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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部六章 亜人国家トレロ・マ・レボロ
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3/トレロ・マ・レボロ -18 ヤガタニ

「……プルを、助ける。それが、たぶん、いちばん早い」


「そうだな。俺もそう思う」


 ヤーエルヘルが言う。


「いずれにしても、プルさんを放ってはおけない。このままでは処刑されてしまうから。二兎を追うと言うのであれば、それしかありません。もっとも、今すぐに追い掛けるのはおすすめできませんが」


 わかっている。

 魔竜と化したルインラインがプルを連れている以上、無策で突っ込むのは蛮勇以外の何物でもない。


「──…………」


 俺は、三人の顔をゆっくりと見つめた。


「アーラーヤ。クロケー。……そして、たぶん、ヤーエルヘル。俺を助けてくれ。俺の、大切な人たちを、一緒に助けてくれ」


 アーラーヤが、ニヤリと笑ってみせた。


「当然だ。死にそうな仲間を放っておけるような人間じゃないんだわ、俺」


 思わず笑みがこぼれる。


「……ああ。アーラーヤはそう言ってくれると思ったよ」


 クロケーが、決意の籠もった瞳で言う。


「オレも行く! 今は、一人デモ味方が欲しいだろ。オレは未熟だ。デモ、たとえ未熟だって、できるコトはゼロじゃない!」


 嗚呼。

 お前がいてくれてよかったよ、クロケー。


「ありがとう。一緒に行こう」


「アア!」


「──…………」


 オレは、ヤーエルヘルの姿をした彼女を見つめた。


「名が必要なら、ヤガタニとお呼びください」


「ヤガタニ──って、ヤーエルヘルの姓?」


「姓ではないのです。私とあの子は表裏一体の存在。ヤーエルヘルともヤガタニとも呼ばれていたから、あの子が勘違いしただけ。外見では、どちらかわかりませんからね」


「そうなのか……」


「あの子は、今、ヘレジナさんが亡くなりかけたことにショックを受け、私の中で眠りについています。ネルさんのときと同じですが、前回の比ではありません。ヘレジナさんとは、何ヶ月も旅を共にしてきました。このままヘレジナさんが亡くなるようなことがあれば、永遠に眠り続ける可能性もあるでしょう」


「ナナイロのときは、どうだったんだ?」


「あのときの悲しみも、今回と大きく変わりはしません。ですが、ショックではなかった。ナナさんが死を受け入れていたから。あの子は、納得して、ナナさんを見送ったのです」


「……そっか」


 ヘレジナをナナイロの元へ行かせるわけにはいかない。

 なんとしてでも救わなければ。


「とイウか、ヤガタニ。ヤーエルヘルとお前って、何者なんだ……?」


 クロケーの素朴な疑問に、ヤガタニが答える。


「私は──」


 そのとき、ノイズが走った。




「    。      は      です」




 不自然なノイズに遮られて、何も聞こえなかった。


「……今、なんて言った?」


「でしょうね」


 ヤガタニが溜め息をつく。


「認識にロックが掛かっています。私とヤーエルヘルが何者であるか。それを知ることは、世界法則で不可能とされているのです。手を離せばリンゴが落ちる。壁を素通りすることはできない。それらと同じことです」


 アーラーヤが眉根を寄せた。


「おいおい、やべえこと言ってねえか……?」


「ただし──」


 ヤガタニが視線を明後日の方向へ向ける。

 それは、東だった。


「アルクハルヴァ神殿。私たちが長い時間を過ごしたあの神殿であれば、ある程度法則が緩和できます。神殿内では時間を操作できますから、ヘレジナさんの死までの猶予を稼ぐことも可能です。今は、そちらへ向かいましょう」


「アルクハルヴァ、……神殿」


 ハルヴァ。

 街でも村でもなかったのだから、見つからなくて当然だ。


「場所はわかるか?」


「はい。おおよそは」


「わかった」


 俺は、ゆっくりと立ち上がった。


「アーラーヤ。ヘレジナを背負わせてくれないか。俺が運びたいんだ」


「ああ、了解。ヘレジナだって、お前の背中がいいだろうよ」


 アーラーヤの協力を得て、ヘレジナをおんぶする。

 みしり、と、折れた鎖骨と肋骨が悲鳴を上げた。


「づッ!」


 だが、軽い。

 この華奢な体で、あれほどの強さを誇っていたのだ。


「……カタナ。お前、どっか痛めてんのか?」


「たぶん、骨が数本折れてる」


「馬鹿野郎! すぐに言え!」


 アーラーヤが、すぐさま治癒術をかけてくれる。

 だが、ヘレジナを下ろす気にはなれなかった。

 アーラーヤに礼を言い、歩き出す。


「──行こう。アルクハルヴァ神殿へ」


「アア!」


「おう!」


「はい」


 徒歩で預かり所へと戻る。

 マウダンテトの各所で破壊音と銃声が響き渡っており、住民たちは逃げたのか、街に人の気配はなかった。


「──…………」


 神殿へ向かう。

 そう決意しても、あの子のことが脳裏をよぎる。


 この音の先に、プルがいる。

 もしルインラインを打ち斃すことができれば、その場でプルを取り返すことができるのだ。


 俺は、未練を断ち切るように首を振った。

 不可能だ。

 今の俺たちの手札では、どう足掻いてもルインラインに勝つことはできない。

 犬死にするのがせいぜいだ。

 恐らく、あの魔竜と戦うという選択肢自体が、そもそも間違いなのだろう。

 ならば、どうすべきか。

 その展望は、まだ見えない。


 従業員のいない預かり所で、騎竜を騎竜車へと繋げる。

 俺は、騎竜の手綱を引き絞り、打った。

 向かうはアルクハルヴァ神殿。


 プルを取り戻す。

 そして、ヘレジナを目覚めさせる。


 ──絶対に。

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