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20年前の自分へ~虹(2003年)~

ここに一本の動画がある。

再生すると、ゴリラの被り物をした女性と思しき人物が独特なハイテンションで掴みの挨拶を始めた。


「こんばちは。先日、お友達で2児のママになったバウちゃんとカフェしてきましたー!

推しのロボットはドンオニタイジン!考察系女YouTuberのゴリラですぅー!

今回は、掲示板サイトでロングセラーとなり、Part111まで立てられ、話題となったスレ、"俺の超マイナー部活の話を聞いてくれ"をご紹介します。ではいくー!」

3年前の10月26日、金曜日。

沖縄・名護市。

宮古島の工業高校に通っていた俺は全国大会の地にいた。

全国大会と言っても、インターハイじゃないし、そもそもインターハイは夏にがやっている。

バレーやサッカーだとしたら、そもそも会場が東京じゃねーし、冬だし。

剣道とか言った奴、通が過ぎる。そもそもあれは福岡でやってるし、夏だし。

俺が全国大会に出場したのは、高校ロボコンだ。

「テレビでやってるやつね」と思った奴、あれは高専のだから、とりあえず、全国の工業高校生に謝ってくれ。勘違いされて困ってるんだ。

ロボットを作って、それを競い合う部活だった。

おっと、ガンプラバトルとか言ったガノタ、そこまで現実の技術は高くないんだぞ。夢見てんじゃねーよ。

高校ロボコンは毎年、全国大会の会場が違っていて、俺が入った年は、全国大会の会場が沖縄となってたせいか、先生を含めて周囲の人達の気合の入り方が違っていた。―――――

――――――――――――――――――――


10月26日。

沖縄県名護市

名護市民会館・大ホール

沖縄県内で開催されている全国産業教育フェア、通称「さんフェア」の一環である全国高等学校ロボット競技大会・アイディアロボコンの部の全国大会の会場である名護市に宮古島の工業高校、二重越ふたえごし工業高校のロボット部の全国大会出場メンバーは大歓声に包まれていた。

中でも1年生コンビが初戦でとんでもないジャイアントキリングを起こし、破竹の勢いで勝ち進んでいた。


「ヤバい」


1年生の平良梯梧たいら でいごは手の震えが止まらなかった。

初戦でとんでもないジャイアントキリングを起こしてしまい、今にもプレッシャーで押しつぶされそうな梯梧はこの状況が信じられなかった。

その梯梧とコンビを組む上野扇鷲うえの さしばは「ビビビってんじゃねぇよよ」と若干、噛みながら梯梧の脇を小突くが、「噛んでじゃねーよ!!」と即座に噛んだことをツッコまれる。

そんな2人の肩を叩く人物がいた。試験的に外部登用で市の教育委員会や青年団の指名で全国でも異例のロボット部の監督になった男、武島健一郎たけしま けんいちろうだ。


「気負うな。あの相手に勝っちゃった以上はそういう扱いになるだろ。負けてもいい。ただし、本気で楽しめ」


健一郎の横から同じく1年生コンビで別のチームである下地赤華しもじ せっか城辺綾歌ぐすくべ あやぐが現れ、「頑張れよ!」と振りかぶってそれぞれ梯梧と扇鷲の背中を思いっきり叩く。


「あがーーーー!!!」


背中を叩かれた2人は断末魔をあげ、悶絶しながら背中をさすって入場の準備をする。

2人の目の前にあるのは会場の中央の4つのコートーつまりは準々決勝まで進出しており、沖縄県勢では初の快挙を達成していたのだった。

だが、2人はここで終わるつもりはなかった。―――――

――――――――――――――――――――


半年前。

沖縄県宮古島。

市町村としては宮古島市であり、本島や石垣島等とは違う独自の文化や方言が息づく島である。

一昔前までは観光収益で苦戦を強いられていたものの、それを感じさせないほど現在は多くの観光客が訪れるようになった。

そして、その影響で地価もどんどん上がり、地価上昇率は全国でも目を見張るものがある。

反面、観光客が訪れすぎてしまってのオーバーツーリズムも問題となっている。

加えて人材流出の歯止めも効かず、家賃の高騰で島を出て行く者も少なくなかった。

そんな中、宮古島市青年団は公民館の会議室を貸しきっての会議をしていた。

青年団は下は高校卒後すぐの18歳から上は38歳の団員が所属していた。

その青年団に市の教育委員会から宮古島内の公立学校の部活の外部顧問を引き受けてくれそうな人物がいないか、という依頼を受けていた。

市の教育委員会としては教員の働き方改革で遅くまで残る事になる部活の顧問を教職員ではなく、外部からボランティアという形で協力してくれそうな人物を探していた。


「・・・ま、そういうことで、我々青年団がどうにかしようというわけでございます。何か意見はありますか?」


しかし、誰も"ボランティア"でやる事には後ろ向きでやりたがらず、手が全く挙がらない。


「・・・あっばっ!?いないわけな?」


リーダーの平良全二郎たいら ぜんじろうが誰も手を挙げないことに絶句した。

その時、会議室のドアを開けてこっそりと入ってくる人物―武島健一郎がいた。


『ガチャッ』


静寂が支配する会議室の中でうっかりドアの音を鳴らしてしまった健一郎は「終わった・・・」と呟く。

それでもどうにか席に着こうとキョロキョロと辺りを見回したが、明らかにバレた様子だった。


「いやぁー、すいませんでしたぁー。仕事が思いのほか、長くかかって・・・」


それらしい言い訳で乗り切ろうとしたが、全二郎にそれは通用しなかった。


「お前は仕事してんさいがよ!フスッ!!」


健一郎は高校卒業後、大学受験に失敗してからはずっと浪人生として実家の電気店を手伝っていた。

全二郎にキレられ、急いで会議室に入ってきた健一郎は一瞬で空気を読んで、ホワイトボードの議題を見て手を挙げた。


「はい!野球はどうですか?」


「野球はもう色んな人なんかーが関わってるし、人気があるから、もう決まってるよ。俺がやる」


野球はやはり人気があり、すでに全二郎ほか小学校から高校に至るまで手厚いサポート体制が整っている。


「じゃあ、サッカーは?」


砂川ウルカのみっちゃんがやるっつぁ。」


同じくサッカーも昔から根強い人気があるせいか、プロサッカーチームのキャンプを誘致するなど、市役所職員で観光課に所属する与那覇光男よなは みつおが中心となって選手の育成を行っていくようだった。

―あ、あれ?何かまずい事言った?ダメ?

健一郎はキョロキョロと辺りを見回した。

その瞬間、健一郎の携帯が鳴り、電話がかかってきた事を知らせていた。

相手は喜納克矢きな かつやで、地元のスーパーとコンビニを掛け持ちしている小学校以来の友人だ。

それと克矢も同時に青年団の一員でもあり、全二郎に断って会議室を一旦出て、電話に出ようとしたが、「話終わってんけど?」と止められた。

―間違いない。この場の空気を読み間違えた。マジで詰んだ。

とりあえず、相手が克矢である事を伝えてどうにか切り抜けて、会議室を出た。


『おー。忙しいか?悪い悪い。今日は来れんからよー』


健一郎の苦労を知らない克矢は能天気に電話をかけてきたようだった。


「・・・今が終わりさ?」


『うんにょ。けど、どうしても今日の青年団の会議で出したいものがあるさーよ。LINEで送っていいか?』


「は?何で俺が?お前が後で出せばいいさいがよ」


『明日から内地にキセツ(季節工)で行くからよー。それの準備』


「マジでな?うーん・・・じゃあ、送って来いよ」


『おう。とりあえず、それだけだったから。あとからなー』


ツーッ、ツーッと終話を示す音が延々と健一郎の携帯から鳴っていた。

それをすぐにかき消すようにLINEの通知音が鳴り、克矢からPDFのファイルが送られてきた。

だが、PDFのファイルは読み込みに時間がかかっていて、開くのが遅い。


「で、克矢は何て?」


全二郎はなかなか入ってこない健一郎に業を煮やして外にいる健一郎を呼び込む。


「・・・克矢、今日は来れないっつーか、キセツに行くみたいで、しばらく来れないそうです・・・」


「ほーん」


健一郎はすごすごと会議室へと入り、その間にも克矢から送られてきたPDFファイルが開くのを待つ。

この日は話がまとまらない、意見が出ないで会議は終わりかけたところで、ようやく克矢から送られてきたPDFファイルが開いた。

そこには「二重越工業ロボット部再建案」と題し、民間から監督を擁立して長年遠ざかっている全国大会出場を目指そうという案だった。


「はい!いいですか?!」


全二郎が締めに入ろうとしていたところで健一郎は手を挙げた。

またポンコツが何か言うのか、と半ば呆れた様子で健一郎の―克矢の二重越工業ロボット部再建案を発表する。


「んじ?健一郎、お前はどの部活の働き方改革をするわけぇ?」


「えー・・・ロボット競技です。二重越工業のロボット部に民間から監督を登用して再建し、宮古島を有名にするんです」


「は?ロボット部?二重越工業のな?で、どうやって宮古島を有名にするか?ん?」


「えーっと、現時点で出来るのは・・・二重越工業をアイディアロボコンで優勝させること、ですね」


「・・・え?具体的にどうするか?」


「島を挙げてロボット部を応援し、部品などの費用は市民からカンパを募る・・・ってことでどうでしょうか?」


「・・・なかなか現実的なプランだな・・・決定。で、誰が監督をするわけ?」


「工業卒でヒマなヤツですかね・・・」


その瞬間、健一郎に一斉に視線が集まった。

視線が集まった事に気付いた健一郎は「え?俺?」と驚く。

実は健一郎は地元の二重越工業高校の卒業生で高校時代にロボット部に所属をしていた。


「・・・すいませんが、俺、大学受験の勉強が忙しいもので・・・」


すでに4浪している健一郎に味方はおらず、健一郎は集会に来ている青年団のメンバーを見渡し、このプランを実行するにふさわしい人物が目に止まった。

それは健一郎とは高校の同級生である下地勇海しもじ いさみであった。

無駄に長い会議でウトウトしており、眠い目をこすりながら聞いていたようだった。

同じロボット部で校内大会準優勝という成績を修めているが、それが勇海の人生のピークだったのか、就職に失敗してニート生活を送っており、実は健一郎よりも何もなく、つまり、暇と言えば暇である。


「イサミィ、お前に決定なぁ」


健一郎のこの一言でウトウトしていた勇海は完全に目が覚め、そして、立ち上がった。


「はいいい!!」


「お前がロボット部の監督に決定な、勇海」


「は?何で俺が!?え?だってお前のほうが、ろくに勉強してない浪人生だし、手伝っているって言ってもあんまり人来ないからヒマせーがよ!?」


寝起きの割にぐうの音も出ない反論が返ってきたが、健一郎は勇海で押し切ろうとしていた。


「・・・ま、まぁ・・・そうだけど・・・お前、ヒマじゃん。いいせーがよぉ。やれよ」


「いやぁ、しかし・・・やりたいのは山々だけど、俺も仕事あるしな。ライターの」


「ライター?」


「うん・・・。ペンネームは、青空公僕あおぞら こうぼくって言うんだけど?・・・」


そのペンネームに健一郎は覚えがあった。

同じくそのペンネームに覚えがあった下地幹光しもじ みきみつは思わず立ち上がった。

幹光は勇海のいとこで姉が経営するバーでバーテンダーをしている。


「え!?お前が!?あのドルオタ兼特撮オタライターの青空公僕!?仮面ドライバーツインだった桐島伝きりしま でんが嫌なライターって言ってたのお前なん!?」


「・・・らしいね・・・最近、PV数上がってて、依頼が多くなってきて、近々、取材で東京に行くんだけど?・・・」


勇海がここまで有名だったとは、と驚きつつ、やはり健一郎しかいないのではないか、となった。

健一郎もこいつにはムリだ、と確信したところで一気に自分に白羽の矢が立つ恐怖が襲ってきた。

迷う健一郎に全二郎ら青年団のメンバーが詰め寄った。

最初に全二郎が健一郎に詰め寄る。


「・・・やらないってなら、市役所の臨時職員の権限でお前の住民票を消すからよ」


「臨時職員にそんな権限ないさいがよ!?」


全二郎がツッコミを受けたところで、次に勇海が健一郎に詰め寄る。


「ライターの権限で・・・あることないこと書くよ?」


「ちょっ!マスコミの力を乱用する気か!?」


勇海のヤバい権限が発動する恐怖にかられたところで今度は二重越工業高校の近くで店を構えている「垣花食堂かきはなしょくどう」の看板娘でウェイターの垣花綾乃かきはな あやのが詰めてきた。


「健一郎、あんたがうちの食堂に来たらメガ盛りタコライスを食べてもらうから」


「いつから垣花食堂にそんなメニューあったかよ!?」


「5年前から」


「マジでな!!?」


垣花食堂の裏メニューに関する驚愕の事実が判明したところで今度は下里通りの寿司屋で修行中の中学の後輩、米寿司郎まいず しろうが詰めてきた。


「先輩、もし、引き受けないなら、激辛わさび寿司を注文もなしに届けますよ。もちろん、代金もとります」


「身に覚えがない上に激辛で、しかも、金とるのかよ!?」


司郎がツッコミを受けたところで今度は幹光が詰め寄る。


「健一郎、逃げ道はないみたいよ?あと、俺の店に来たら・・・スピリタス縛りな」


「いや、キッツ!!キツいって!!お前、それ、ライター近づけたら燃える水じゃん!!」


幹光のバーには行くまいと決めたところで、今度は移住者であるものの、青年団に入っている上地遊助うえち ゆうすけで、祖父が宮古島出身の遊助はいわゆる宮古3世であった。

高校野球の強豪校の出で、甲子園にも出場した経験を持つが、彼にはとんでもない欠点があった。


「武島さん・・・諦めてください・・・」


「な、何だよ?・・・何かするんですか?」


「・・・俺に出来る事は何もないッス・・・」


「お前、やっぱりバカじゃねーか!!」


遊助はいわゆる"おバカ"であったため、あっさりと健一郎にツッコまれた。

しかし、ここまで青年団に詰められては、と健一郎は諦めて「・・・わ、わかったよ!!やりますよ!やればいいんですよね!」と半ばヤケになって引き受ける事になった。

だが、健一郎はある事を忘れていた。


「健一郎で決定だな。けどさー、健一郎、ただやればいいてわけじゃないからよー」


「へ?・・・」


「最終目標は全国制覇だろ?・・・」


「・・・そうか・・・じゃあ、最初のうちは県大会優勝って事で・・・あ、やっぱり、全国制覇?・・・う、ウソだろぉー!?」


詰めに詰め寄られた健一郎の叫びは隣の伊良部島まで響いた。

―――実は健一郎は県大会メンバーを決める校内大会では勇海のチームとは負けたものの、県大会メンバーとなり、その年の県大会で上位を総なめにした際のいわゆる"黄金期メンバー"で、その中でも準優勝したメンバーだった。――――

この小説自体、実は長い歴史があり、構想自体は高校時代に考えてありました。

そして、プロトタイプのものを書いたものの、ロボット競技自体にストレートに突き進みすぎてパンチがなく、また、自分が行った県大会までしか書ききれなかったので専門学校時代に全国大会まで行った人に協力をしてもらいながら、書き直した経緯があります。

狭い宮古島内で起こるちょっとした事件を解決しながらロボット競技を通して成長していくストーリーだったが、視点を選手だけでなく、監督目線にもすることにしました。

プロトタイプも書き直したものも結局は下書きとして眠っていたので今回でようやく日の目を見た形になります。

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