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順応性って大事!  作者: 宮野 圭
【第一章 お屋敷編】
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第一話

 

 青い青い空に、真っ白な雲がぷかりぷかりと浮いている。

 どこを見ても、緑ばかりが続くなだらかな丘の上で、ぼくは仰向けに寝転びながら、ボーッと空を眺めていた。

 そよそよと頬を撫でる風が気持ちいい。


「あー、……鳥になりたい。……いや、やっぱり雲になりたい……」


 呟きながら、空に手を伸ばす。白くて小さい、紅葉の手。

 なんかこーやって寝転んでると、空に手が届きそうな気がするんだよね~。まぁ届くわけないけど……。


 ぼくの名前は、アルヴィ・セネルガ。

 ぼくがこの世に生を受けて、えーっと……3?……4、5年が経つ(と思う)。たぶん。見た目的にもそれくらいだし。きっとそう。

 そんな自分の歳もあやふやな、ちょっとお茶目なぼくだけど、実は誰にも言えない秘密があるんだ。

 それは、前世の記憶が有ること。

 そう。前世の記憶。これは、嘘とか妄想とか虚言とか夢の話しとかじゃなくて、ほんとのことだ。

 確かにぼくは、今とは違う人生を、違う世界で生きていたんだ。


 そこは、地球という星の中の小さな島国。日本。

 そこでぼくは、ごく普通の、特にこれといった取り柄もない平凡な女子高生をやっていた。

 家は、ごく普通の一般家庭で、父親はサラリーマン、母親は専業主婦。それから、1つ下の可愛い弟。家庭崩壊なんて事もなく、家内円満で。まぁ幸せだったと思う。

 学校生活も別に荒れてた訳でもなく、広く浅い付き合いの友人達と、犬が吠えただけで大爆笑しちゃうような、何とも下らな……キラキラした青春を送っていた。うん、楽しかったよ? とってもとっても。


 まぁ唯一変わった事といえば、あれだ。母方のじいちゃん(母さんが子どもの頃に離婚して、それ以来会ったことはないらしい)に、合気道を習っていたことだ。それも、誰にも内緒で。


 いったいどういう手段で、ぼくの情報を入手したのかは不明だけど、ある日学校が終わって帰ろうとしたら、校門にじいちゃんが立っていたのだ。

 勿論じいちゃんとは初対面で、訳もわからぬまま強引に車に乗せられて、じいちゃんの道場に連行された。あの時は、マジで誘拐かと思った。

 で、そこで初めて自己紹介をされて、感動の再会……なわけもなく、事情を説明させた。当たり前だよね。見知らぬ老人に突然拉致られて、あげくお前の祖父だと言われても、ハイそうですかなんていくわけない。

 じいちゃんは、理由は頑なに教えてくれなかったが、どうしてもぼくに合気道をやらせたかったらしい。というか、ぼくに合気道を教えなくてはならない、という謎の使命感を感じていたらしい。

 その結果、今まで一度も会ったことのない孫を拉致することになったと。まぁ実際ぼくも、武道に興味があったから、その誘いを断る理由もなく、オーケーしたんだけどね。


 それから、時間のあるときは道場に入り浸った。勿論家族には内緒でだ。じいちゃんに、絶対に母さんにバレるなって言われたからね。

 まぁそんなわけで、ぼくはそこらへんの男には負けないくらいの実力を(か弱い乙女を目指してたはずなのに)付けたわけだ。


 そんな、どこにでも転がってそうな平々凡々なぼくが、ある日、目が覚めたら赤ん坊になってたんだ。いったいぼくは、いつ死んだのだろうか……。

 そこのところの記憶が一切ないから、確かなところは自分でもわからないんだけど。たぶん死んだんだと思う。だってじゃなきゃ何で今新しい人生歩んでんだって話になるし。

 まぁ実は死んでなくて、事故だかなんだかで意識不明で、これは長い夢だってパターンも考えられるけど……。それだとなんだかややこしいというか。考えなきゃいけない問題点がいろいろ出てくるから、ここはサクッと死んじゃったってことでいいと思う。

 ということで、原因はわからないけど、女子高生だったぼくは人生の幕を閉じ、アルビィ・セネルガとして新たな人生をスタートしたわけだ。


 だけどびっくり。なんと二度目の生を受けたこの世界は、ぼくの慣れ親しんだ世界じゃなかったんだ。

 まず、ぼくが産まれた土地は、日本じゃない。黒髪なんて存在しないし(ぼくが会ったことないだけかもしれないけど……)瞳の色も、カラフルだ。

 それから、全てが日本より遅れている。機械もなければ電気もない。自転車も車も電車もない。洗濯機も冷蔵庫もなければ、テレビだってない。移動は徒歩、もしくは馬に似た生き物。こんなんじゃ、気軽に遠出もできないよ。


 これだけだったら、ちょっと、いやかなり、文明の遅れた外国に転生したんだなぁって感じ(るのには少し無理があるね……)だけど、地球だったら絶対にあり得ない事があるんだ。

 それは、喋るんだよ。人間以外の生き物たちが!

 最初は空耳かなって思ったよ? だけどさぁ、しっかり聞いちゃったんだよ。馬小屋みたいな小屋で、馬みたいな生き物が


《旦那様ったら最近太りぎみじゃない?》

《確かに。特にあの、ぽよんとした腹回りだろ?》

《ええ。だからあたし、昨日旦那様を乗せて出掛けた帰りに、屋敷まであと一時間って距離で、旦那様のことを振り落としたのよ。で、屋敷まで歩かせたの。これで少しは痩せてくれると良いけど……》

《よし、なら俺も旦那のダイエットに協力しよう。確か今日は、俺が旦那と出掛ける予定なんだ》

《そうなの? ならよろしくね。情けはかけちゃダメよ!》

《あぁ、わかってるって》


 という会話をしていたのを。

 それから約一週間、とーさまが一時間歩いてるっていうのを、執事の……アーノルドさん?に聞いた。そのお陰で、とーさまのでっぷり出てた醜いお腹は、キレイにいなくなった。


 更に、それだけじゃなくて、ティンカーベルみたいなのが、たくさん飛び回ってるんだ。

 最初は、でっかい羽虫かと思ってたんだけどね。だけど、そいつらが言うには(あぁ、そいつらも喋るんだよね……)自分達は精霊らしい。

 正直、精霊なんて今まで見たことないから、疑うことなんてできないんだけど、信じることもできなかった。だって精霊だよ? 日本では物語の中にしか存在しなかったし。

 だから聞いてみたんだ。執事の……えーっと……ロバートさん?に。


「ねぇねぇ、……ルシファー?さん?」

「なんですか、坊ちゃま。私の名前はルシファーではなく、スティナロスです。スティルとお呼びください」

「あぁごめんね、スティルさん。あのね、聞きたいことがあるんですけど、精霊っているんですか?」

「えぇ、精霊は居りますよ。しかし、それは遥か昔の事です。現在では精霊は人間の前に姿を現すことは、ほとんどありません。更に、精霊を見ることのできる人間は、数少ない魔導師様のみです」

「へぇ~……。じゃぁ、人間以外の生き物は喋りますか?」

「いいえ、坊ちゃま。喋ることのできる生き物は、人間のみです。もし、他の生き物が喋ったとしても、それを聞き取る人間は存在しないでしょう。魔導師様でも無理なのですから」

「……ぁ~、……ありがとうございました、モルゴラスさん」

「坊ちゃまのお役に立てたようで、何よりです。それから、私の名前はモルゴラスではなく」

「ちょっと散歩に行ってきまーす」


 なんか、聞いたことを後悔したくなるような事を言われた気がするけど、気にしないことにした。取り敢えず、精霊が存在するってことは確かなようだ。


 で、結論。この世界は、地球とは違う別のところ、である。

 そう。まるで、夢見勝ちな前世の友人が大好物な、ファンタジーみたいな世界。



 

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