↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部四章 ウージスパイン魔術大学校
161/292

3/魔術研究棟 -5 魔術研究棟

 ウージスパイン魔術大学校、十二時の門。

 優に身長の三倍はある鉄柵門の前に、俺たちは立っていた。

 幸い、見張りの姿はない。


「さて、どうする。私だけであれば跳び越えても行けるが」


「大丈夫だ。皆、ちょっと離れててくれ」


「お前、まさか──」


 神剣を抜き放つ。

 そして、柄を握り締めながら、右手の人差し指と小指を立てた。



 ──キュボッ!



 白き炎が揺らめき立ち、瞬時に刀身を成す。

 俺は、白き神剣の二振りで、鉄柵の一部を溶断した。

 鉄の蒸発する音が周囲に響き、斬り落とされた幾つかの鉄棒が、がらんがらんと音を立てる。

 後には、人ひとりがくぐり抜けるのに十分な隙間が開いていた。


「これでいい」


「わ、わ、……すごい!」


「すごーい、でし!」


「……とんでもないやつに、とんでもない物を与えてしまったのではないか?」


 全優科の敷地を走る。

 魔術研究棟への道のりは覚えている。

 長大な直線水路(カナール)

 涼やかな壁泉。

 それを囲むように張られた、広々とした芝生。

 たった二日ぶりの風景がこんなにも懐かしく思えるのは、ここに戻ってくることは二度とないと覚悟していたからだろう。


 やがて、無骨な建造物が見えてくる。


「──さーて、どうすっか」


「中には無辜の研究員たちも多くいるであろう。デイコスと研究員の判別がつかない以上、こちらから攻撃を仕掛けるわけにも行くまい。まず、出方を窺うべきだ」


 ヘレジナの言葉は当を得ている。


「わかった。プル、扉を開けてくれるか」


「う、……うん!」


 プルが、扉に埋め込まれた半輝石(セル)に触れる。

 だが──


「……あ、開かない。か、か、回路を切ってある、……みたい」


「わかった」


 であれば、仕方あるまい。


「悪い、また下がっててくれ」


 三人を下がらせ、灰燼術で再び神剣の刃を成す。

 そして、今度は円形に扉を穿った。

 円の中央を蹴り抜くと、扉に丸い穴が開く。


「行くぞ」


「もはや、何でもありであるな……」


 扉の穴をくぐり、魔術研究棟へと侵入する。

 灯術の明かりが目を灼いた。

 ホールにいた人々が、ざわめく。


「──な、なんだ、君たちは!」


 一人の研究員が、俺たちと距離を取りながら、誰何の声を上げる。


「イオタ=シャン、並びにツィゴニア=シャンを迎えに来ました」


 そう言った瞬間、


 ──ぴたり、と、ざわめきが止んだ。


 人々の顔に、驚愕、そして悲観が浮かぶ。

 研究員の誰かが、叫んだ。


「こいつ──カタナ=ウドウだッ!」


「な──」


「……カタナ=ウドウだって!?」


 ホールが混乱に満たされる。


「ま、待て!」


 ヘレジナが、慌てて皆を諫める。


「我々は、デイコスに囚われたイオタとツィゴニアを助け出しに来ただけだ! お前たちに危害を加えるつもりはない!」


「どうして! 何故、こんなところに!」


「すべて上手く行くはずだった、それなのに……!」


「──…………」


 俺は、灰燼術によって神剣の刃を成し、



 ──柱の一本を、叩き斬った。



「黙れ。動くな。許可なく喋ればデイコスと見なす」



 ホールが沈黙に包まれる。


「そこのヒゲ面」


「──は、はひッ!」


「イオタとツィゴニアは、この魔術研究棟にいるか」


「い……、います……」


「どこだ」


「ち、地下……」


「案内しろ」


「ぼ、……僕ですかァ?」


 男性研究員が、周囲を見渡す。

 だが、他の研究員たちは、揃って目を逸らした。


「う、う……」


 男性研究員が、震える足で、俺たちを案内しようとしたときのことだ。


「──やあ、やあ、やあ! カタナ=ウドウ君ではないか!」


 ホールの奥から白衣を着た長身の男性が現れた。


「ぱ、パラガン教授……!」


「ははは、参観会の武術大会では大暴れだったね! たいへん興味深く拝見させてもらったよ! ところで、こんなところでも大暴れしているようだが?」


「イオタとツィゴニアを探している」


 パラガンと呼ばれた男が、鷹揚に腕を開いた。


「ああ、彼らなら《《遊びに》》来ているとも! 何か問題でもあったかな」


「迎えに来た。案内してくれ」


「ああ、いいともいいとも。こちらへどうぞ」


 俺たちに背を向け、パラガンが歩き出す。

 案内すると言うからには、ついていくより他にない。


「ところで、何故こちらへ?」


「パドロ=デイコスに言われて来た」


「パドロ=デイコス──ああ、あの眼鏡の! はー、はー、なるほどなるほど」


 パラガンが、オーバーリアクション気味に何度も頷いた。


「彼、他に何か言ってなかったかな!」


「──…………」


 答えない。

 俺は、この男を信用していない。

 プルたちも、俺の判断を信じてか、何も言わなかった。


「ええー、会話もしてくれないのかい。おじさんつまらないな! まあ、いいけど。道中、我が魔術研究科の理念でも聞いて行きたまえ!」


 無機質な廊下を歩きながら、パラガンが続ける。


「魔術とは探求である。我々には既に手本が用意されている。であれば、その手本を目指し、さらにその先へ行くのが目標であるべきだ」


「──…………」


「魔術研究科では、新規魔術の開発の他、神代魔術の再現を行っている」


 ナナさんのことを思い出してか、ヤーエルヘルが口を開いた。


「それ、純粋魔術──でしか?」


「いやいやいや、もちろん純粋魔術とは異なるとも! 純粋魔術とは、あくまで主義、考え方に過ぎない。純粋魔術の生み出した便利な魔術があったとして、それを避けて通るのはおかしな話だろう? 空を飛べそうだから飛んだ純粋魔術の信奉者とは異なり、目的を持って空を飛ぶことを目指す。そのためには、既に空を飛んだ人々の手法を再現するのが近道だ。我々がやっているのは、それだよ」


 ヘレジナが呟く。


「詭弁のようにも思えるが……」


「ははは、よく言われる言われる! だが、純粋魔術なんかに予算は下りない。我々はあくまで、目的のために魔術を発展させている。それは疑いようのない事実だぜ」


 そう言って、パラガンが足を止める。


「さて、ここだ」


 物々しい扉の脇に、半輝石(セル)が埋め込まれている。

 パラガンは、懐から金属製のカードを取り出すと、それを半輝石(セル)の隣のスロットに差し込んだ。

 半輝石(セル)魔力(マナ)を込めることで、扉が左右に開いていく。


「こういったカードキーも、より良いセキュリティをと探求した成果だ。原理を説明しよう。半輝石(セル)と機構を繋ぐ術式に隙間を空け、そこに──」


「お前、時間稼ぎをしてるだろ」


「──……ッ」


 パラガンが息を呑む。


「わざと歩く速度を緩めていた。それを誤魔化すために長話をしていた。見ればわかる」


「……敵わないな」


 パラガンが、両手を上げた。


「わかった、わかった。ツィゴニア=シャンに会わせよう」


 扉の向こうに伸びるのは、角度のきつい階段だ。

 俺たちは、地獄に通じているとすら思える階段を、ゆっくりと下って行く。


 長い、長い、(きざはし)の先──


 地下に広がっていたのは、鋼鉄製の壁に囲まれた広大な空間だった。

 見渡す限り、何もない。


「──さて。ツィゴニア=シャンと会わせるためには、幾つか条件がある」


「条件?」


「戦闘テストに付き合ってもらいたい」


「──…………」


 目をすがめる。


「お前をここで斬って、別の誰かを連れて来てもいい」


「ははは、血気盛んだね! だけど、この空間は既に監視されているんだ。妙な行動を起こした際に、二人の安全は保証しかねるが、よろしいかな」


 エイザンやパドロみたいなことを言う。


「何と戦わせる気だ」


「そうそうそう、そうこなくっちゃ! なに、ちょっとした魔術兵器というやつさ。軍備増強、どこの国だって必要だろう?」


「くだらんな」


 ヘレジナが鼻を鳴らす。


「ウージスパインは、北に接するハウルマンバレー、南に接するクルドゥワ、島国であるアーウェンとも、良好な関係を結んでいると聞く。ラーイウラは王が代替わりし、すぐに国交が開かれるだろう。いったい何と戦うのだ」


「その蜜月が永久に続くと思うのが、素人の浅はかささ。関係が悪化してから増強したって遅いんだぜ。わかるかな、お嬢ちゃん」


「お嬢ちゃんではないわ!」


「──んで、その魔術兵器のテストを、あわよくば俺たちの始末ついでにしたいわけだ」


「その通り!」


 隠さなくなってきたな。


「勝手にしろよ。魔術兵器だのなんだの、好きに出せばいい」


「ほう! 大きく出たね、よろしい」


 パラガンが大声を張る。


「アーツェを、いるだけ出せ! 全部だ!」


 パラガンの声に呼応するように、



 ──ガコン。



 壁の一部が開いた。

 ざわざわと、人ならぬ声が耳をくすぐる。

 暗闇から現れ出たるものは──



 異形。


 無数の異形だった。



「ひ──」


 ヤーエルヘルが、俺の背中に隠れる。

 漆黒の肉体に三本の足。

 節くれ立った関節からは、幾つも歯が覗いている。

 無数の口の奥にてらてらと光る眼球があり、それらが俺たちを睨んでいるように見えた。

 数人の人間を鍋で煮て、ドロドロになった後に再び固めたような怪物だ。


「──さあ、見せてくれアーツェ! お前たちの戦闘能力を!」


 そう言って、パラガンが階段を上がっていく。

 パラガンが壁に設置されていた半輝石(セル)に触れると、床から五十段ほどの階段が格納され、俺たちは逃げ場を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。