第二章 彼女との出会い
海と光は外に出て、空達に気づかれないよう、息を殺して話を聞いていた。
『………のに……んで……』
『……けよ………あった……』
しかしばれないように遠くから聞いているため、空達がなんの会話をしているかわからなかった。
だが、彼女の様子からして大事である事は理解できた。
「なぁ、何の話をしてるんや?」
「聞き取れないからよくわからない」
「場所変えようや」
海はそう言うと、さっきまでいた場所から移動し、会話が聞こえるところまで行こうとした。
光は慌てて止めようと移動するが、その時彼女からある一言が発せられた。
「犯人はもう……いないのにっ!!」
「「!?」」
今の彼女の言葉に、海だけでなく光も驚いてしまった。
彼女は今、『犯人はもういない』と言った。しかし神無月学園で、殺人事件は終わっていないのだ。
今の言葉に空も驚いたのか、目を丸くして呆然としていた。
3人の中で1番最初に我に返った光は、海の制服の襟を引っ張り、小声で告げた。
「行くぞ」
「へ? あ、ちょっ、置いていくなや!」
海はすでに2人のもとへ歩き始めた光に、慌てて駆け寄った。
そのことに気づいたのか、空は思い切り2人の方を見て、まばたきを繰り返していた。
そんな空を気にも留めず、光は彼女に向かって尋ねた。
「君は、神無月学園の人だよな?」
「え、あ、はい……」
「それじゃあさっき言っていた『犯人はもういない』っていう言葉の意味を、教えてくれないか?」
「っ!!」
光の言葉に彼女の体がピクッと反応する。
その光景を見た空は、彼女を庇うように光と対峙する。
「光!」
「空、そこをどけ。邪魔だ」
「邪魔で結構。お前、初対面なのにいきなりそんなこと聞くんじゃねーよ」
「話を聞くだけだろう?」
「っ、だから、それを止めろって言ってんだよっ!」
光の言葉にキレたのか、空はいきなり光の胸ぐらを掴んだ。
そんな空の行動に驚いたのか、光も見ていた海も目を見開き、ただ驚いていた。
空はそんな2人の表情に気づいていないのか、それとも彼女を守りたいだけなのか、必死に言葉を紡いでいた。
「お前は初対面なのに、なんでそんなことを簡単に聞けるんだよ! 今回の事件で彼女がどれだけ辛い思いや悲しい思いをしたか知らないくせに……わからないくせにっ!」
怒鳴りつけるように言っている空の表情は歪んでおり、今にも泣きだしそうだった。
しかし彼らは、なぜ空がそんな表情をしているのかわからなかった。
そんな時、彼女が思いきり空の腰に抱きついた。
「っ!? お、おい、優那!?」
「空君、もういいから! 私の事ならもう大丈夫だから!」
「で、でも……」
この会話を聞いて、2人はなんで空があんな表情をしていたのかを悟った。
空はきっと、彼女の気持ちを聞いていたのだろう。だからきっと、今回の殺人事件に対する彼女の思いをしているかも知っていたはずだ。
だからこそ初対面である光に、深く聞かないでほしかったのだ。
海は光に近づき、2人に聞こえないように喋った。
「どないする? 彼女は大丈夫や言うとるけど」
「どうするも何も、彼女が話してくれることを祈るしかないだろ」
「せやなぁ……」
「って、聞く気満々じゃねぇかっ!」
今の2人の会話が聞こえたのか、空は思い切り叫んだ。
それで空は耳がよかったことを思い出し、海は頭を掻き、光はため息をついた。
「それで、話してくれるのか?」
「……はい、大丈夫です」
「大丈夫らしいで、空」
「んなもん、わかってる! ほら、あそこに行くぞ!」
「「あそこ?」」
空の言葉に疑問を抱き、聞き返した。
それを思い切り無視した空の代わりに、彼女が答えた。
「私と空君が出会い、私にとって思い出の場所の1つである……とある喫茶店です」