表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

二人の時間

 現在私は知らない男性とカフェにいて、ケーキセットを注文して待っているところだ。

 だけど彼は私のことを知っている。

 信じられない。

 この状況はとてもおかしいと強く感じているが、自分には彼を振り払いきれない。

 それが悔しかった。

 そもそも本当に私が忘れているだけ?

 ひょっとしたら彼の嘘に私が付き合っているだけかもしれないと考え始めていた。

「まさかこうして君と二人で楽しめるとは思えなかったな」

「私は知らない人に誘拐されるとは思わなかったです」

 私と彼の機嫌の違いはまさに真逆だった。

 嫌がるようなことをさっきから言い続けているのに全てスルーされている。

 怒ってどこかへ行けばいいのに。

 こんなことなら、もう一個くらいケーキを注文すればよかった。

 だけどお腹はケーキ一個で満足できると言っている。

「日向ちゃん、砂糖を取ってくれる?」

 彼の視線の先は私の傍においてある角砂糖だった。

「どうぞ」

 彼は蓋を開け、角砂糖を四個も入れている。かなりの甘党であることがわかった。

 この人、糖尿病になるのでは?

 観察していると、彼は顔を上げた。

「どうしたの?そんなに見て」

「だってたくさん入れているから」

 多くて二個まで入れる。

「俺、コーヒーを飲むときはこれくらいがちょうどいいんだ」

 私だったら砂糖を入れすぎてコーヒーの味がわからなくなるだろう。

「普段からそんなに入れているんですか?」

「そんなことないよ、コーヒーはほとんど飲まないから」

「今日はどうして飲もうと思ったのですか?」

「寒いから?」

 その理由は嘘っぽい。

 いや、嘘ですよね?

 私の表情を見て、彼は口を開いた。

「君と同じものを飲みたかったから」

 言われても嬉しくない。

「ところで本屋で何も買えなかったの?」

「いいえ、すぐに漫画を買いましたよ」

「そっか。そのあとに店内をうろついていたんだ」

 考えれば、あのときすぐに店を出るべきだったのだろう。

 そうしなかったことに後悔していると、彼が砂糖を差し出した。

「欲しい?」

「二個もらいます」

 コーヒーの中に砂糖を入れ、スプーンで混ぜながら溶けていく砂糖を見ていた。

 まるで自分みたい。

 すぐに溶けて脆い自分を表しているようだった。

「日向ちゃん、他に何か買うものはあるの?」

 砂糖から視線をはずし、手を膝の上に置いた。

「ないですよ?ケーキを食べたら・・・・・・」

「俺、行きたいところがあるんだ。あとで行こう?」

 まだ話の途中です。

「どうして私に近づくんですか?」

「だって見ていて面白いから」

「面白くないです」

 私はあなたの玩具ではありません!

 文句を言おうとしたとき、店員がケーキを運んできた。

「他にご注文はございませんか?」

「うん、ないよ」

「では、ごゆっくり」

 彼は店員が去ってから顔を寄せてきた。

「美味しそうだよ?食べないの?」

「食べますよ!」

 コーヒーを飲んでからケーキを一口食べた。

 ここのケーキの味、悪くない。

 夢中になって食べていると、携帯の着信音が鳴った。出ようか迷っていると、彼は手を前に出して、出るように促した。

「もしもし」

「日向?お姉ちゃんだけど、もう四時になるよ、帰りは遅くなりそう?」

「うん。ごめんね、お姉ちゃん。ちゃんと連絡しなくて」

「いいよ。それより今日の夕飯はうどんだけど、ひょっとして外で食べる?」

 そこまで外出する気はないので、食べないことを伝えた。

「えっと、先に食べていて。私は家に帰ったら、自分で作るから」

「わかった」

 電話を切って彼を見ると、コーヒーを飲み終えたばかりだった。

「先に食べるように言ったってことはこのあとも俺と一緒にいてくれるんだよね?」

 どうしてそうなるのですか!?

 そんな都合のいい解釈をしないでください。

「違います!」

 ちゃんと外食しないことを言ったのだから、聞こえていますよね?

 さっきよりケーキを大きく切って食べたせいで口元にクリームがついた。それに気づいた彼は手を伸ばして指先でクリームを取った。

「子どもっぽいね」

 言われっぱなしは嫌なので、反撃を開始した。

「こんな子どもっぽい女と一緒にいたがるあなたは変わり者です」

「そうかな?」

「そうです。それより名前を教えてくれてもいいですよね?」

「やだ」

 あなたが子どものようです。

 私は本気でそう思った。

「だったらどこで知り合ったのですか?」

「気が向いたら教えてあげる」

「今!」

 この人の趣味は人を怒らせることなの?

 悪趣味な人だと頭の中に書き記した。

「いつかわかるから。そんなに怒らないで」

 怒らせているのはあなたですから!

 人と一緒にいて、こんなに怒ることは珍しいことだ。

 次から次へと何なのだろうと疑問に思う。

 そのあと約二時間半、雑貨屋や服屋、ペットショップなど、あちこち連れて行かれて足が痛くなってきたので、公園のベンチに座っている。

「公園で休んだら、夕飯を食べに行く?」

「行きません!私は家で食べます!」

 片手で足をさすっていると、彼は心配そうに私の足を見た。

「日向ちゃん、足、痛む?」

「大丈夫です」

 本当は少し痛いけど、強がって平気だと言った。

「いっぱい歩いたからね。さてと・・・・・・」

 どこかに強引に連れて行かれるのかな?

「そろそろ帰ろうか?あまりしつこくして嫌われたら嫌だからね」

 あれ?ちょっと意外。

 駅まで送ってもらい、電車に乗った。ドアはまだ開いた状態になっている。

「今日は楽しかったよ。またね」

「あの!」

「何?」

「た、助けてくれてありがとうございました。あと、ごちそうさまでした」

「どういたしまして。次に会ったときに俺のことをもっと教えてあげる」

 ドアが閉まると、彼はにっこり笑いながら手を振っていた。電車が動き出しても、彼から視線を逸らさなかった。

 彼が見えなくなって今日を振り返ってみると、本当にいろいろなことがあった。

 家に帰ったら、今日のことをお姉ちゃんに教えようと決めた。

 私が家で夕飯を食べるときに今日のことを話すと、お姉ちゃんも驚きを隠せていなかった。ゆっくりと休むように言われて、この日は早めに布団の中に入った。

 そして次の日の朝、いつものように学校の階段を上ろうとしたとき、足を滑らせて背中から倒れそうになった。

 だめ!ぶつかる!

 いつまで経っても痛みはなく、そっと目を開けると、誰かの腕に支えてもらっていた。

「す、すみません。ありがとうございました!」

「昨日の再現?日向ちゃん」

 どこかで聞いたことがある声。

「どうして・・・・・・ああっ!あなた!」

 顔を見ると、昨日の男性で、同じ高校生だった。

「川野君。ありがとう」

「ん?川野?」

「知っているでしょ?川野青空君。日向が一年のときに文化祭実行委員をやっていたときにときどき話を聞かせてくれたの」

「あ!」

 そうだった。あのときはクラスの人達に推薦されて、初めての実行委員だったから、いつも不安を抱きつつ、一生懸命にやっていたんだ。

「青空と書いてそらと読むんでしたよね?」

「そう。思い出した?変わった名前だからすぐに人に覚えられるのに、君は綺麗さっぱり忘れているから最初は信じられなかったよ」

 だから私のことをずっと知っていたのね。

「滝村、日向ちゃんを土曜日か日曜日に借りてもいい?」

 借りるって何?

「いいよ、どうするの?」

 あっさりと許可しないで!

「前からこの子のことが気になっていたから、もっといろんなことを知りたいなと思って」

「ちょっと勝手に!」

「大丈夫だよ。休日は暇だから。あまり遅くならないでね?」

 お願いだから話を中断して!

「わかっている。じゃあ、連絡先はあとで渡すから」

「いりません」

「いいよ?滝村に教えてもらうからメールする・・・・・・」

「わかりました!待ってます!」

 知らない間に情報交換されるなんて恐ろしいよ!

「良かった。少しは理解力があって」

 失礼な人ね。

「まぁ、いっか。じゃあ改めてこれからよろしくね。日向ちゃん」

 変な人に気に入られるなんて。

「よろしくお願いします。川野先輩」

 握手をするときに少しずつ力を込めると、川野先輩は一気に力を込めて握るという仕返しをしてきた。私が悲鳴をあげている一方、先輩は大笑いしていて、そんな私達をお姉ちゃんは苦笑いを浮かべていた。

 次は負けるものかと闘志をさらに燃やしていると、先輩は自由になった私の手を再び取ってキスをした。

「強く握りすぎてごめんね?そろそろ行かないと先生に注意されるから俺達は行くね」

 私の横を通り過ぎようとしたとき、先輩は足を止めた。

「今度はどこにキスが欲しいか考えておいて」

 にこっと笑ってから川野先輩はお姉ちゃんと教室へ向かった。

「か、考えません!!」

 後姿で顔は見えないが、絶対に笑っていると判断した。

 今度はもっと上手く仕返しをしようと思いながら、急いで階段を駆け上がり、教室へ向かった。

 次に会うことを楽しみにしている先輩と次に会うまで溜息や唸り声をあげる羽目になった私。

 理想の人とはかけ離れた人に捕まり、当分の間は逃げられそうにない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ