第三話②
ぼくは食事の時、毎回好きな席に座っている。なんでそんな事をしているかと言うと、セネルガ家の食事は、バイキング形式だからだ。
一人ひとり料理が出されるのではなく、テーブルの上にたくさんの料理が並べられる。
だけどぼくは少食だから、そんなにたくさんの料理は要らない。だから、毎回並べられる料理を見て、食べたい料理が置いてある席に着くことにしてる。
食べるのは、とーさまとぼくの二人だけなんだから、個別に出してもらえばいいのにって思うけど、とーさまはバイキング形式がお気に入りみたいで。
まあ、余った料理は全て、使用人さんたちのお腹に入るみたいだから、いいのかな?
「アル、最近剣はどうだ」
食事が終盤に差し掛かった頃、とーさまが訊いてきた。
「んー、楽しいです」
「そうか。最近、下っ端兵士のシャルロイ・ケイロンと手合わせしているようだな」
「シャルロイ・ケイロン……?」
誰だろう。そんな知り合いいたかな?
ボーッと前を向いて、記憶の引き出しを開けまくる。
下っ端兵士で、剣の練習相手……あ!
「シャルさんですか?」
「シャルさん? お前が名前を覚えるとは……そんなに仲良くなったのか」
あれ? とーさま、何に感心してるの? ぼくちゃんと人の名前覚えてるよ?
じと目でとーさまを見るが、とーさまはぼくにお構い無しで、なにか考えている。
「とーさま、シャルさんと仲良くしちゃ、ダメ?」
小首を傾げて聞いてみたら、とーさまは真っ直ぐぼくの目を見る。
なんだろう。真剣な話かな?
「アル、シャルロイ・ケイロンが好きか?」
「うん、シャルさんと剣の練習、楽しいよ」
「そうか。……今日から、剣の指導はシャルロイ・ケイロンに任せる」
とーさまの言葉に、わずかに目を見開く。
「ほんとーですか? それ、とーさまにお願いしようと思って、忘れてたやつです」
「……忘れてたのか。はぁ……。まあ、お前が嫌でなければ、そうしよう」
「嫌じゃないです、嬉しいです。あ、でも、たいちょーさんは?」
「フェルレインには、隊長職のほうに集中してもらう」
一瞬とーさまの目が、怪しく光ったが、一瞬のことだったから、気にしないことにする。
それよりも、たいちょーさんは隊長だったんだね。いや、だから"たいちょーさん"って呼んでたんだけど。あの人隊長っぽくないから。むしろ変態さんだしね。
でもやったね~。シャルさんが剣の先生ってことは、思う存分とまではいかないけど、剣の練習ができる。
もぐもぐご飯を食べながら、今日の稽古を想像してわくわくしてると、とーさまがぽそりと呟いた。
「アル、一年もお前に剣を教えてくれてたんだから、フェルレインの名ぐらい覚えてやりなさい」
「あー……えへへ」
食事が終わり、ポーに手を引かれて自室に戻り、ごろごろと暇をもて余していると、ドアがノックされた。
「はーい。どーぞ~」
「坊ちゃま、失礼します」
入ってきたのは、執事さん。彼にはよくお世話になってる。確か、ポーの次に長くセネルガ家に仕えてる人だ。
名前は……。
「おはようございます、ステット、さん?」
「おはようございます、坊ちゃま。惜しいです、私の名は、スティナロスです。スティルとお呼びください」
「あー、スティルさんか。ごめんね?」
今日こそ合ってると思ったんだけどなぁ。
いつからか、スティルさんに会うたびに、名前当てゲームをするようになった。スティルさんの方は、本気みたいだけど……。
なかなか名前を覚えられないことに、申し訳なくなって(とーさまにも言われたし……)謝ると、スティルさんはニッコリ笑って許してくれた。
「坊ちゃま、旦那様がお呼びです」
「はーい」
そう言って、差し出されたスティルさんの手を握る。
どうしてこの屋敷の人はみんな、ぼくが歩くと手を繋ぎたがるんだろう……。
内心首を傾げながら、スティルさんに手を引かれて、とーさまの部屋に向かった。
とーさまの部屋に入ると、中にいたのはとーさまだけじゃなかった。
「旦那様、坊ちゃまをお連れいたしました」
「あぁスティル、ご苦労。持ち場に戻ってくれ」
「失礼します」
綺麗なお辞儀をして、スティルさんは部屋から出ていった。
部屋に残ったのは、ぼくととーさまと、ポー。それから、見たことない女の人。
この人は、誰だろう。