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異世界コレクター ~コンプ済み廃人ゲーマーは転生先でも無双してすべてを集めるようです~  作者: りゅーいち
第2章 ハクタの町に迫る影

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4 ノーマン町長

 マゼンタから農場予定地を聞いたところ、なんと農地はハクタの町の外にあるらしい。


 無職(ノービス)でも問題ないのかはもちろん質問したが、町周辺の農地には門番と同じような役割を持つ兵士が警戒と魔物の討伐に当たっているらしく、魔物によって大怪我を負った人はほとんどいないという。


(まあ、職業(ジョブ)を持った人がほとんどだというのだから、スライム程度では相手にならないんだろうな)


 とジンは考えた。


 なぜなら、たとえレベル1であっても、無職(ノービス)とそれ以外とではかなり能力に差が生まれるからだ。


 例えばハクタの町に来る前のように、無職(ノービス)であればスライムを一撃で殴り倒すためにカウンターが必要なのだが、仮に剣士(ソードマン)の職業(ジョブ)を持っている場合はただ殴るだけで倒せる場合がある。

 戦士(ファイター)であれば確定で倒せるし、魔法職の魔法使い(メイジ)や僧侶(クレリック)でも無職(ノービス)よりは殴る回数が少なくて済む。


(盗賊(シーフ)でなくても、別の職でならこんなに考えなくて済むんだけどな……)


 自身の境遇に落ち込みかけたジンは、頬を軽く叩いて無理矢理に思考を切り替える。


 農場予定地はハクタの町の南門を出て近くとのことなので、依頼書を持ってすぐに向かうことにした。

 この依頼以降の魔物討伐の時間を少しでも長くしたいと考えたためだ。魔物討伐以外で無職(ノービス)のレベルアップはしないのだから仕方がない。


 南門はジンが初めてハクタの町に入ってきたものとは真逆の門であり、ここから先の景色をジンは初めて目にした。


 北門から先は街道と草原が広がっていたが、南門から先は大規模な穀倉地帯といった趣だ。青々と茂っているのは麦に似ている気がする。宿で出されたパンの原料なのだろうか。


 そんな中で、全く植物の生えていない一角が見えた。あれが今回の依頼対象である開墾地なのだろう。


 近くまで行ってみると、1人の兵士がこちらを見て一礼をした。鉄の槍を手に持っていることから、職業(ジョブ)は騎士(ナイト)もしくは戦士(ファイター)だろうか。


「今回ノーマン様の依頼を受けたのは貴殿ということでよろしいか?」


「そうだ。これが依頼書だ」


 そう言うとジンはサイン入りの依頼書を差し出した。兵士はそれを受け取ると、軽く内容を確認してジンに向き直った。


「ジン殿、だな。初めて見る顔と名前だが、冒険者登録して間もないということか?」


 ジンには分からなかったが、きっと自分のネームタグを確認したのだろう。


「登録したのも、ハクタの町に来たのも昨日だ。いきなり町長殿の依頼を受けられてラッキーだと思っている」


「なるほどなるほど、ラッキーか。貴殿もいずれは立身出世をってクチか? だったら冒険者稼業は悪いことではないと思うぞ。俺の先輩にも冒険者あがりが何人かいるが、同期入団の先輩と比べて戦いの腕は一枚も二枚も上だからな」


 と、兵士は自慢するように答えてくれた。別に出世を目指しているわけではないんだが……。

 ジンは少し苦笑いしながらも依頼の詳細について聞いてみることにした。


「少しでもお眼鏡にかなうよう頑張るよ……早速で悪いんだが、依頼内容にあった“1人分”の農地ってどれくらいの広さなのか教えてくれるか?」


「ああ、この依頼は結構曖昧なところがあるからな。とはいえ説明も非常にざっくりなんだが、いま目の前にある荒野みたいなこの土地、これで10人分だ」


 そう言われた植物の生えていない土地は、ざっと体育館2つ分はありそうだ。これを1日で耕し切るのはよほど体力を持て余した人間でなくては不可能ではないか、と思える量だ。


 さらに兵士は注意を促すように人差し指を立てながらジンに向かって語りかける。


「ただし、耕すのもただ耕すだけじゃダメだ。俺が少しだけ耕しておいたから、それと同じような土の状態になって初めて農地として認める。農具はそこに置いてあるものを使ってもいいし、自前のものがあればそれを使ってもいい」


 立てた人差し指が差す先には、しっかり掘り返されて色の変わった土が見えた。


(ううむ、これは思った以上に重労働かもしれないな……)


 かなり骨が折れそうだなあと思っていると、ジンに少しの閃きが起こる。


「ちなみにここで、魔法を使うことはできるか?」


「ほう、魔法が使えるのか。もちろん使っていいぞ。ただし、他の作物に被害が出るようなものはやめてくれ。魔物が出た時も呼んでくれればすぐに駆けつけるからな」


「ありがとう。何か危険があったら呼ぶことにするよ」


 言いながら、ジンは実験が1つできることに安堵した。


 実験はプチヒールに関することだ。

 EWOでのプチヒールの効果はHPの回復。


 では疲労はどうだろうか。もともと疲労の概念のないEWOでは確かめようもない内容だからだ。


 昨日までもプチヒールを使ってはいたものの、相手がスライムばかりで、戦闘の合間もほどほどに開いていたことから疲労に関しては実感が薄かった。


 ただその夜にすぐ眠ってしまったことから、完全な疲労回復にはプチヒールでは物足りない可能性が高いが、少しでも軽減できるならやっておくに越したことはない。


「じゃあ、耕してくれた場所の隣から始めていくぞ」


「よろしく頼む。作業を終了する場合や、何か質問があるならまた呼んでくれ。俺は向こうの見張り小屋にいるからな」


 と言って兵士は去っていった。

 その背中を確認すると、ジンはまず耕された土の状態を確かめた。周囲の土と比べて明らかに柔らかく、また色も濃い茶色をしている。


「ここまで耕すのにどれほどかかるのかは分からないが、まずはやってみよう」


 そう言ってクワを持ち、地面に振り下ろす。ざくっと土にクワが刺さり、持ち上げると下から新しい土が現れた。何度もクワを振り下ろして土を掘り返すと、だんだんと土の色が濃くなっていくのがわかる。


(確かに重労働だが、成果が目に見えているからか楽しいぞ)


 さらに繰り返すと、ようやく目標の土の状態になった。ふかふかで柔らかい。

 更にざくざくと土の掘り返しを行い、大体5メートルほど進んだところで腕が少し疲れてきた。


「ここらで一度試してみるか。“プチヒール”」


 自分に向かって魔法を唱えると、淡い光がジンの体を包む。現在特に怪我をしていないのだが、魔法の効果はというと、


「ふむ、これなら効果があるって考えていいだろうな」


 ジンは右腕と左腕を回して疲労の状態を確認した。劇的とまではいかないが、確実に腕の疲労を軽くすることに成功していた。


 これならまだまだ開墾ができるぞ、と思いながらジンは作業を再開した。




 ――ジンがプチヒールの実験を終え、再び作業に没頭したころ。

 その様子を、2人の人物が農地の見張り小屋から見ていた。


 1人はジンから依頼書を受け取った兵士だ。

 そしてもう1人は、


「こんな荒屋で申し訳ありません、そう何度もお越しにならなくても問題ありませんよ、ノーマン町長」


 と、頭を下げた兵士の先にある人物。ノーマン町長だ。


 恰幅が良い中年の男性である。大物然としているが服装は決して豪奢なものではなく、その眼差しには知性を感じる。貴族というよりはやり手の商人といったほうが彼には適しているだろう。


「私の趣味みたいなものだ、気にする必要はない。この見張り小屋も私が言って建てさせたのだしな、そんなにかしこまらないでくれ……それより彼、ジン君はどんな感じだった?」


「ひとまずは順調かと。ただ彼は石(ストーン)冒険者で、かつ冒険者登録も昨日行ったとのことです。普通なら銅(ブロンズ)か銀(シルバー)の冒険者パーティーに加入して下積みをする期間のはずですが……」


「ふむ、確かに石(ストーン)でいきなり個人の依頼受注は珍しいな」


「それに、魔法を使ってもよいかという質問をされました。目立つ武器を持っていないので、てっきり職業(ジョブ)は魔法使い(メイジ)か何かかと思っていたのですが」


 と、兵士は窓の外に見えるジンの働く姿を眺める。ジンは普通にクワを使って地面を耕しているようだ。


「ふむ、たしかに魔法を使う様子はないな……魔法使い(メイジ)か僧侶(クレリック)であれば、若くても防衛団への加入をかなり前向きに検討できたのだが」


 度々行われるノーマン町長の“視察”の目的は、防衛団と呼ばれる組織への引き抜きのための人物選定だ。


 防衛団は、ハクタの町を魔物や野盗から守るノーマン町長お抱えの騎士団のようなもので、本人は権力的な意味合いを持つ言葉を嫌うため、防衛団という名前にしている。


 なお、ノーマンが防衛団を動かすことはなく、あくまでも団員の加入に責任を持つ、という立場を貫いている。

 本人も、自分が戦よりは農地開墾などの内政に才能を持つ人間だとわかっているため特に不満はない。


 もちろん冒険者ギルドとの関係を保つために、加入は本人の自由意志をもとに行われる。


 ただ加入を認めた団員が問題を起こしたとなれば、町に住む人たちの不安や防衛団そのものを問題視する事態になりかねないため、こうして将来のために自ら確認をしているのだ。


「現在は、というかこれまでも慢性的に魔法職は不足していますからね」


「仕方がないことではあるのだがね。そもそも冒険者としても魔法職は引っ張りだこだろうしな……もう少し募集時の給料を上げてみるのも……」


 その言葉を聞いた兵士が慌てて止めに入る。


「やめてください町長。町長がハクタの町をお好きなのは我々も十分理解しておりますが、これ以上私財を使われるのでは我々が困ります。せめて防衛団(うち)の団長よりはいい生活してください本当に」


「む、税で足りない分を私が補って何が悪い。どちらも町民のために使っておるのだ、使い道に誰も文句は言うまい。それに子供達にもちゃんとお金は使っているぞ」


「あー、それは孤児院の子達ですね。さも自分と血の繋がった子のように言わないでいただきたい……そんなだから男爵様になって長いのに浮いた話も陞爵の話も無いんですよ」


「陞爵はともかく伴侶の話は余計だ、ばかもの」


 ……他の貴族であれば、一兵卒が発言すれば無礼千万として何かしらの罰があってもおかしくない内容だが、彼らにそのような雰囲気はない。


 この気さくさと、農場の見張り小屋をはじめとした庶民に対する深い思慮が、彼が長く町長の座に就きながらも大きな不満が出ない理由の1つだ。


「さて、今日はこれでおしまいにしよう。彼、ジン君が何かしらの成果を上げて防衛団(うち)に来てくれることを期待しよう」


 そう言ってノーマンは壁にかけていた、使い古しのフード付きマントを手にとって小屋の外に歩きだした。

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