1話 約束
「おーい、起きてよー。もー、起きないとチューしちゃうよ。」
きれいな声が聞こえる。やわらかくて温かい。目を開くと、金色の爽やかな髪に包まれた女の子の顔が目の前にある。
「ふぁー、おはよう、ヒカリ。ってなんで俺寝てるんだ?」
状況を整理しよう。俺はダーク。10歳。この世界では生まれたときに特殊能力<ギフト>を授かる。とは言ってもギフトを扱える用になるのは10歳くらいからだ。だからギフトの練習をと思って森にきたんだけど、、、
「なんでもなにもダーク君、訓練の最中にポイント切れで倒れちゃったんだよ?初めて使うから気をつけようねってあれほど言ったのに」
ポイント切れで倒れたのか。ポイントとは、魔法を使う上での魔力のようなものだ。ヒカリがいてくれて助かった。でもなぜだ、ポイントがほとんど回復している。
「ああ、そうか。ありがとな、ヒカリ。ところで何で俺のポイントが回復してるんだ?」
「ふふーん、すごいでしょ。私の<ギフト>、ポイントやケガを回復できるんだよ?っていうか膝枕してる女の子に反応くらいしてよー」
膝枕は置いといて、回復系のギフトだと?普通ポイントかケガどちらかだろ。それを両方、そしてこの回復量。もしかするとこの世界を変えてしまうほどかもしれない。俺は膝枕から起きてヒカリの頭を撫でる。
「すごすぎるぞ、ヒカリ。きっとお前なら聖女にだってなれる」
聖女とは魔王に対抗するべくしてできたパーティのうちの一人だ。他にも勇者やらなんやらあるらしいが俺には関係ない。
「ほんとに?だったらダーク君は私の勇者になってね。わたしたち二人ならなんだってできるよ!」
「ああ!約束しよう、ヒカリ。俺達二人でパーティを組んで世界を救うんだ。どんなことでも俺がお前を信じてる限り、お前が俺を信じてる限り、俺達は誰にも負けない」
「うん!これからもずっと一緒!!」
俺達は木々から光がこぼれ、影がうすくなっていく中そんな約束をしたんだ。
〜7年後〜
俺はいつも通りギフトの訓練をしていた。俺のギフトは簡単に言うと影を操れる。立体的な形になったり、ものを運んだりできる。消費ポイントが多いのが難点だが思ったよりも便利だ。今日は影を使って剣を作っている。俺は来年ヒカリと一緒にこの街をでて冒険に行く。そのために影で作れる武器を増やしておきたいのだ。爽やかな風が吹き抜け、木漏れ日があたりを照らす。中でも眩しいくらいの光の中からこちらを見つめてくる美少女がいる。ヒカリだ。
「ダーク!訓練終わった?そろそろ帰んないとパパに怒られちゃうよ」
気づけばもう6時だった。6時30には帰らないと、ヒカリの父さんがうるさいからな。んじゃ、ちょっと急ぎますか。スキル {黒速} この技は影の上を通常の3倍の速度で走ることができる。ヒカリをおぶって行けばすぐ着くだろう。
「ほら、おぶってくから掴まれ」
「今日くらいお姫様抱っこがいいなー。だめ?」
直視できないほどの笑顔。その顔は反則だろ。
「はいはい、お姫さま」
俺はヒカリを抱える。
「あれ?ダーク、顔真っ赤だよ?意識しちゃった?」
「お前が重いんだよ」
「そういうこと言っちゃうんだ、、、 ばか」
お互い顔を赤らめたまま街へ、はやく、ゆっくりと帰っていった。
街へ帰るといつも以上に騒がしかった。お祭り騒ぎだ。するとすぐに、ヒカリの父さんが息を切らして走ってきた。
「喜べ、ヒカリ!お前を聖女として明日、国王様が王宮に招待してくださるそうだ。そのまま行けば勇者パーティーに入れるぞ!今日は祝賀会と送別会だ!」
ヒカリの父さんは興奮しながら中央広場へと走っていった。ヒカリが聖女。王宮に。嬉しい、ものすごく嬉しい。でも、、、
「よ、よかったな。憧れの聖女に、そして勇者パーティーなんて」
「う、うん!さっすが私!ほら、早く広場に行こう?」
俺達は軽いはずの足を、鉛のように引きずって広場へ向かった。その後のことは嵐のように過ぎていった。この街から聖女がでたと馬鹿騒ぎ。豪華な食事に、華麗なダンス。家がクリスマスのように光っている。俺達二人は喋る暇もないまま、時間だけが過ぎていった。俺はもう、何も考えることはできなかった。
「ダーク、、、」
顔を上げるとヒカリがいた。いつもよりどこか儚げな。
「もう、お祭りはいいのか?こんなとこにいていいのか?」
ばかみたいな質問しかででこない。すると、ヒカリは目を濡らしていた。
「ダーク、私いかなきゃだめかな。行きたくない、行きたくないよ。ずっとダークと一緒がいい。聖女なんかよりもダークがいい。私は、わたしは、このままがいいよ」
ヒカリが泣き崩れる。俺だって、行ってほしくないに決まってる。ダークとして、幼馴染としても。でも、でも、この世界からしたらどうだ。ヒカリが聖女になることで何百、何千の人が救われる。それだけじゃない。魔王ですら倒すことができるかもしれない。なら俺がするべきことはなんだ。自分やヒカリの気持ちに蓋をしてでも言うことがあるだろ。
「ヒカリ、落ち着いて聞いてくれ。俺ももちろん、ずっと一緒にいたい。でも、ヒカリが聖女になればこの先の世界は絶対変わる。お前が照らしていくんだ。だから、ヒカリ。お前は行くべきだ。でも、でもお前を一人にはさせない。昔、約束しただろ。俺達二人で世界を救おうって。だから俺も後から必ず行く。勇者として、ヒカリの勇者として俺も行く。だから、少しの間だけ向こうで俺を待っててくれ」
俺は今どんな顔をしているだろう。残酷かな、冷静かな、泣いてるかな。
「うん、うん。約束だよ。待ってるからね」
ヒカリも決心したように弱く、優しく、でも強い声でそういった。俺はヒカリを抱きしめる。もうどこにも行かせないような強く、弱い腕で。
その日の深夜、俺は家をこっそり抜け出していつもの森へ来ていた。自分のギフトの訓練だ。勇者になるなら止まっている暇はない。少なくとも今は動かないと体が不安で爆発しそうだ。一刻も早く影の剣を完成させなければ。ヒカリを守る力をつけなければ。夜の冷たい空気が痛いほど感じられる。木々がゆれ、風以外の音は何も聞こえない。まるで、世界に自分しかいないようだ。
2時間くらい立ったところだろうか。冷たい空気が重いのを感じる。嫌な予感がする。突如、激しい爆発音が耳を壊した。俺は無意識に街の方向を見た。燃えている。街が燃えている。一体何が起こった?とにかく急がなければ。<ギフト>を使用。スキル{黒速}。
「ヒカリ、ヒカリ、、、」
遅い、遅い、遅い。もっと早く、もっと速く。爆発音が続いてる。頼む、無事でいてくれ。15分ほど全力で走り続け、やっと街の北門が見えてきた。
「は?、、、」
そこには信じられない景色が浮かんでいた。燃える街の中で次々と人がモンスターに殺されている。父さんも、母さんも。俺に気づいたゴブリン数体がこちらにやってくる。このままみんなと一緒に死んでしまおうか。俺だけ生きててもなんの意味もない。
「ごめんみんな、今そっちへ行くから。ごめんな、ヒカ、、」
諦めかけたその時、悲鳴が聞こえた。ヒカリの声だ。そうだ、約束したじゃないか。二人でパーティーを組んで世界を救うって。ずっと一緒だって。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。<ギフト>を使用。クリエイト{黒影剣}。手から黒い剣を創りだす。俺はゴブリンに向かって叫んだ。
「どけ、そこをどけぇぇぇ」
一太刀でゴブリンを二体倒す。当然だ、何のために努力してきたと思ってるんだ。今のでさらに魔物がやってきた。追加でゴブリン20体。コウモリ50体。スキル{影閃}。これは影の上を移動するスキル{黒速}に一閃を加えたものだ。ゴブリンを一列でまとめて仕留める。次はコウモリ。空を飛んでるから厄介だ。なら。クリエイト{黒影銃}。剣から銃に創り変える。そしてスキル{乱影}。影の威力をまとった弾丸を放つ。気がつくと周りの魔物は死んでいた。ポイントがもうほとんどない。早くヒカリの下へ行かなければ。
あたりが燃え、血の匂いを嫌というほど嗅ぎ、肺が苦しくなりながらも俺は中央広場まで走り続けた。
倒れそうなのを我慢して、やっとたどり着いた。広場には白い服に包まれ、メガネを掛けた長身の男が気絶したヒカリを雑に抱えている。そして周りには白い服のフードを被った部下のようなやつが4人。何なんだあいつらは。いや、それよりも早くヒカリを助けなければ。走ろうとしたその瞬間、足が震えて動かない。怖いんだ。相手が誰だか知らないが次元が違う強さなんだろう。でも、だからといってそれが動かない理由にはならない。俺は無理やり脚を動かした。
「ヒカリー!待ってろ今助けに行く!」
「ん?誰ですかあなた。許可もなしに動いて」
メガネのやつがそう言った瞬間体が固まった。恐怖じゃないはずだ。相手のギフトか。だが、次の瞬間俺は血だらけになって吹っ飛ばされていた。なんだ、何が起きた。立ち上がるのさえ激痛だ。でも俺は声を振り絞って聞いた。
「お前ら一体なんなんだ。ヒカリをどうするつもりだ」
「許可なく動くなと言ったでしょう。ん、あなたは、、、まあ冥土の土産として教えて上げましょう。私は魔王軍四天王、ロック。今回こちらに来た目的はこの聖女です。人界に聖女が出たと聞き魔界が何もしないと思いましたか?勇者とともに抵抗される前に潰しとこうという話です。ただ、ギフトが特殊でして是非、魔王軍になってもらおうと思っております。」
「ヒカリが魔王軍の味方をするとでも思ってんのか」
「もちろん思っておりません。ですので洗脳しようかと思っております。」
「ふざけんな、誘拐だけでなく人形にするつもりか!」
俺はやつに向かって斬りかかる。でも、次の瞬間またボロボロで飛ばされている。
「まあ、お話はこのあたりにしましょう。」
魔王軍5人がヒカリを連れて空を飛んでいく。このまま連れてくわけないだろ。{乱影} {乱影} {乱影}
くそなんでだ。一発も当たんねえ。
「待て!俺はそいつと約束してんだ。それを守るまで絶対行かせないぞ。」
魔王軍たちは俺に目もくれず夜空を切っていく。{黒速}追いつかなければ。くそ、くそ。俺はまだお前に言わなきゃいけないことがあるんだ。全身から血が吹き出す。それでも、走り続ける。
「んー、めんどうですね。フォゲット、やって差し上げなさい」
「了解しました。スキル{忘却}」
あれ?俺何してんだ。こんなボロボロになって。そうだ、**を魔王軍から助けないと。え?**って誰のことだ。何も思い出せない。でも、大切な人だと言うことはわかる。だって体がこんなにも勝手に動くんだから。
あたりを見渡す。誰もいない。あるのは見慣れた森だけ。膝から崩れる。
「ははは、なんで俺泣いてるんだ。**って誰だよ?ああでも、これだけはわかる。俺はなんにも、なんにもできなかったんだ!**を失ってるのに。悔しいな、俺ちょー弱いじゃねえか」
思い切り自分を殴る。俺はこれからどうすればいい?そんなの決まってるだろ。たとえ**のことを忘れていても必ずお前を救い出す。
「待ってろ**。俺はまだ死ねない。お前のことを思い出すまでは。お前を助けるまでは!」
記憶を取り戻す旅にでよう。仲間を探そう。そして魔王を殺してやる。
ここから始めるんだ。俺の記憶集めの冒険を。
初投稿です。小説として至らないところがほとんどだと思いますが、少しでも読んでくれると幸いです。