異世界スキャンダル! ~クズ勇者様の不倫がバレて、婚約破棄から活動自粛まで追い込まれる話~
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【スクープ!】婚約を発表した大人気“勇者様”まさかの不倫か!? 深夜、秘密の密会現場撮った!——
「以前から、そんな噂はあったんですよ……」
本誌にそう語るのは、とあるギルド関係者だ。
某日、夜半過ぎ。暗がりのなか静かに馬車から降り立ったのは、当国・第四王女との婚約を発表し話題沸騰中の人気勇者“エリオン”と、謎の美女だった。
ダンジョン帰りなのか疲れた様子のエリオンに、優しく笑いかける美女。
2人は人目を忍ぶように、会員制の薄暗い酒場へと姿を消した——。
「業界では“遊び人”として有名なエリオンさんでしたが、王女様との婚約でようやく落ち着くと思われてたんです。そこで今回の話ですから……周囲は騒然としていますよ」(同・関係者)
滞在することおよそ2時間、やや赤ら顔で店を後にした2人。
腕を絡め親密そうな雰囲気は、ただの友人関係のそれには見えない。
好感度抜群、国民全員が祝福する結婚を控える“エリオン様”だが、ゆったりスローライフまでの道のりは、まだ遠いようである。
我々取材班は詳しく話を聞くべく、2人のもとへ突撃した——
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***
「異世界転生を信じるか?」
と聞かれたら、アンタはどう答える?
俺は、素直に頷くことしかできない。
なぜなら俺自身が、実際に異世界転生をしたからだ。
ぼんやり生きた二十数年間。
あっけない最後だった。
適当な部屋着で散歩に出かけて、その帰りにトラックに轢かれたんだ。
自分で言うのもなんだが、テンプレ通りの死に方だ。
それで、気がついたら異世界にいた。
俺は起き上がって、周りを見渡す。
人影は見当たらないが、建物の感じからして……これまたテンプレ通り、中世ヨーロッパ風の世界観だ。いわゆる、剣と魔法の国というやつだろう。
俺の装備品といえば、こっちでは使えないであろう少しの小銭と、あとはこいつ……カメラのみ。
カメラは俺の数少ない趣味のひとつで、散歩のついでに何枚か撮ろうと思って首にかけていた。それでそのまま、こっちに転送されたわけだ。
こんなことになるなら、もっと便利なモン持って出かければよかった。
カメラひとつで、どうやって生きていくんだ?
考えることは山積みだが、とりあえずその辺を歩いてる誰かに声でもかけてみよう——と、思っていたその時だった。俺に声をかけてきたヤツらがいた。
「よォ兄ちゃん、ひとりか?」
こちらを値踏みしてくるような言い方だった。
恰幅の良いモヒカンの男と、薄ら笑いを浮かべる細目の男。
まぁはっきり言って、とても善人には見えない2人組だ。
「はあ……ひとりッスけど」
「悪いことは言わねぇ。有り金置いて、とっとと消えな」
やっぱり悪人じゃねえか。
勘弁してくれよ……。
たったいま転生してきたばかりの俺が、こんなチンピラにどう対処しろと?
つーかこういうのってさ、なんか神様みたいな人が特別なスキルとかを与えてくれるモンじゃないのかよ?
「いやぁ、あいにく持ち合わせがないもんで……。ちなみに、ここって何ていう国なんスか?」
「あァ? 訳わかんねえこと言ってんじゃねぇぞ! どうやら痛い目見ないとわからねぇみたいだな?」
苛立った様子のモヒカン男は腰に差していた鉈を抜き、俺に向かって振り上げた。
……はい、詰みました。
転生して早々にゲームオーバーですか。
せっかくなら、チートスキルで無双してハーレム生活……とか経験してみたかったわ。
クソだった俺の人生、せっかくやり直せると思ったのによ。
……まぁでも、所詮俺だもんな。こんなもんか。
俺はすべてを諦め、大人しく目を閉じた——はずだった。
「そこまでだ」
完全に死んだと思ったが、俺はまだ生きていた。
二度目の死を覚悟した俺の耳に、静かだが、迫力のある声が聞こえたんだ。
恐る恐る目を開けると、そこには鎧を身につけた長身の男が立っていた。銀色の髪に、整った顔立ち——
「エ、エリオン!? テメェ、何しに来やがった……」
「それはこっちのセリフだよ、おふたりさん。抵抗できない市民から金を巻き上げるなんて、関心しないな」
エリオン、と呼ばれた男は2人組をじっと睨みつけると、鞘に収まっている大きな剣に手をかけて言った。
「どうしてもと言うんなら、まずは私が相手をしてやろうか?」
力の差をわからせるのに、剣を抜く必要さえなかったようだ。2人組は小さく舌打ちをして、そそくさとその場を去った。
マジかよ、正義のヒーロー登場?
この男前は誰なんだ? ビジュアル的に、勇者様とかそういう感じ?
「あ、あのぉ~……助かったっす、ありがとうございます」
状況はまったく飲み込めていなかったが、俺はとりあえずエリオンに礼を言った。
「近ごろ、このあたりで物騒な事件が増えているんだ。君も気をつけるといい」
エリオンは凛とした表情でそう答える。
「そうします」
「それにしても君、ずいぶんと変わった身なりをしているね? このあたりの出身かい?」
「いやぁ、出身は別の世界というか……ちょっとややこしくて……」
要領を得ない俺の返事に、エリオンは訝しげな表情を浮かべた。
「……まあいいさ。私も急ぎの用事があるんだ。これで失礼するよ」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
聞きたいことは山ほどあったが、質問をまとめる暇もなくエリオンは立ち去ってしまった。
せめてお名前だけでも……なんてベタなセリフも、いざと時になると出てこないもんだよな。
せっかく助けてくれそうなヤツに出会ったのに、俺はそのチャンスをみすみす逃したわけだ。
これでまた振り出し。絶望的だった。
でもまぁ、今さら後悔しても遅い。
とにかくこのへんは物騒らしいし、どこか安全な場所に移動しな——……
混乱する頭を再び回転させようとしたそのとき、急に目の前が真っ暗になった。
***
「……やっと気づいたみたいね?」
少しの間、気絶していたようだ。
ぼんやりした意識のなか、少しずつ視界が戻ってくる。
目の前で俺の顔を覗き込んでいるのは、小柄な女の子だった。
やや尖った耳に、銀色の髪、緑色の瞳——まさか、これが“エルフ”ってヤツか?
次から次へと、何が起きてるんだ。
「アンタは……誰だ?」
「聞きたいのはこっちよ! 急に変な格好で現れて……どんな魔法を使ったワケ?」
「魔法なんか使ってない。俺は……あっちの世界から転生してきて、気づいたらここにいて、それで……。言ってる意味、わかるか?」
「……私の読み通り、危険人物ね。縛っておいて正解だったわ」
「……へ?」
言われて気が付いた。
エルフの言う通り、俺の両手両足は動けないようにきつく縛ってあったんだ。
ってことはさっきの気絶も、魔法か何かをかけられたのか……?
「待て、話を聞いてくれ! 俺は怪しいモンじゃない!」
「どう見ても怪しいじゃない! 運良くエリオン様が助けてくれたからよかったけど……でもあなた、怪しい割には弱そうね? どこかのスパイ?」
「本当にたまたま助けてもらっただけなんだ……っていうか、そんなに最初から見てたんなら助けてくれよ!」
非常にマズい展開だ。
このままじゃ危険人物扱いされて、最悪の場合“火炙りの刑”とかにされてもおかしくない。
俺は自分の無害さを、必死に訴えた。
「ますます怪しいわね……まぁ、でもいいわ。話だけは聞いてあげる」
エルフは得意気に笑って、こう続けた。
「あなた……“特大スクープ”の匂いがするもの」
***
俺を捕まえたエルフは、ぺイジアと名乗った。
ぺイジアに連れて来られたのは、そこそこ大きくて立派な建物……の離れにある、古ぼけた建物だった。
看板には、『週刊ブレイブ 編集部』の文字がある。
いわゆる週刊誌みたいなものか?
こっちの世界にも、雑誌文化ってあるんだな。
……あと今気づいたが、この世界での読み書きや会話には、何も問題がないらしい。
「あらぺイジア、おかえり。……そちらのお方は?」
建物に入るとすぐに、ぺイジアは同僚らしき人物に声をかけられた。
「これから聞くところよ。さぁ、そこに座って」
俺はぺイジアに指示された椅子に、腰を下ろす。
手首はまだ縛られたままだ。
明らかに余所者である俺が登場したことで、編集部はすぐさま騒然となった。
ぺイジアを中心に、メンバーがぞろぞろと集まってくる。人間の形をした者……そして、そうでない者の両方がいた。
(……もういいわ。煮るなり焼くなり、好きにしてくれ)
俺はついさっき死んで、この世界に転生してきて、エルフとお喋りまでしたんだ。
いい加減、驚く気力も残っていなかった。
「まず……名前は?」
ぺイジアは改めて、俺に質問を始める。
「加村景だ」
投げやりな気持ちで答える俺。
「じゃあカムラ……あなたはどこから来たの?」
「さっきも言ったろ……今度こそ、怪しまずに聞いてくれるか?」
「ええ、みんなにも話してみて」
「俺はもともと別の世界にいて、そこで命を落とした……次の瞬間、気づいたらこの世界に倒れてたんだ。それでいきなりチンピラに絡まれて……」
正直に白状した瞬間、編集部全体がザワザワとし始める。
ほら見ろ、思いっきり怪しんでんじゃねぇかよ。
「……わかったわ。じゃあそれはいいとして、あなたが首からぶら下げてるソレは何? 危険な“魔具”にしか見えないんだけど」
ぺイジアはそう言うと、俺のカメラを指さした。
……ん?
ちょっと待てよ?
ここは週刊誌の編集部、俺は高性能なカメラを持っている——
俺はある作戦を閃いた。
ここで殺されなければの話だが、どうせこの世界で生きていく必要があるんだ。
もしカメラの性能を見せることができれば、俺が有用な人間だとアピールできるだろう。
しかも運が良けりゃ、この編集部で雇ってもらえるかもしれない。
そうなりゃ御の字、一石二鳥だ。
……いける。いけるぞ。
「これはカメラといって、レンズから見た景色をそのまま記録できる道具だ! ここは雑誌の編集部なんだろ? コイツがあれば、俺は必ず役に立てるはずだ」
わずかに希望を取り戻した俺は、必死に説明を試みた。
……が、一瞬の沈黙のあと、ぺイジアは落ち着き払った様子でこう答えた。
「なるほど、“写晶器”みたいなモノってことね」
……嘘だろ?
……カメラって、こっちの世界にもあんのかよ。
一瞬は絶望しかけたが……結論から言うと、こっちで使われている“写晶器”とやらは、俺が持ってきたカメラの性能には数段劣るということがわかった。
画質もかなり悪いし、ズーム機能すら搭載されていないらしい。
「俺のカメラなら、もっと鮮明な写真を撮れる! 頼む、一度だけ試させてくれ」
俺は必死にそう訴え、やっとの思いで両手の拘束を解いてもらえた。
「……じゃあみんな集まって。はい、チーズ」
“はい、チーズ”はまったく伝わってないようだったが……とにかく一枚だけ、編集部の集合写真を撮ることができた。
みんな信じられないくらい怯えた表情をしているが、レンズからビームでも出ると思ったのか?
「……こんな感じで撮れたんだが、どうだ?」
俺はディスプレイに映し出された写真を、ぺイジアに見せる。
「これは……!」
写真の出来は置いとくとしても……ひとまず、作戦は成功したらしい。少なくとも性能のアピールは、上手くできたようだ。
俺はひそかに、日本の技術力に感謝した。
……さて。
あとは、どうやってここで働かせてもらうかだ。
そもそも写真は撮れたとして、この世界の技術でそれを印刷できるのか?
そのへんは、魔法で上手くやってくれるといいが……。
「よォ、ぺイジア。また面白ぇヤツを連れて来たな」
低く、ドスの効いた声が聞こえた。
声の主に目をやると——そこに立っていたのは、オオカミ頭の獣人だった。
ガッシリとした体型、身長も2メートル近くあるだろうか。
「ガルド編集長! 彼……どう思います?」
ぺイジアはオオカミ頭に意見を求める。
このガルドさんって人が、この編集部のトップらしい。
「話は聞いていたが……ウソをついているようには見えねえなァ。どうだ、しばらくウチに置いてみるか?」
「本気ですか? 危険人物かもしれないのに!」
「それはそれで面白ぇだろ。ジャーナリストたるもの、何事も経験だ」
ガルドさんはそう言うと、豪快に笑う。
「ちょうど今夜、取材してほしい店がある。宣伝も兼ねて、記事を書いてくれって頼まれたんだ」
「……例の、最近できた会員制の酒場ですか?」
「そうだ、上手くいけば何か他のモノも撮れるかもしれねぇしな。お前ら2人で行ってきてくれ」
「2人って……まさか、私とカムラで?」
「そうだ。お前ら、面白ぇコンビになりそうだな! ガッハッハッハ!」
***
「……ってことで、色々とよろしくな」
編集部の建物から出ると、外はすっかり夜になっていた。
俺は成り行き上“相方”になったぺイジアに、改めて挨拶をする。
「ホント最悪。取材の邪魔だけはしないでよね」
明らかに不機嫌そうなペイジア。
とりあえず命は助かったが、前途多難なことには変わりないらしい。
俺は小さくため息をついた。
「ご機嫌よう、ペイジア」
気まずい雰囲気の俺たちに声をかけてきたのは、「週刊ブレイブ編集部」の隣——つまりこの出版社の本館である、立派な建物から出てきた女の子だった。
綺麗な身なりに、ふわりと漂う甘い香水。
本当にブレイブ編集部の連中と同じ会社の人間か? ってくらいのキラキラ女子だ。
「シリル! なんだか大変なことになっちゃって……」
ぺイジアはシリルちゃんとやらに向かって、さっそく愚痴をこぼしはじめた。
2人は親しい間柄らしい。
「話は聞いたわ。そちらの男性が、噂のカムラさんね? 私はシリルと申します。今回は何と言うか……大変でしたね」
好奇心と警戒心が入り混じった表情で、シリルは挨拶をしてくれた。
「ああいや、こっちこそお騒がせしちゃって。カムラです」
「聞いてよシリル、成り行きで私がお世話係になっちゃって……ほんと、ガルド編集長の物好きには呆れるわ! ウチの編集部にははぐれ者しかいないんだから」
と、憎まれ口を挟んでくるぺイジア。
「お世話係ってなんだよ、元々俺を連れてきたのはお前だろ?」
「うるさいわね、それはアンタが記事になりそうな“変態”に見えたからじゃない!」
「へ、変態だと!?」
口論になりそうな俺たちを「まぁまぁ」と諫めてから、シリルは困り顔で言葉を続けた。
「カムラさんは、エリオン様に助けていただいたんですよね?」
「ああ……あのイケメン勇者のことか」
「そうです。ぺイジアはきっとそれで嫉妬してるんですよ。エリオン様はぺイジアの憧れで、いつか取材するのが夢なんですから」
「なるほど、そういうことだったんだな?」
俺はニヤリと笑ってぺイジアに詰め寄ろうとしたが……それをはるかに上回る熱量で反論が飛んできた。
「違うってば! ちょっとシリル、適当なこと言うのやめてよね!」
「うふふ……これは失礼」
慌てた様子のぺイジアを見て、シリルはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「とにかく! 詳しい事情はわかりませんけれど、カムラさん……困ったことがあれば、何でも聞いてくださいね」
「あ、ああ……ありがとう」
この子、どんだけ優しいんだよ。
許されるなら、キミとペアを組みたかった——と言いたいところだったが、ここまで来たら俺だって命は惜しい。
ぺイジアお嬢様のご機嫌を損なうような発言は、ぐっと飲み込んでおくことにした。
***
「俺を助けてくれた “エリオン様”ってのは、すごい人なんだよな?」
取材する店に向かいながら、俺は気になっていたことをぺイジアに尋ねてみた。
「あなた、本当に何も知らないのね。エリオン様はこの国のA級冒険者のひとりで、私たちのヒーローなの」
「……私たち?」
「ウチの編集部は、はぐれ者の集まりって言ったでしょ? 実は私もね、混血の“ハーフエルフ”なの。エリオン様も同じハーフエルフなんだけど……彼は差別にも負けず、A級までのし上がったすごい人なのよ。っていうか、こんなの常識なんだけど?」
「……なるほど、ね」
情報量多すぎて疲れるから聞かないが……冒険者ってのは要するに、モンスターを倒して世界を守る、みたいなヤツらのことだろう。
混血への差別にも負けず、“A級”とやらにのし上がった勇者様——
元の世界で言う、芸能人とかアスリートみたいな感じなんだろうな。
「それでそのエリオン様が、お前の推しになったわけか。やっぱりシリルの言う通りじゃねぇかよ」
「推し? なによ、それ?」
「そうだな……寝ても覚めてもその人のことしか考えられないような存在……ぺイジアにとっての王子様、ってところか」
からかい半分でそう教えてやると、ぺイジアは顔を真っ赤にして反論した。
「だっ、だからそんなんじゃないんだって! 私はただ、エリオン様を尊敬してるだけよ!」
「へぇ~、そうかい」
気が強そうに見えるぺイジアだが、意外とピュアなところもあるらしい。
相場じゃエルフはかなりの長寿って聞いたこともあるが……まぁいいか。その辺は詮索しないでおこう。
「……とにかく、さっさとお店に行って取材しちゃいましょう」
ペイジアは肩を怒らせ、スタスタと歩く速度を上げた。
「あのぉ~……」
「うるさいわね! 今度はなに?」
「もしかして、ずっと歩き? 俺、てっきり途中で馬車とか拾うんだと……」
「ウチにそんな予算あるワケないでしょ!」
「……へいへい」
到着したのは、いかにも“会員制”って感じの洒落た酒場だった。
極端に絞られた照明、薄く聞こえてくる生演奏の音楽に、客たちの囁くような話し声。
転生してきたばかりの俺でも、ここは一般市民が来るような場所じゃないってことはすぐにわかった。
「なんか……趣味の悪い店ね」
窓際の席に通された俺とぺイジアは、テーブルを挟んで向かい合うように座った。
「広告記事ってことは……適当に名物メニューを頼んで、あとは編集部に帰って記事を書く感じか?」
「ええ、そうしましょう。それと、あんたのソレで写真も撮っておいてよね」
ぺイジアは俺が持ってきたカメラを指さして言った。
出発前に確認したところ、撮った写真は魔法でなんとか出力できるらしい。まったく便利な世界だよな。
もちろんそのおかげで、俺もなんとか命拾いさせてもらってるワケだが……。
「仕事とはいえ、会社の金で飯が食えるんだろ? えーっと、店のオススメは……」
早速メニューとにらめっこを始める俺に、ぺイジアが小さな声で言った。
「……ちょっと、あれ!」
「ん? 急にどうした?」
俺はメニューから顔を上げ、彼女が指さした方向に目を向けた。
店の外に馬車が停まり、男が降りてくるところだった。暗くてよく見えないが、横には女性の姿もある。
「あの馬車がどうかしたのか?」
「いいからよく見て……」
ペイジアに促されて、俺は必死に目をこらす——
「……おい、あれってもしかして?」
「ええ、エリオン様よ。それに、横の女は……」
ぺイジアがそう言った瞬間——エリオンがエスコートする女性の顔がちらりと、月明かりに照らされた。
「……まさか」
「そのまさか。シリルよ」
エリオンの横にいたのは、さっきぺイジアと親しげに喋っていた女の子、シリルだった。
「さすがはキラキラ女子、清楚っぽく見せといて実は肉食か。エリオンみたいな有名人ともしっかり仲が良いんだな?」
俺はそう言いながら、チラッとぺイジアの顔を盗み見る。彼女の眉間には、これでもかとシワが寄っていた。
友だちだと思ってたシリルに出し抜かれたんだから、気持ちもわからんではないが……。
「なぁ、嫉妬するのもわかるけど……そんなに怖い顔すんなよ? エリオンは誰もが憧れる有名人なんだろ? そりゃ女遊びのひとつやふたつ……」
「だから、そんなんじゃないんだって!」
ペイジアは俺の言葉を遮って、こう続けた。
「……健全な恋愛関係なら、私だって構わないわ。問題なのは、エリオン様がこの国の第四王女様と婚約をしてるってことよ」
……マジかよ。
それなら話は180度変わってくるぞ?
「ってことは、これって……?」
「ええ、不適切な関係である可能性は高いわね。“溺愛勇者様”のウラの顔……正真正銘の、特大スクープよ」
***
運がいいのか悪いのか、エリオンとシリルは俺と背中合わせの席に通された。
もちろん会話も丸聞こえだ。
俺たちはなんとか顔を隠しながら、2人の話に聞き耳を立てた。
「ここ、素敵なお店ね」
最初に口を開いたのは、シリルだった。
「それはよかった。キミに絶対似合う店だと思ったんだ」
歯の浮くような、甘ったるいエリオンの返事。
この感じじゃあ、ただの友人じゃないことは確定だな。
「最近、調子良さそうじゃない? このまま“S級冒険者”になるのも、夢じゃないわね」
「おいおい、せっかく2人きりになれたんだ。仕事の話はやめてくれよ」
「いいじゃない、褒めてるのよ? ウチの会社にね、あなたのことをヒーローだって言って、崇拝してる子までいるんだから」
「前に話してた“吹き溜まり編集部”の子か? それはありがたいね」
どうやらシリルは、ぺイジアのことを言っているらしい。
つーか裏でそんなこと喋ってたのかよ。やっぱ女子って怖ぇ……。
シリルはニヤニヤと笑いをこぼしながら、エリオンに問いかける。
「あの子、私たちが王女様に黙ってこんなことしてるなんて知ったら、どう思うのかしらね?」
「やめてくれよ、誰かに聞こえたらどうするんだ? 俺は差別や困難を押し退けてA級までのし上がった、“不屈のハーフエルフ様”……ファンだって多いんだぞ?」
「そういう“設定”でしょ? 悪いひと」
「騙されるファンが悪いんだよ」
「あら、大事な“養分”たちにそんなこと言っていいのかしら?」
「フッ、それもそうだな。今度、キミの同僚にサインでも送ってやろう。きっと泣いて喜ぶぞ?」
2人は声を押し殺して、クスクスと笑った。
あー、なんか思ってたより嫌な感じだ。俺の中の「エリオン様」のイメージが、音を立てて崩れていくのを感じた。
目の前にいるぺイジアは、うつむいて肩を震わせていた。
友だちに裏切られ、しかも信じてたヒーローがとんでもないクズ野郎だったんだ。無理もないよな。
それを見た俺はほとんど無意識に、席から立ち上がろうとしていた。
別にペイジアのために怒ってやる義理はないし、チンピラから助けてくれたことに感謝はしているが……それはそれとして、このクズ野郎にひとこと言ってやろうと思ったんだ。
しかし。
「やめて……」
ムカついて我を失った俺を止めたのは、ぺイジア本人だった。
彼女の目には、いまにもこぼれそうな大粒の涙が溜まっている。
「……でも、いいのかよ?」
「荒っぽいやり方で解決したくない。私は、自分のやり方で戦いたいの」
2人はゆっくりと食事を楽しんだあと、腕を絡ませながら店を出て行った。
「カムラ、追いかけるわよ!」
ぺイジアの合図で俺たちも席を立ち、再び馬車に乗り込もうとする2人に突撃した。
「エリオンさんですよね? 週刊ブレイブです」
ぺイジアが声をかけ、俺は横でカメラを構える。
「そちらの女性とずいぶん親しそうにされていますが……ただのご友人ではないですよね? 王女さまとの婚約の件は?」
たたみかけるぺイジア。
だが——2人は質問を無視して、そのまま馬車で去って行ってしまった。
「おいどうすんだ、逃げられたぞ!」
俺は焦ってぺイジアに問いかける。
「追いかけなくていいのか?」
「いいの。それより、写真はしっかり撮れた?」
「あ、ああ……それは問題ないが」
「だったらいいわ。今日はこれで充分」
「充分って……一体どうするつもりなんだよ?」
「言ったでしょ? 私たちのやり方で、正々堂々と追いつめてやるのよ」
さっきまでうなだれていたぺイジアは、もういない。彼女の目には、力強い光が宿っていた。……いや、燃えたぎる復讐の炎、って言った方が正しいか。
とにかく、これからが週刊誌記者の腕の見せ所ってことらしい。
どうにか食い扶持にありつきたい俺と、このスクープを逃したくないぺイジア——
「……どうやら、利害が一致したみたいだな?」
俺がそう問いかけると、ぺイジアはニヤリと笑いながら答えた。
「そのようね。ひとまずこの件に関しては、お互いベストを尽くしましょう」
俺たちは固い握手を交わした。
お互い、ちょっと動機が不純ではあるが……これで晴れて、即席コンビ結成ってわけだ。
***
俺たちはすぐに編集部に戻り、記事の作成に取り掛かった。
写真の選定や関係各所への取材……大急ぎで仕上げた甲斐もあり、その週の「ブレイブ」にはエリオンに関するスクープ記事が大々的に掲載された。
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◆現場に突撃! 本人の反応は……
我々は話を聞くべく、店を出た2人に突撃した——
「お2人の関係は? ただの友人関係ではないようですが?」
「……」
しかしエリオンは口を開くことなく、終始ダンマリ。
そのまま足早に、馬車に乗って姿を消してしまった。やはりやましい関係であることは確定なのだろうか。
後日我々は、エリオンが所属するギルドの管理者へ取材を敢行。
しかしこちらも、
「プライベートのことは当人に任せております」
と取り付く島もなかった。
仮に不倫が事実であればギルドの責任問題、さらには王宮を巻き込んだ特大スキャンダルへと発展する可能性もあるが……真相はいかに。
本人たちからの説明が待たれるなか、我々は引き続き調査を続行中だ。
続報をお待ちいただければ幸いである。
(了)
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記事の内容には自信があったが、エリオンの反応は思っていたものではなかった。完全にダンマリを決め込んだんだ。
当然、俺たち以外の雑誌や新聞社からも取材陣が殺到したようだが……どこも門前払いを食らっているようだった。
「このまま、ほとぼりが冷めるまで待つつもりかねェ?」
「そんなの許せません、追加取材させてください!」
「しかし、ここまで反応が無いとなるとなぁ……」
ガルド編集長とぺイジアがそんな話をしていたある日、諦めムードが漂うブレイブ編集部で事件が起きた。
事態は、思っていたより最悪だったのだ。
「少々、お邪魔しますよ」
穏やかな言葉づかいとは裏腹に、ピリピリした雰囲気を漂わせながら編集部に乗り込んできたのは……屈強な手下をひとり従えた、エリオン本人だった。
「なかなか面白い記事を書いていただいたようですね、ガルド編集長?」
エリオンは俺たちに目もくれず、真っ直ぐにガルドさんの机へと向かって行った。
「ただ……話題作りは結構だが、こちらは根も葉もないウワサが立って迷惑しているんですよ。一体どう責任を取っていただけるのでしょう?」
ガルドさんはゆったりとした動作で、エリオンに向き合って答える。
「これはエリオンさん……ウチみたいな編集部にようこそお越しいただきました。茶でもお出ししますかい?」
「いえ、結構です。私はあなたがたの“捏造記事”を取り下げて欲しいという、至極簡単なお願いをしに来ただけですから」
「そうは仰いますがエリオンさん……ウチの若いのが、例の酒場であなたを見たと言ってるんです。証拠の写真もある。これはどう説明するつもりです?」
「フッ、そうですか。では言い方を変えましょう……」
エリオンは余裕たっぷりの表情で続けた。
「ガルドさん。あなたがこの編集部の長としてやるべきことは……懸命に働く部下たちを守ることですよね?」
「その通り。跳ねっ返りが多くて、苦労しますがね」
「素晴らしい心がけだ。では……」
エリオンは言葉を切り、手下の屈強な男に目で合図を送った。
「きゃッ……!」
小さく、悲鳴が上がる。
男が素早く、鋭い刃物を突き付けたのだ。
“人質”に選ばれたのは、ぺイジアだった。
「ガルドさん、はっきり申し上げます」
エリオンは満足そうな表情を浮かべながらこう続けた。
「私はいま、あなたの可愛い部下の命を握っている。それに——このチンケな編集部で起こることの一切を“もみ消す”ことなど、ワケないことだ」
「……ッ!」
さっきまで余裕綽々だったガルドさんの表情が、怒りで歪む。
「おやおや、あなたがた三流雑誌に、卑怯だなんて言わせませんよ? さあ、あなたのような“狡猾なオオカミ”なら、これ以上は言わなくてもわかるはずだ——改めてお聞きしましょう。私は例の記事の訂正と取り下げを行っていただきたいのだが……いかがでしょうか?」
コイツ、自分が不倫しといて開き直ってやがる。しかも脅迫までしてくるなんて、どこまで腐ってんだ……?
だが人質を取られてしまった以上、ガルドさんの返事はひとつしかなかった。
「……わかった。約束しよう」
「よろしい。あなたなら、わかってくれると思っていましたよ」
エリオンはガルドさんに顔を近づけ、こう続ける。
「ああそれと……私を嗅ぎまわるハイエナたちの教育も、お忘れなきよう」
捨て台詞を吐き、悠々とした足取りでブレイブ編集部を出て行くエリオン——去り際、俺とぺイジアに微笑みかけるというご挨拶も忘れないクズっぷりだった。
「ガルドさん、あんなの許していいのかよ?」
エリオンが去ってすぐ、俺は思わず編集長のデスクへと走った。
ガルドさんは深く息を吸い込み、俺の質問に答える。
「いいわけねぇだろうが!!」
この人もかなり頭にきてたんだろう。
外まで聞こえんばかりの大声だった。
「ぺイジア! 怪我は無ぇか!」
「は、はいっ! すみません……私」
呼びかけられたぺイジアはハッと我に返り、らしくない小さな声で応えた。
「お前は謝るな、俺の責任だ。すまなかったな」
「ガルドさん、私、あんなの許せません!」
「当然だ。ぺイジア、あのクソ勇者様について徹底的に取材しろ! ……俺たち“ブレイブ”を怒らせるとどうなるか、わからせてやるんだ」
そう息巻くガルドさんに、俺は恐る恐る尋ねる。
「あのぉ~……俺は……?」
「決まってんだろ、お前はぺイジアのサポートだ。上手くいったら、正式に雇ってやってもいいぞ……まったく、面白くなってきやがった」
さっきまでの表情がウソのように、ガルドさんは不敵に笑った。
まるでこういう展開になるように、エリオンを誘導したのかと思うほどに。
……いやこの人なら、あながちそれも間違いじゃないかもな。
***
数日後の夜。
俺とぺイジアは仕事を終えたエリオンを待ち伏せし、直撃した。
「……なんだ、またキミたちか」
エリオンは心底迷惑そうな顔で俺たちを見る。
「キミたちは忠告したはずだ——それとも、記事で稼ぐためなら下っ端の命は要らないと判断したのか? まったく、無能なボスを持つとロクなことがないな」
「……」
得意の脅し文句にも動じず、ただ黙ってエリオンを見つめ続ける俺たち。
さすがの“エリオン様”も、これには違和感を覚えたようだ。
「どうした、何か言ったらどうだ? ……何を黙っている! 言え!」
取り乱すエリオンに向けてようやく、ぺイジアがゆっくりと口を開いた。
「……ほんと、アナタってどこまでもおめでたい“勇者様”なのね」
「……どういう意味だ?」
「そんなに知りたいんだったら、いいわ。カムラ、例のモノを」
俺はぺイジアの合図で、ポケットから小さな紙切れを取り出した。
「了解。では“エリオン様”、僭越ながら俺が読み上げさせていただこう。アンタには恩もあるが、悪く思わないでくれよ?」
俺はひとつ咳ばらいをし、取り出した紙切れ——とある手紙を、その場で読み始めた。
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大好きなシリルたんへ
エリオンたまからのお手紙だよ〜ん❤︎
大好きなエリオンたまは、明日からお仕事で遠くに行きます。
シリルたんに会えなくて寂しいよぉ〜…
お仕事から帰ってきたら、たくさんチュッチュしてね(笑)
シリルたんは、いい子にして待ってられるかなぁ~?
悪い子だったら、いつものお仕置きだからね❤︎
まずは裸でベッドに——
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「……ちょ、ちょっと待て!」
渾身の朗読の途中で、エリオンが割って入ってきた。
自慢の美貌も引きつりまくり、ずいぶんと慌てた様子だ。
俺の横ではぺイジアが、「キッツ……」とつぶやいてみせる。
こいつ、絶対わざと聞こえるように言ってるな。怖ろしい子だよ、ほんと。
「どうしたんだエリオン? せっかくいいところだったのによ。まさか自分が送った“愛の手紙”が読まれて取り乱してるんじゃ——」
「黙れと言っているんだ! ……どこでそんなものを」
「決まってるじゃない。あなたの大好きな“シリルたん”よ」
そう、俺たちは追加取材としてまず、シリルの家を訪ねていたのだ。
記事に彼女の名前は出していないが、社内でのウワサは光の速さで広まっていたらしい。
まぁとはいえ、それくらいのことで折れるシリルではない。彼女は悲しむどころか、むしろ激しい怒りに震えていた。
「……シリルだと?」
「あの子、“今後もあなたの名前は記事に出さないから”って条件を出したら、喜んで手紙を提供してくれたわ。結局あなたたちの関係なんてそんなものだったワケね、“エリオンたま”?」
「クソッ、あの女ッ……!」
「どうかしら、私たちともう一度だけ取り引きしない? この手紙は出さないでおいてあげるから、その代わりに記事の内容は認めるとか」
ぺイジアが、勝ち誇った表情で言い放つ。
エリオンはしばらく打開策を考えていたようだったが、やがて諦めて結論を出したようだった。
ただし俺たちが期待していたのとは違う、最悪の結論だ。
「……いいだろう。どうやらその手紙は、最初から存在しなかったことにするしかないようだな」
エリオンは静かにそう言うと、腰元の剣にそっと手をかけた。
……あ、これヤバいかも。
サーっと血の気が引くのを感じた。
手紙をなんとか用意したところまではよかったが、エリオンがそれを力づくで奪いにくる可能性にまでは頭が回っていなかったんだ。
困ったら暴力に頼るクズ男だとわかってはいたはずなのに……完全に抜かったな。内心、俺とぺイジアも冷静じゃなかったんだろう。
気づけば一気に形勢逆転。
青ざめる俺たちをあざ笑うように、エリオンは剣を抜こうとした——そのときだった。
「グルルルル……」
どこからか低い唸り声が聞こえ、次の瞬間、大きな黒い影がエリオンへと突っ込み、その首根っこを捕まえた——ガルド編集長だ。
「なッ、なんだ貴様!」
軽々と持ち上げられたエリオンは、足をバタバタさせながら拘束を解こうとする。
「また会ったな、エリオン。アンタも知っての通り、可愛い部下を守るのも編集長の仕事でね」
ガルドさんはそう言うとぐっとエリオンに顔を近づけ、ドスの効いた声でさらに続けた。
「痛い目に遭いたくなきゃ……このへんで観念するんだな、坊ちゃん?」
「こんなことをして許されると思うな……卑怯だぞ、ガルド!」
「卑怯だと……? ガッハッハッハッ!」
ガルドさんは豪快に笑う。
「勘弁してくれよ、アンタが言ったんだぜ? 俺が“狡猾なオオカミ”だってよ」
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【衝撃の“デレデレ手紙”を入手!】疑惑の決定的な証拠と、編集部襲撃事件の一部始終!
先日、本誌が報じた“勇者エリオン”の不倫スキャンダル。
世間の動揺とは裏腹に沈黙を貫いていたエリオンだったが、この一件に大きな“動き”があった。
事件が起きたのは、記事が公開された数日後。
険しい表情で当編集部に現れたのは、なんとエリオン本人だった。彼は登場するやいなや「記事を取り下げろ」と訴え、編集部員のひとりを“人質”に……。
通常では考えられない暴挙だが、我々編集部は“圧力”に屈さずさらなる取材を敢行。その結果、決定的な証拠を入手した。
以下に「恐怖の編集部襲撃事件」、そして不倫の事実を裏付ける「デレデレ手紙」のすべてを掲載する——
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不倫現場の写真、例のキッツ~い愛の手紙、そしてガルドさんがちゃっかり録音していた、編集部脅迫の音声……。
俺たちはそれらの素材をありがたく使わせていただき、エリオンの追加記事を書いた。
ここまで証拠が揃うとさすがに言い訳も難しく、さらには他誌の追及もあって、エリオンの化けの皮はみるみる剥がれていった。
一部記事ではシリルについての話も出ているらしいし、エリオンに関しては不倫だけじゃなく、パワハラやその他諸々のトラブル……いまやスクープは入れ食い状態だ。
王女様との婚約破棄も、秒読みってところだろう。
彼は一連の報道をすべて認めたうえで“自粛期間”に入り、しばらくしてまた“C級冒険者”からやり直すとのことだ。
……まあ、それを世間が許せばの話だろうが。
「ちょっとカムラ! ボーっとしてないで、取材行くわよ!」
エリオンが公開した言い訳まみれの“謝罪文”を呼んでいた俺に、ぺイジアから声がかかる。この一件のあと、俺たちは正式なタッグとして認められたのだ。
「ああ、すぐ行くからちょっと待ってくれ」
「ちょっと、敬語使いなさいって言ってるでしょ! 私が正式に上司になったんだから!」
「……へいへい」
お気づきの通り、俺はいま、異世界雑誌の編集部で記者として働いている。
人生何があるかわからないなんてよく言うが、本当にその通りだと思うね。
“異世界転生”なんてもっと、ハーレムとかスローライフが楽しめるもんだと思ってたが……実際のところ、むしろあっちにいた頃よりも忙しい毎日だ。
まぁ慣れてみればそれなりに楽しいし、こんな暮らしも悪くない。
成り行きでなっちまった職業だが、それなりにやりがいもあるんだ。
というのもこの世界の「冒険者」ってのは、どうも悪いヤツが多いみたいだからな。
これから俺は日々スキャンダルを追いかけ、この異世界を正すため縦横無尽に駆け巡ることになる……ワケだが、それはまた別の機会に話すとしよう。
見出しを付けるなら、
【次号、転生者カムラがギルドの巨悪に立ち向かう!?】
ってところかな。
どうだ? 俺もちょっとは記者っぽくなってきただろ?
気が向けば、また近いうちに書くよ。
とりあえず今回は、このへんで。
続報をお待ちいただければ幸いだ。
なんてな。
(了)
最後までお読みいただきありがとうございました≋
カムラとペイジアの物語は、またぜひ書いてみたいなと思っておりまして…≋
もしよろしければ、評価やコメントなどいただけると大変よろこびます≋
引き続き楽しんでいただけるよう頑張ります≋