二重越工業ロボット部立志編②〜モンスター〜
翌日。
沖縄県立宮古島市
沖縄県立二重越工業高校
電気科棟職員室
健一郎は全二郎と二重越工業を訪れ、まずは顧問の友利に挨拶することにした。
しかし、OBである健一郎は顧問が志喜屋から友利に変わっていることに驚いた。
顧問だった志喜屋は健一郎にしてみれば恩師にあたり、ロボット部の顧問を今でも務めていると思っていた。
「あれ?ロボット部といえば・・・志喜屋先生じゃないんですか?」
「あぁ、志喜屋先生は西原工科に行ったよ」
「え?」
「しかし、西原工科は・・・あれだからな・・・」
友利と健一郎は顔を曇らせる。
それを察した全二郎「どうしたんです?」と訊いてきた。
「西原工科は通称゛文教の町の吹き溜まり゛と呼ばれているほどの落ち校だよ」
「はぁ・・・これまた大変なとこに・・・」
前任者となっていた志喜屋は西原工科高校という沖縄県でも屈指の不良の巣窟へ赴任したようだった。
西原町には沖縄県の最高学府と言われる琉球大学があり、"文教の町"と呼ばれていた。
だが、その"文教の町"と相反する不良の巣窟が西原工科であった。
「そこでもロボコンやるって言ってたけど大丈夫かな?」
友利としては果たしてそのような場所でロボット競技を指導できるのか、不安であった。
「多分、あの志喜屋先生のことですから、大丈夫ですよ」
健一郎は不思議とどこかで志喜屋と再会しそうな予感がして、根拠はないものの、友利に答える。
友利も「だよな。じゃ、早速部室にでも行こうか」と健一郎の根拠のない予感を信じる事にした。
そして、友利に案内されて健一郎は懐かしき部室へ向かった。
「あっちにいるのは照屋と古波津。2年生だ」
友利に案内された場所には2年生の照屋章吉と古波津和雄コンビが高速カッターで部品となるアルミ材を切っていた。
「そこで話し合ってるのは嘉数と平安山。これなんかーも、2年生」
嘉数洋二と平安山仁コンビは入念に作戦を考えているようでそれをもとにこれから製作にとりかかるようだ。
「こっちは2年の3人組だ。古堅と山内、池間。池間が整備担当かな」
古堅信史と山内淳也が池間民雄と動作を確認しながら整備状況を見ている。
「あっちにいるのは3年生だな。といっても、課題研究の一環で参加している」
友利が指差す方向には3年で課題研究として参加している又吉和久と幸地夏生、与世山貴秋と浜川慶時がいた。
部長、副部長の島尻鳥治と野原亥助は友利に呼ばれ、健一郎と全二郎に挨拶した。
「こんにちはっす」
鳥治と亥助は健一郎に会釈する。
2人はどこか緊張した面持ちで健一郎と対面しているようだった。
「こんにちは」
―俺ごときにそこまで緊張しなくてもなぁ・・・
健一郎は自分を卑下したところでチラッと全二郎を見ると、全二郎は改めて見てみたら高校生からは強面に見えるのか、と分析した。
「部長の島尻と副部長の野原。こちらは宮古島青年団の武島と平良さん。武島はうちのOBだよ」
「マジすか!?」
綺麗に声を揃えて鳥治と亥助は驚き、健一郎は「ま、まぁ・・・」と戸惑ったところで、全二郎は改めて「あぁ、そうだ。新入部員はいる?」と本題を切り出す。
「まだいませんよ」
「え?」
健一郎はOBとしてのアドバイスを話し始める。
「平良さん、5月はまだ早いんですよ。大体、夏休みか校内大会ギリギリのところで入ってくるんですよ」
全二郎は「そうなのか」とここはOBの意見を尊重するか、とこのプロジェクト自体の時期を遅らせるか、と考えた。
その時、部室のドアが開き、緊張しながら2人の男子生徒―梯梧と扇鷲が入ってきた。
「あのー。入部したいんですが・・・」
―この時期に新入部員・・・早いな・・・
健一郎はまだその時期ではないのに新入部員がいる事に驚く。
「・・・言ってるそばから来てるさいがよ」
「・・・うそん」
全二郎にツッコまれてグゥの根も出なかった。
そんな空気を察した梯梧は「・・・なんか、マズイっすか?」と2人に訊く。
「いや、全然まずくない!むしろありがたい!!」とすぐに全二郎は2人をフォローする。
「だいずよ!マズくはないさー」
友利もすぐにフォローに入る。
何やら大人が焦っているように見えた梯梧と扇鷲は不安になった。
「だいずよ。んじゃ、何するか?だー、"なりやまあやぐ"でも歌ってもらうか?」
「何でいきなり宮古民謡かよ!」
全二郎のムチャぶりに全員がツッコミを入れる。
「♪サー・・・なりやま~や~」
「歌えるのかよ!」
健一郎は思わずツッコミを入れると、「・・・俺ら、おじいちゃん子なんで・・・」と弁明した。
その梯梧と扇鷲は入部届を持っており、さっそく2人は友利に入部届けを出して、晴れてロボット部の部員になった。
そして、全二郎から今年から宮古島青年団のバックアップがつくことを説明された。
「マジスか!?」
「そういうことなんで、よろしく。俺は武島健一郎。ここのOBだ」
「こ、こちらこそ・・・電気技術科の上野扇鷲です」
「情報技術科の平良梯梧です。よろしくお願いします!」
相変わらず緊張しながら2人は健一郎に自己紹介する。
「俺の事は知ってるよな?おっと、俺はこの辺で。市役所の仕事がたまってるさー」
「え?顔見知りだったんですか?」
健一郎は全二郎と2人が顔見知りである事に驚く。
「あぁ~。梯梧の父親と俺、兄弟だから昔から扇鷲も知ってるさーよ」と答える。
という事はあれもそういう事か、と先ほど"なりやまあやぐ"を歌わせたのも合点がいった。
「さっき、"なりやまあやぐ"を歌わせたのもそういうノリが昔からあったんですね」
「まぁよ」
全二郎は健一郎の疑問に答えるとすぐに「じゃあ、あとからなー」と工作室を後にする。
意外な繋がりを知った健一郎は2人にこれからの事を説明しようとしたが、2人が「あの・・・」と何かを言いたそうにしていた。
「俺、全二郎おじさんに無理矢理覚えさせられた・・・」
「俺は気が付いたら知ってた・・・」
「・・・あの人、どんな人かよ、まず」
全二郎が無理矢理梯梧に覚えさせ、それが扇鷲にも影響が出ていたらしく、ノリではなく、強要であった事が発覚し、健一郎はウソをつかれていたのだった。
そんな釈明もそこそこに健一郎は簡単にこれからのスケジュールを話す。
「基本的には8月からが本格的にやってく感じかな。9月に校内大会と県大会があって、10月が全国大会。うちは校内大会で県大会メンバーを決めるんだ。でも、おおよそ1勝できれば後はこっちで選考する感じになる」
「へぇー・・・そうなんですか」
梯梧はこれがロボコンのスケジュールの流れなんだ、と掴んだところで、扇鷲が口を開く。
「ところで、今日は何をするんですか?」
その質問が来た時、作業途中でたまたま近くを亥助がその質問に答える。
「そうだなー。今日のところはもう部活終了かな」
「え?・・・」
健一郎も亥助の一言に一瞬、疑うもOBの経験ですぐに合点がいった。
「あぁ、そうだな・・・」
健一郎は時計の針がそろそろ18時になろうとしているのを見たのと、亥助の作業がどちらかと言えば使った工具を元に戻しているのを見て言った。
「え?何でですか!?」
せっかくモチベーションが上がってきたところで今日の部活が終わるという事に扇鷲は疑問を感じた。
「今の期間、工作室は午後6時まで。閉められるさーよ」
「大会前とかだったら普通に午後9時とかなんだが、しかたないよ」
元々、この健一郎が民間から登用されて部活の顧問になる話も教員の部活にかける時間の短縮などの負担軽減に端を発しているので部活は特に何もなければ18時までには終わらせることになっていた。
これは健一郎がまだ現役の頃と何ら変わらないのだった。
「そうなんですか」
そういう事なら、と溜飲が下がった扇鷲は梯梧と帰り支度を始める。
「ま、今日は遊んで帰ればいいさー」
部活とは言え、今のうちは気楽にやろう、と健一郎は2人にはルールなどは聞かせず、この日は時間いっぱいまで工作室を見て回らせる事にした。




