【第一章 お屋敷編】
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第三話③

 室内は、微妙な静けさに包まれていた。

 そんな中、ぼくはとーさまの上をくるくる回っている精霊をボーッと眺めていた。時おりぼくに手を降ったり、技を披露してくれる。やー、器用だね。


「アル、彼女はレイリィー・ダヒル。新しいメイドだ」


 若い、綺麗な女の人を手で示しながら、とーさまが紹介してくれた。


「レイリィー・ダヒルと申します。アルヴィお坊ちゃま、よろしくお願いいたします」

「アルヴィです。よろしくお願いします」


 レイリィーさんが、丁寧に挨拶してくれたから、ぼくもし返す。

 だけど、なんでわざわざぼくに、新しいメイドを紹介したんだろう。今までそんなことなかったのに……。は! もしかして、このおねーさんはとーさまの愛人? いずれは結婚するから、先に紹介したのか?

 ぼくは反対したほうがいいのか、それとも賛成したほうがいいのか、なんて考えていたら、とーさまが大きな爆弾を落とした。


「彼女は今日から、お前のお世話係りだ。ちゃんと覚えておきなさい」


 なんだって? おせわ、がかり? なら……。

 バッと、それまで静かにしていたポーを振り向く。


「ポーは? ポーはどうなっちゃうんですか?」


 ポーは申し訳なさそうに、眉を下げてぼくを見ていた。


「ポーは、今日でこの屋敷を去る」

「なんで? どうしてですか? とーさまがくびにしたんですか?」


 ショックが大きすぎて、うまく頭が回らない。

 珍しく感情的になるぼくに、とーさまが目を丸くする。ついでにとーさまの頭の上の精霊も、口に手を当て目を見開いている。


「アル、そんなにポーのことを気に入っていたのか」


 とーさま? 今そんなことに感激するような状況じゃないよね? ここで父親精神出さなくていいから。つかとーさまの頭上にいる精霊。何お前まで驚いてんだよ。

 生まれ変わってからは、体は幼児でも精神年齢は女子高生だから、子どもらしいことできなかったし、環境が環境だったから、感情を素直に出すことも殆どなかったけど。だけど今は、いつものように感情を押さえることができない。

 何でだか分からないけど、ものすごくイライラしてる。いや、違う。悲しいんだ。

 ぼくがそれに気づいたとき、ポーが静かに口を開いた。


「坊ちゃま、私が辞めさせて頂きたく、旦那様にお願いしたのです」

「え……?」

「ポーはもう、おばあちゃんでございます。」


 少し困ったように笑うポー。なんだかいつもより小さく見える。


「ポー、……つらい?」


 ぼくの小さな呟きに、ポーは目を細めて笑った。


「坊ちゃまは本当に、お優しい方でございますねぇ。ポーはとても、嬉しいです。……だんだんと身体を動かすのが、辛くなってきました。私も、年をとったものですね~」


 ポーはくしゃりと笑うと、とーさまの方を向く。


「アドォン坊ちゃまが、こんなに立派になられて……。ポーが年をとるわけですね」


 ぎゅっと顔をしかめるとーさま。これはとーさまの照れ隠しだ。

 セネルガ家の当主として、威厳が大事なのだと、とーさまは決して笑わない。だから、嬉しいときはこうやって、ぎゅっと顔をしかめるのだ。

 その事を知っているポーは、より一層笑みを深めた。


「ごほんっ。……そういうことだ、アル。私は彼女に少し話が有るから、二人はもう部屋に下がってよい」


 誤魔化すようにそう言ったとーさまに、内心くすりと笑いながら、ポーと手を繋ぎ部屋を出る。

 あ! そうだ。

 あと少しでドアが閉まるというところで、大切なことを思い出し、ポーの手を離すと、急いで部屋に戻った。

 どうした、と問うてくるとーさまを無視して、おねーさんを見上げる。


「あの、これからよろしくお願いします、おねーさん」


 そう言ってペコリと頭を下げてから、今度こそ、ぼくは部屋を出た。

 ドアが閉まる間際、「よろしくするなら名前を覚えなさい」と聞こえたのは、きっと気のせいだ。



 部屋に着くと、ぼくはポーに抱き着いた。ポーはびっくりしたみたいだけど、直ぐにぼくを抱き締めてくれた。

 ぐにゃりと視界が涙で歪む。

 ポーは、この世界に生まれてから、ずっとぼくの側にいてくれた人だ。ぼくを産んで間もなく死んでしまったかーさまの代わりに、たくさんの愛情をぼくに注いでくれた。


「ポー、今まで、ありがとう」

「坊ちゃま、ポーはこのお屋敷を出て、ポーの生まれた村に戻りますが、二度と会えないわけではありません。少し遠いですが、会おうと思えば、会うことができます。ですから、坊ちゃまがもう少し大きくなったら、成長した姿を、ポーに見せに来てくださいな」


 とん、とん、とあやすようにぼくの背中をたたきながら、ポーは優しく言った。

 そうだよね、二度と会えない訳じゃないもんね。うんと頷きながら、更にぎゅっと抱き着いた。

 それから、ぼくが疲れて眠っちゃうまで、とーさまの子どもの頃の話や、ぼくの話、将来のことなど、今まで話したことのない話をした。


 その間、ぼくのベッドの上では、精霊たちがハンカチ片手に、ぼくたちを見ていたようだ。ぼくが起きたあと、わざわざ感想を言いに来た精霊がたくさんいたからね。それから誰だ、"全精霊が涙した、アルヴィの物語~初めての別れ~"なんて看板作ったのは!! ご丁寧に、普通の人には見えない仕様になっている。


 こうしてぼくは、人生で初めての別れを経験して、少し大人になりました。

 いつか絶対、ポーに会いに行くんだ。

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