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仔ウサギの死骸を埋めたこと

作者: 太田

 細い路地で黒猫の死骸を発見した。

 となりを歩いていた愛美ちゃんは「うわっ」と声を上げ、嫌悪感をあらわにした。

 その態度に、私は仔ウサギを埋めたときのことを思い出した。


 小学5年生のとき、教室で飼っていた仔ウサギが死んだ。


 クラスメイトたちは、おのおのが死の悲しみを表現した。段ボールに入った仔ウサギに声をかける生徒や、沈んだ表情で手を握り合う生徒。泣いている生徒もいたと思う。


 帰りの会、担任が学校の裏の山に仔ウサギの墓を作ることを提案した。

 死骸を埋める係に立候補したのは私だけだった。


 私は、仔ウサギの命を管理していた者の責任として、後始末をすることは当然のことだと思っていた。私以外の手が上がらなかったことに驚いた。


 担任は、生き物係の愛美ちゃんと行くように言った。放課後に愛美ちゃんと2人で学校の裏に行った。


 学校と山の境目は曖昧で、どこに埋めたらいいかわからなかったが、適当な木の根元に決めて腐葉土を掘り返した。

 愛美ちゃんはずっとグズグズ泣いていた。けっきょく、私だけで掘って埋めた。


 すべてが終わったあと、愛美ちゃんが泣きながら木に向かって「ピョンちゃんのこと、絶対に忘れないからね」と呟いた。

 確約できないことを口にする愛美ちゃんの不誠実さに呆れてしまった。


 私はこのときから、自分が周囲とは異なる感覚を持っていると自覚しはじめた。

 しかし、愛美ちゃんの態度が正常であるのなら、私は異常のままでよいと思った。


 それから愛美ちゃんとは中学校、高校と別々に進学したが、大学で再会し、タイミングが合えばいっしょに帰るようになった。


 そして2人での帰り道、黒猫の死骸を見つけたのであった。


 私は死骸の後ろ足をポケットティッシュ越しにつまんで引きずり、道路の中央から道端へと移動した。


「気持ち悪くないの?」


 作業を終えた私に、ずっと無言だった愛美ちゃんは聞いた。私は理由を答える。


「いつも通る道だし、ほっといて内臓が出たら、やじゃん」

「そうだけどさ」

「愛美ちゃんだったら、ほっといた?」

「まぁ、ね。こういうの、すぐ忘れたいじゃん」

「うん」


 保健所に電話すると、場所を聞かれたので答えた。その場で待ってなくていいということだったので、私たちは家に帰った。


 家で手を洗ったあと、スマホのメモアプリを開いて1行追加した。


・動物の死骸を見たら、放置する


 メモは他にもある。


・体重増加の自己申告があった場合、「そう見えない」と答える

・フライドポテトを食べる前に、ひとりで食べていいか確認する

・彼氏と別れた友達には、バスボムを渡す


 私の自室のカラーボックスには、バスボムが1つある。

 愛美ちゃんに新しい彼氏ができたと聞いたときに買ったものだ。


 仔ウサギのことを愛美ちゃんは覚えているだろうか。

 この猫のことはすぐ忘れたほうがいいのだろうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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