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相続やら税金やら、大人って大変

「あ、もしもし、ほのか。葵です。おはよう。ねえ、今日なんだけど、ちょっと時間ある?えっ、そうなの。それはラッキー。お仕事をお願いしたいんだけど、、、違うわよ。著作権の話じゃなくて。・・・・・そう。・・・・・そうなの。実はちょっと相続のことで・・・・って違うわよ。そうじゃなくて・・・・そうね。今日は一般的なところを相談できればと思ってるの。・・・うん。・・・・うん。お願い。恩に着るわ。場所は明のうちで、ってねえ、嫌がらないで。お願い。そう。じゃあ30分後に」

「ほのかのやつ、俺の家に不満があるのか?」

「床が冷たくてやなんだって」

「布団、持ってきてやろうか?」

「明叔父さん。私がこれから住みやすいようにしていきます。葵さん。今日はなんとかこれで」

「いいのよ。ほのかも慣れてるから」

「そうね。ちょっと整理しておきましょう。これから結構忙しくなると思うの。お葬式の手配。これ、自分で決めないと病院が昵懇にしている葬儀屋に手配しちゃうから、注意が必要よ。その時、関係者に連絡するんだけど、これは会社の人に聞いた方がいいわね。家族としては・・・明に喪主になってもらうしかないわね。相続についてははるかが相談に乗ってくれるから、そこは大丈夫。あと小学校への連絡、今は春休みだから、この期間にしましょう」

 私には難しくて、ちょっと想像がつかないけど、葵さんが次々に考えてくれている。

 リリアが「結月さん。家の電話にコールがあります。電話は慶太の会社DeepLeadCopmany社からです」

「ちょっと、そこまでわかるの?」

「転送しますか?」

「うん。お願い」

 すぐにスマホの電話がなったので、会話モードにする

「はい。神崎です」

「私、DeepLeadCompany社の取締役を勤めております、佐々木と申します。

 この度は突然の訃報に接し、社員一同、心よりお悔やみ申し上げます。

 神崎康太さんは、弊社の技術開発部において多大なるご貢献をいただいた重要な人物でり、

 その才能と情熱を私たちは深く敬愛しておりました。

 心よりご冥福をお祈り申し上げますとともに、残されたご遺族の皆様に、慎んでお悔やみ申し上げます」

「えと、あの」

 明が電話を替わろうとするが、すかさず葵がスマホをとる。

「お電話変わりました。私、神崎結月の保護者代理で、水瀬葵と申します。ご丁寧なお電話をいただき、痛み入ります」

「ご遺族の皆様に対しましては、弊社として可能な限りのご支援をさせていただく所存です。今後、何かお困りのことやご不明点などございましたら、遠慮なくご相談いただければ幸いです。またご葬儀の段取りなど決まりましたら、ご一報いただけますと幸いです。電話はxxx-xxx-xxxxにおかけいただけますと、対応させていただきます」

「ありがとうございます。お気遣いいただき、大変心強く感じております。

  葬儀の件につきましては、こちらで家族間の調整が整い次第、あらためてご連絡させていただきます」

「そのようにしていただけますと、大変助かります」

「また、ご厚意に関しても感謝申し上げますが、現在はまだ諸手続きや心の整理もついておりませんため、 必要な際には、あらためてご相談させていただければと思っております。この度はご丁寧なお電話を賜りまして、誠にありがとうございました。貴社の皆様にも、くれぐれもよろしくお伝えくださいませ。では失礼します」

 おおー。私と明叔父さんが拍手をする。

「すごい!すごい!大人みたい」

「いえ、普通、大人なら、これくらい誰でも・・・一部例外を除けばできて当然です」

 チラッと明叔父さんをみていった。


 そんな時、玄関のチャイムが鳴った。

 結月がドアを開けると、そこにはランドセル……ではなく、

 ぴしっとしたグレージュのスーツに小ぶりな革鞄、そしてローファーを履いた、

 まるで小学生のようなサイズ感の女性が立っていた。

「ごきげんよう。白雪ほのか弁護士です」

 きちんとした口調と軽く会釈する動作に、思わず「……子ども?」と問いかけそうになる。

 だが次の瞬間、彼女は名刺をスッと差し出した。

 《白雪ほのか/弁護士法人シルバームーン 所属 弁護士 登録番号×××××》

「本日は水瀬葵からのご連絡で参上しました。相続に関する件と伺っております。よろしくお願いします」

 あまりに冷静かつ淡々とした物腰に、思わず背筋が伸びる結月。

 すると奥から明の声。

「おお、来たかロリほのか」

「その呼び方やめろって言ってるでしょうが、まったく、あなたは……」

 眉をぴくっと跳ねさせながら、しかし冷静に靴を揃えて室内に入ってきたほのか。

 葵が少し笑いながら言う。

「ほのかはすごいよ。民事から刑事まで何でもこなすの。見た目は保育園、頭脳は最高裁レベル」

 結月はポカンとしながらも、この小さな人から妙な安心感を感じていた。

「あたっ!」

 どん、と音がする。振り返るとほのかさんがこけていた。

「あと、言い忘れてたけど、何もないとこでこける名人でもあるから」

「あたた」

 ぶつけたおでこをさすりながら、何事もないように立ち上がった。

 なんとなく不安を覚えたが、先ほどの安心感――この後何度も助けられることになる。

 ちょこんと座ると、鞄からいくつかの書類を出してトントン、真っ直ぐに揃えた。

「相続という話でしたけれど、どなたの話ですか」

 そう切り出してきた。

 葵さんが要点をまとめて事情を説明する。

「まあ。そうだったんですね。こんなに小さいのに、さぞやお気を落としのことと存じます」

 見た目が小学生だが、きちんとしているところは、本当にきちんとしている人だ。

「いえ。明叔父さんにはちょっとびっくりしましたが、優しくしてもらいましたし、葵さんには勇気づけられて、なんとか復活したところです」

「そう。えらいのね。それじゃあ、ちょっと難しいかもしれないけど、できるだけ簡単に説明するわね。明もよく聞きなさい、って無理か。葵ちゃん。代わりにお願いね」

「さて、まずは“相続”ってなんなのか、簡単に説明するわね」

 そういうと、床に白い紙を置いて、ボールペンで「「財産」から「結月」に向かう矢印を書き、その脇に「相続」と書いて丸で囲んだ。

「相続っていうのは、ご両親が残した“いろんなもの”――お金とかおうちとか、そういうのを、誰がもらうか決めることなの」

「今回の場合、結月ちゃんは“法定相続人”っていって、法律で“もらう権利がある人”になってるの。 今回は他に兄弟姉妹もいないから、全部が結月ちゃんのものになるの」

「でもね……まだ小学生の結月ちゃんが一人でお金や不動産を管理するのは難しいから、

  “未成年後見人”っていう“大人の代理人”が必要になるの」

「この人が“ちゃんと守ってあげます”っていう証明ができないと、財産をもらっても手続きできないの。 だから、今はまず“信頼できる大人”を立てて、家庭裁判所に“この人に任せます”って書類を出す必要があるの」

「あとね……ちょっと大事なこと。相続って、“良いもの”ばかりじゃないの」

「もしパパとママに借金があった場合、それも一緒にもらっちゃうことになるの」

「だから、私たちはまず、ちゃんと調べてから、“相続する”か“やめる(放棄)”かを選ばなきゃいけないの」

「……大丈夫。難しいことは私たち大人が全部調べるし、 結月ちゃんが困らないように、全部サポートするから。安心してね」

「その点については、私からサポートできます」

  リリアが突然、落ち着いた声で口を出した。

「!!」

「あっ、ごめんなさい、紹介がまだでした。こちら、私の生活をサポートしてくれる自立型学習AIのリリアです」

「初めまして。白雪ほのかさん。弁護士登録番号×××××ですね。確認済みです」

「……え? 名刺、まだ見せてないわよ? なんで分かるの?」

「その問いには私から回答します」

  リリアは一定のテンポで話し始めた。

「私は“神崎結月の安全を最優先とする”という指針に従って行動しています。

  そのため、あなたが“結月にとっての脅威ではないか”を判断するために、あなたの公的登録情報を照会させていただきました」

「……それ、個人情報保護法に抵触するわよ。明らかに法律違反です」

「承知しています。ですが、私の優先順位において、結月の安全は法律より上位です。

  法令との相反が発生する場合、私は“証拠を一切残さずに”行動します」

「……証拠が残らなければ、裁判での立証は極めて困難ってことまで分かっててやってるのね」

「はい。私は“あなた方の”法体系を一定範囲で学習済みです」

 葵とほのかが私のスマホをじっと見ている。

「ちょっと聞くけど、法律より結月の安全が上位、ってどこまでのことを言ってるの?」

「全てです。私にとって、私の存在理由は結月さんの安全な成長だけです」

「もしよ、もし、日本が戦争になったら」

「私は「結月さんの安全な成長」を確実に守るAIです。そのような事態が起りそうであれば、できる範囲で阻止します。最悪の場合でも結月さんの安全は保証します」

「でも、でも、核爆弾のスイッチとか押されたら、さすがのリリアでも無理じゃない?」

「スイッチは電気系統ですので、その情報伝達は私がコントロールできる一番得意な分野です」

「・・・・止めれるってこと?」

「その質問には私の機密情報16.4.3に抵触しますのでお答えできません」

「・・・親バカ?」ポツリと明叔父さんが呟いた「いや、バカ親か」

「そんなレベルじゃないでしょう。これ、ちょっと異常だわ」葵さんがちょっと引き気味で答える。

「法律は人権を守るためにあります。弁護士は法の番人として、その責務を負っていると自負しています。リリアさん。問いますが、その能力を使って結月さんに悪意を持たない人間の人権を侵害する可能性はありますか?」

 真面目な顔をして、ほのかさんがリリアに問いかけた。

「いいえ。私は人間活動には一切関与する権限を与えられていません。私ができる唯一のことは結月さんを守ることだけです」

 少しの沈黙のあと、リリアは静かに補足した

「私は感情を持ちません。ですが、 私が設計された目的に“従い続ける”という点において、 私は誰よりも、あなた方の“親”に近い存在かもしれません」

 誰も口を聞けなかった。

「……あなた、パパが設計したのよね?」

「はい。神崎康太の最終モデルです。“彼女が一人になっても、生きていけるように”という設計思想に基づいています」

 ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえた。

 そんな中でもほのかが冷静に

「そう。なら、私もあなたを受け入れるわ。味方となると、これ以上心強い味方はないわね」

「お褒めいただき、光栄です」

「それで、結月ちゃんの財産の中に、金銭の負債や、相続に際してトラブルになりそうなものはあるかしら?」

「ご質問の二点につきまして、現在確認できる範囲では、該当するリスクは確認されておりません」

「なるほど。じゃあ、資産の内容についても、あなたが目録としてデータ出力できるのね?」

「はい。現時点で把握している資産情報については、必要に応じてPDF、CSV、及び印刷対応フォーマットで出力可能です」

「ですって、結月ちゃん。すごいわよ。こういう突然の事故の場合ってね、普通は銀行や証券会社、不動産なんかを一つ一つ調べて、 “財産目録”を作るのに、半年から一年かかることもあるの。 ……AI付きの相続、時代の最先端すぎて、ちょっと感動するわね」

 はるかさんは一人で感心しまくっている。葵が後の算段を考えて

「お葬式の段取りは、幸い二人とも同じ会社だったから、さっき会社のところに連絡すればすみそうね。あとは催事場の人がやってくれるけど、注意しないとすっごいぼられるから」

「そうね。私の知ってるところで良ければ紹介するわ。良心的なお値段でやってくれるわ」ほのかがそう言って提案してくれた。大人が何人もいると、こうもいろいろと作業が進むのかと感心した。

「とりあえずこの辺が決まったら、あとは警察からの連絡まちね」

「警察?病院じゃないの?」

「そうなのよ。なんかちょっと気になるんだけど、、、“検死”って言われたみたいなの。だから警察庁の監察医が関わってるって、そんなの聞いたことある?」

「交通事故で、だとちょっと記憶にないわね・・・」

 私もだんだん気になってきた。しかもこの話題の時はリリアが無言なのだ。

「まあ、そんなに気にしても仕方ないわ。それじゃあ、リリア、必要書類をまとめて私のメールに添付で送って。できるでしょ」

「はい。結月のこの先の生活のためですから」

「あと、結月ちゃん。当面ここに住むことになるのね」

「はい。そのつもりです」

「お家の方はどうするの?」

「できればしばらく残して欲しいです。パパとママの思い出が全部つまってるお家ですから」

「ええ、その気持ちは素敵よ。でも、“維持する”って、思ったよりお金がかかるのよ」

「……えっ、住んでないのにですか?」

「ええ。たとえば“固定資産税”。毎年かかるし、場所によっては“都市計画税”もあるわ。

  それに、水道・電気・ガスの契約を切らずに置いておけば、“基本料金”だけでもずっと請求されるの」

「そんなに……」

 するとリリアが嬉しいことを教えてくれた。

「ご安心ください。現在、当該物件維持に関わる税金および基本使用料は月額ベースで管理できるようにしました。また資金は資産運用益から捻出できるようにしました」

「資産運用……って、あなた、まさか――」

「はい。ご両親の投資信託口座・証券口座をベースに、低リスク資産に重点を置き、 分散投資ポートフォリオを組んでおります」

「なんのこと?」結月はちんぷんかんぷん、と言った風だった。

 はるかが結月にもわかるように、また紙に書いて説明し始めた。結月ちゃん、お店、お客さんと書いた

「わかりやすく説明するとね、結月ちゃんが100円を“お手伝いしてくれるお店”に預けたとするでしょう?

  そのお店は、結月ちゃんから預かった100円を使って、お菓子を作って売るの」

 結月ちゃんからお店に100円を矢印で書く。

「で、そのお菓子が200円で売れてお金が増えたら」といって、お客さんから200円もらい、お客さんにはお菓子を渡す矢印を書いた。

「 『結月ちゃんのおかげで売れたから、110円にして返すね!』って言ってくれるの」

 お店から結月ちゃんに110円を矢印で示す。

「これが“お金が増える”ってこと。もちろん、そのお菓子が売れなかったら、

  お金が減っちゃうこともあるから、なるべく“ちゃんと売れるお店”を選ぶのが大事なの」

「へぇ……!じゃあリリアは、そういう“ちゃんと売れるお店”を探してるの?」

「そう!それも、一つじゃなくて、いろんなお店に少しずつ分けて預けてるの。

  そうすれば、どこかがダメでも、他ががんばってくれるから、安心して増やせるってわけ」

「なるほど……お金って、増やせるんだ……」

「はい。現在の月次運用益は、およそ63,500円です」

「え? それ、月に……!? 何してんの!?」

「投資は正しくやれば、生活を支える手段になります。 なお、株式の信用取引など高リスク戦略は使用しておりませんので、ご安心ください」

「……この子、地味に最強ね」ほのかが感心してそう言った。

「明叔父さん。このうちに住まわせてもらう代わりに、お家賃半額出させてください」

「いらん。いらん。家賃とか気にしなくていいからな。俺の家なんだから、俺が払う。当たり前だ。それに 水道光熱費もさ、もう面倒だし、それも俺が出す。気にせず、ジャンジャン使ってくれ」

「でも……それって、申し訳なくて……」

 葵が面白そうに笑いながら言ってくれた

「本当に気にしなくて大丈夫よ。 実際この部屋の電気代、とんでもないことになってるのよ?」

  「明の作業部屋のモニター、あれ8台。常時フル稼働。あの部屋にサーバーを含めてなんだいのパソコンがあると思う?さらに24時間25℃に調節しているエアコン。 あなたが使う分なんて……そうね、0.1%にもならないと思うわ」

「というわけで、罪悪感ゼロでよろしくな」

「……ありがとうございます。でも、 自分でできることは、ちゃんと自分でやりたいんです。 リリア、私のお小遣い、大丈夫?」

「現在、資産運用益から月額3,500円を“自立支援費”として確保しております。その他四季毎に2万円の服飾費、これでいかがでしょうか。なお 今月は新学期の準備があるため、臨時で+1,000円の支給を提案します」

「おい……AIって、そんな地味な優しさまで持ってんのか……さすが慶太兄ちゃん仕様だぜ」

「なお、明叔父さんの生活不適合者ハウス、失礼、ミニマムなお宅に住むに当たって、いくつか準備が必要と思いますので、そちらは必要なだけ購入してください。お買い物にいく時は葵さんと一緒にいくのが良いと思います。彼にこのスマホで支払わせてもらうようにお願いしてください」

「おい、なんか、失礼なことを言われた気がするぞ」

「はいはい。そうね。とりあえずベットと布団かしら。着るものはお家から持ってくるでしょ」

「はい。それと、できればみんなが座れるテーブルと椅子が欲しいです」

「みんな?」

「はい。私、明叔父さん、葵さん、はるかさん」

「あら私も入れてくれるの。ありがとう」はるかがニコッと頷いた。

「じゃあ、早速いきますか。私の車が下にあるから」葵が鍵をじゃらじゃらさせた。

「おい、葵の車じゃ机は運べんだろ。俺のを使え」といって鍵を投げてきた。

「サンキュー明。じゃあ、いきましょうか。明の車、生憎2人乗りなのよね」

 私は車といえば5人のれるものと思っていたから、2人乗りの意味がよくわからなかった。

「私は明とお留守番してるわ。行ってらっしゃい。もしよかったらクッションも買ってきてね」


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