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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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3/ラーイウラ王城 -12 二回戦(上) 暗殺者

「──あれは、ママじゃない」


 しばし無言で物思いに耽っていたネルが、ぽつりと呟いた。


「ラライエ四十二世は、ママじゃない。ママであるはずがない。ママが、あんなことを指示するはずがない。なら──」


 ネルの視線が、ラライエ四十二世を射抜く。


「あれは、誰? ママはどこへ行ったの?」


 なんと言葉を返せばいいのだろう。

 ラライエ四十二世については、あまりに不審な点が多い。

 ネルの母親の年齢と、老人のようなあの手が符合しない。

 だが、ネルの母親でないという決定的な証拠もまた、ないのだ。

 無責任に同意するわけにもいかない。


「ね、ネル……」


 プルが、ネルの肩を抱く。


「……探そう。優勝して、お、王の間に行こう」


「──…………」


 ネルが、プルの手に、自らの手を重ねた。


「……ありがとう。ごめん。すこし、取り乱した」


「致し方あるまい。母親かもしれぬ人間が、あの様子ではな」


 顔を御簾で隠したラライエ四十二世は、玉座に腰を下ろしたまま身じろぎ一つせずに御前試合を眺めている。

 御簾の向こうに、どんな顔が隠れているのか。

 それは、まだわからなかった。


「──おい、カタナ」


 振り返る。

 そこに、ヴェゼルを連れたアーラーヤが立っていた。


「落ち着いたから、連れて来たぜ」


「──…………」


 ヴェゼルは、腫れぼったい目を誤魔化すように、明後日の方向を睨みつけている。


「えーと……」


 何を言えばいいんだ。


「……大丈夫だった、か?」


「大丈夫なわけないだろ! お前のせいで──」


 ぺし!


「あいた!」


 アーラーヤが、ヴェゼルの後頭部を軽く叩いたのだ。


「……あなたのおかげで?」


「ううう……」


 不服そうにこちらを睨め上げながら、ヴェゼルが口を開く。


「……あ、あなたのおかげで、大丈夫でした」


「礼は」


「ありがとう、ございます……」


「よく言えた」


 アーラーヤが、ヴェゼルの頭をぽんと撫でる。


「間抜けな負け方したくせにい……!」


「四刀流を使わなきゃ、真っ向から負けてた。カタナと当たった時点で詰んでたんだよ、俺らは」


「──…………」


 ヴェゼルが、不信の目をアーラーヤに向ける。

 しゃーない、フォロー入れておくか。


「アーラーヤは強かったぞ。ルールに助けられた。野試合で一発目から四刀流を叩き込まれてたら、正直わからなかったな。だから、アーラーヤを選んだヴェゼルの目も確かだ。それは誇っていい」


「……ヴェゼルさま、だろ」


 ぺし!


「ぎゃん!」


 ヴェゼルの後頭部に、再び一撃が入る。


「主をべしべし叩くなよおー!」


「お前の父親に、甘やかすなって言われてんの」


「ううう……」


 ヴェゼルが、涙目でこちらを睨む。

 いや、睨まれましても。


「ほら、伝えることがあるんだろ」


「──…………」


「言ってたじゃねえか。ロウ・ララクタの領主ジゼル=エル=ラライエの七女として、受けた恩は必ず──」


「わああ!」


 なんだ、照れ隠しか。

 皆と顔を見合わせ、くすりと笑う。

 微笑ましい。


「……カタナ=ウドウ」


「なんだ?」


「不本意だけど。ふ、ほ、ん、い、だけど。……まあ、うん、助けられたのは事実。たかだか奴隷にはもったいないけれど、ボクの知る情報を教えてやるのもやぶさかではないよ」


「へえー、どんな情報だ?」


「お前が二回戦で当たる相手──ルアン=デイコスの情報。聞きたくない?」


「めっちゃ聞きたい」


 ヴェゼルが不敵な笑みを浮かべる。


「いいだろう。これで、貸し借りはなしだよ」


「ああ、それでいいぜ」


 俺は、深々と頷いた。

 人助けはしておくもんだ。


「アーラーヤが失格になったことで、わかりやすく魔術を使う輩は減るはず。でも、ルアン=デイコスには関係ない。あれの使う魔術は特殊で、目立たないものだから」


 ヴェゼルが、優雅に腕を組む。


「秘伝魔術、血操術。それが、デイコスの使う魔術の名前」


 ヘレジナが瞠目する。


「──そうか、デイコス。暗殺者か!」


「そっちの奴隷は知っているようだね。デイコスと言えば、闇の世界で名を轟かせる暗殺者の一族。しかし、その暗殺手段を知る者は少ない。ボクは、独自の情報網で掴んでいるけどね」


「血操術、か。やっぱ、血を使うのか?」


「相手に自分の血液を付着させて、それを一時的に針の形に凝固させるんだ。もちろん、内側にね。付着させた血液が多ければ多いほど、針は太く深くまで刺さる。目潰しなんてされてごらん。脳まで串刺しだよ」


「ひ」


 ヤーエルヘルが、目元を手で隠す。


「たしかに暗殺向きの魔術だな。武器はいらないし、証拠も残らない」


 科学捜査のメスが入らなければ、確実に迷宮入りだ。


「サンキュー、助かった。なんの知識もなかったら痛い目見るとこだったわ」


「カタナ、お前に負けてもらっては困るんだよ。せめて優勝者に負けたことにしなければ、ボクも家で立つ瀬がないんだ。だから、応援してやる。光栄に思えよ」


「ああ、そうする──」



 風が、吹いた。



 避ける。

 数瞬前に俺がいた場所を、質量のある何かが通り過ぎて行った。

 それは、人間だった。

 二つ折りにされ、即死している。

 飛んできた方向に視線を向けると、ジグと目が合った。




「フンディマ=ルンヤ死亡により、勝者、ジグ=インヤトヮ!」




 ヘレジナが、苦々しく言う。


「……あの男、カタナを挑発しておる」


「ジグ=インヤトヮか」


 アーラーヤが、ジグを睨みつけた。


「あいつ、強いだろ。半端じゃなく」


「ああ。四刀流を封じられたら、あんたでも無理だ」


「まったく、強いやつばかりで参っちまうな」


「奇跡級上位のあんたが言うかよ……」


「俺は、格下相手によゆーで勝つのが好きなの。わかる?」


「……まあ、わからんでもない」


「だろ?」


「そもそも、戦わずに済むなら、それがいちばんいいんだけどな」


「──…………」


 アーラーヤが目をまるくする。


「お前ほどの強さで、あっさりそれが言えんのか」


「……おかしいか?」


「俺が負けた理由がわかった気がするよ」


 アーラーヤが、そう言って苦笑した。

 ヴェゼルが、俺の肩をぽんと叩く。


「ま、せいぜい頑張ることだね。特等席で見ていてあげる」


「おう、助かったわ」


「じゃあね」


「またな、カタナ。そっちのお嬢ちゃんたちもよ」


「ああ」


 ヴェゼルとアーラーヤが、待機場所へと戻っていく。

 敗退した他の貴族たちも、おおよそは残って御前試合の行く末を観覧するようだった。

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