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3/地竜窟 -終 無限の選択肢の、その先へ [第一章・了]

 プルの膝枕で気持ちよく目覚めたあと、今後の方針について話し合うことにした。


「これからどーすっかな……」


 二時間ほど睡眠を取ったが、幸い、飛竜騎団の第二陣は来ていない。

 既に諦めたのかもしれなかった。


「……わ、わたしが生きてるからには、あの神託は、わたしを陥れるものだった……。もう、パレ・ハラドナには帰れない、……ね」


「そうですね……」


「わざわざこんなところへ向かわせてからルインラインに殺させるなんざ、随分臆病な犯人だな」


「ああ。しかし、これは明確な悪意、殺意である。そして、犯人は一定以上の権力の持ち主だ。数名顔は浮かぶが、確たる証拠はない。いずれにせよ、神託を外した巫女として権威を失墜させようとするか、あるいは謀殺しようとするだろう」


「ンなとこにプルを帰せるわけがない」


「……で、でも、パラキストリに降伏するのも、だめ。あれだけ派手にしちゃったから、もしかしたら、重犯罪者扱いになってるかも……」


「──…………」


「──……」


 プルとヘレジナが、同時にこちらを見る。


「カタナ。[羅針盤]はなんと?」


「あー……」


 痒くもない後頭部を掻く。


「……あくまで感覚なんだが、選択肢はもう見えない気がする」


「そ、そうなの……?」


「エル=タナエルの目的は、たぶん、プルが生き延びることだった。それが果たされた以上は、俺たちを導く必要はない。そういうことだ」


「わたしが、生き延びること……?」


 プルが目をまるくする。


「わ、わたし、エル=タナエルに嫌われて……」


「ルインラインの言葉を借りるなら、エル=タナエルの意志は皇巫女にしかわからない。俺のは当てずっぽうだよ。山勘よりはマシだと思うけどな」


「そ、……っか……」


 プルが、複雑な表情で頷く。


「──となると、カタナは完全に戦力外か」


「ぐ」


 ヘレジナの火の玉ストレートが俺の胸をえぐる。


「あ、いや、そのだな。そういうつもりでは……」


 仕方ない。


「……試してみるか」


「?」


 ルインラインの遺体の傍へ向かい、軽く手を合わせてから片膝をつく。

 そして、折れた神剣と鞘を拝借した。


「どうするのだ?」


「試したいことがある。寸止めで打ち込んできてくれ」


「か、かたな。あんまり暴れたら、また傷が……」


 心配するプルに向かって、安心させるように微笑む。


「一分あればわかる。そのくらいならいいだろ?」


「……い、一分だけ、だよ?」


「ああ」


 ヘレジナが双剣を抜き放ち、隙なく構える。


「──行くぞ!」


 目を大きく開き、ヘレジナを睨みつける。

 過集中、とでも言うのだろうか。

 視野が狭くなり、時の流れが緩やかになっていく。

 予感していた通りだ。

 一歩。

 二歩。

 双剣を同時に振りかぶり、縦に二筋の剣閃が走る。

 俺は、ヘレジナへ向けて一歩を踏み出し、剣閃のあいだに半身をねじ込んだ。


「──!」


 ヘレジナの顔が間近に迫る。

 そして、折れた神剣を、ヘレジナの股間から真上に向けて斬り上げる。


「ふッ!」


 ヘレジナが宙返りをして俺の一撃を避け、着地と同時に、地を這うような低さの一閃を俺の足首めがけて放つ。

 それをジャンプして避け、そのままヘレジナを踏み潰した。


「ぎゅぷ!」


 時の流れが元に戻る。


「あ、すまん」


 足をどける。

 十秒ほどで事は済んでしまった。


「──な、納得いかん! いくら手加減したとは言え、どうしていきなり奇跡級中位の私と渡り合えるのだ!」


「なんか、できる気がしたんだよ。[羅針盤]があったとは言え、ルインラインの猛攻をしのぎ続けたからかもな」


「それで本当にできちゃったら、日々の修行はいらんのだ……」


「ふへ」


 俺が褒められると、この子は相変わらず嬉しそうだ。


「ともあれ、これで自衛くらいはできそうだ」


「それだけ動ければ十分だろう。カタナの級位は、恐らく奇跡級下位と同等だ。少々間の抜けた言い方になるが、平均的な達人の域となる。たいていの相手には遅れを取らん」


「そうか」


 これで、ヘレジナに頼りきりにならずに済む。

 嬉しかった。


「……、そ、その。わたし、行きたいところがある、の……」


「おお、よいではないですか。パレ・ハラドナには帰れない、パラキストリにも降れないとなれば、私たちは逃げの一手を打つしかない。ですが、それは対処であって目標ではありません。どこへ行き、何を成すか。その大目標がないのです」


「そうだな。プル、どこへ行きたい?」


 彼女の口から出てきた言葉は、意外なものだった。


「えっと、ね。その……、みやぎ……」


「……宮城?」


 俺の故郷だ。


「わ、わたし、……もう、帰る場所、ないから。みやぎで、かたなといっしょに、おこめ作って暮らしたいな……」


「──…………」


 そうか。

 プルには、もう、この世界に安住の地はないんだな。


「……だめ、かな?」


「けっこう重労働だぞ?」


「が、がんばる……!」


「よし」


 口角が自然に上がる。


「目的地は決まりだ。実家、無駄に広いからな。二人の部屋くらいは用意できる」


「カタナ……」


 ヘレジナが、呟くように、それでいて安堵したように言った。


「ありがとう」


「う、うん! ありがとう!」


「──…………」


 そんな二人の笑顔から目を逸らし、眉をひそめる。

 ああ、そうだよ。

 照れ隠しだよ。

 だが、そんな俺の性格は既に知られている。

 プルとヘレジナが互いに顔を見合わせ、くすりと笑っているのが横目で見えた。


「……ほら、そろそろ行くぞ!」


 二人を置いて歩き出す。


「置いて行くな、置いて行くな」


「まってー!」


 ルインラインの神剣を手に、一瞬だけ遺体に向き直る。


「──…………」


「──……」


 見れば、プルとヘレジナも同じだった。

 二人とも自分なりの別れを心の中で済ませているのだろう。


 ルインラインに語りかける。

 神剣、借りるぞ。

 あんたの技も、なんとか練習してみる。

 だから、故郷でおやすみ。

 胸中でそれだけを告げて、ルインラインに背を向けた。


「──今後の具体的な方針ですが」


 ヘレジナが、空中に指で地図を描きながら言う。


「西へ向かうのはいかがでしょうか。パラキスト丘陵の先に、ベイアナットという街があります。そこで身支度を整え、南西のアインハネス公国へ入る。国を跨げば、パラキストリも刺客を放ってはこないでしょう」


「おおー……」


「詳しくないからな。まかせる」


「ふふん、そうしておけ。身の安全は保証しよう」


 ヘレジナが薄い胸を張ってみせた。

 地竜の遺骸のところまで来たとき、ふとプルが口を開いた。


「そだ」


「どうした」


「かたなにね、言ってないことがあったな、……って」


「……なんかあったか?」


 記憶に引っ掛かるものはない。


「……う、……っと。えと、ね。ふへ、へ……」


 しばし誤魔化すように笑ったあと、プルが俺の名を呼んだ。


「かたな」


「ああ」


「──世界でいちばん、かっこよかったよ」


「──…………」


 思わず目を見張る。

 そして、涙が出そうになっている自分を見つけた。


「……それだけ!」


 プルが、足早に階段を上がっていく。


「お、お待ちください、プルさま!」


 ヘレジナの背中を追うように、ゆっくりと階段を昇り始める。

 報われた、気がした。

 その一言で、救われた気がした。

[羅針盤]はもうない。

 選択肢は現れない。

 しかし、俺たちは、常に何かを選び取り、別の可能性を捨て去りながら生きている。

 人生は選択の連続だ──なんて、どこかの劇作家が言っていたっけな。



 俺たちは、行く。

 無限の選択肢の、その先へ。

 それが、きっと、生きるということだから。

第一章 あとがき


異世界は選択の連続である[Re:](以下異世択Re)をここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この第一章は、異世択Reという長い長い物語の序章に過ぎません。

さまざまな出会いと別れ、そして試練が、主人公である形無を待ち受けています。

形無の物語に、今後もお付き合いいただけると幸いです。


もし面白いと感じていただけたなら、一言でもいいのでフォローやコメントをいただけると、筆者の今後の糧となります。

どうぞ、よろしくお願い致します。

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