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アップデートの悲哀

作者: ムクダム

 世界観、ものの考え方をアップデートせよと叫ばれる世の中だ。まるでコンピュータのOSを更新をするような気軽さで迫ってくるが、コンピュータのOSの更新は決して容易ではないことを思い出してほしい。

 人間が自らをアップデートするのはさらに困難なはずだ。職場の端末のOSをwindows10から11にアップデートするのに、ほぼ1日を費やした私が言うのだから間違いない。

 先日、四苦八苦の末、プログラム更新中の画面にまで進み、安心して退社したが、翌朝にはインストール失敗の文字が画面に浮かんでいた。一晩中付きっきりで見守らなかったのが悪ったのか。お前は面倒くさい恋人か。

 前日の苦労が無駄になったことに徒労感を覚えながら、再度PCを立ち上げるとアップデート完了の文字が目に飛び込んできた。さっきのエラーメッセージはどういう意味だ。態度のハッキリしない様子は、まるで仕事中の私を見るようだった。

 とは言え、無事アップデートは完了である。さぞかし操作性が良くなるだろうと期待したが、その期待はあっけなく裏切られた。アイコンの配置や配色が変わり、むしろ画面は前より見えづらくなった気がする。苦労の末に、自らが生きづらい環境を作ってしまったのか。

 技術を発展させて、より高度な仕事を創出し、楽になるどころか心身ともにボロボロになりながら生きる人類に思いを馳せ、自分も人類の一員として社会に参加していることを実感する。できればもっと幸せな気持ちで社会との繋がりを感じたかった。

 我が身を振り返ってみると、身の回りのものをアップデートして、前より楽になったという実感した経験がほとんどなかったことに気がつく。例えば、家電などは便利な機能が追加された分だけ操作が複雑になり、かえって使いづらくなることが多い。弱、中、強の3つのボタンのどれかを押すだけでよかった扇風機も、動き出すのにやたらと細かい設定を要求するようになった。下手をしたら以前からあった機能も満足に使えなくなることもある。

 おまけに、最新機種は保守点検の面倒も増える。こまめに世話をしないと機嫌を損ね、本来の機能を発揮してくれなくなるのだ。道具と私のどちらがどちらに使われているのか疑いたくなる状況だ。

 具体的な形を持った身近な家電でさえ、アップデートが常に良い方向に傾くとは限らないのだ。世界観やものの考え方といった抽象的な事柄のアップデートに不安を覚えるのは当然と言えるのではないか。

 より進んだ時代の考え方が過去の考え方より正しいとすると、現在もっとも進んでいて正しいとされる考え方も、時が経てば正しくない考え方となってしまうことになる。正しさとはそんなに簡単に変わってしまうものなのだろうか。

 生物は進化していくのだから、後に生まれた世代がより優れた存在となるという考え方も、あまり信用がおけない。人間はより良い存在になっていけるという驕りを感じてしまう。大体、100年や200年というスパンで物事を考えれば、現在80歳の人間も20歳の人間も同じ時代に生きた人間として一緒くたにされるだろう。

 例えば、一口に江戸時代といっても、その時代の中で文化や生活様式、人々の考え方にもさまざま違いがあったはずだが、現代の我々は往々にして江戸時代のイメージを固定化して考える。丁髷、侍、水戸黄門、八丁堀の七人、暴れん坊将軍などである。

 同様に後の時代から見れば、ここ100年くらいの人間は一括りにされ、同じように生きた人間としてカテゴライズされると考えるのが自然だ。年齢の違いなど大した問題ではない。娯楽だって同じだ。昭和歌謡もボカロ楽曲も100年後には古い時代の音楽として同列で扱われるようになる。歌われている内容だって、どれも似たようなものだ。

 別に、若い世代は上の世代を敬うべきと言いたいのではない。自分たちもいずれ過去になり、上の世代と同じような立場になるのだから、自分たちが正しく、優れているという傲慢さは捨てた方が良いと考えるのだ。その考え方はいずれ自らの首を絞めることになる。ちょうど、新人の頃は上司の仕事ぶりを軽視していた私が、いざ同じポジションになると上司よりも苦労するようになってしまったように。

 ところで、最近自宅のパソコンの動きが良くない。そろそろ新しい機種に買い替えるべきか。買ったばかりの機種なら、自分でアップデートする手間は省けるはずだ。少なくとも次のアップデートが発表されるまでは。  終わり  

 

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