処刑
昼食を食べている時に、領主の館から使者が来たとガフが伝えに来た。
「昼食が終わるまで使者は待ってくれるから、ロビーで待たせてほしい」と瑠璃は言うが、これを聞いたガフは驚いた。
「いいから、使者は文句を言わずに待つから」と事もなげに言う瑠璃の存在にガフは不思議に思う。
冷や汗をかきながら使者に恐る恐る瑠璃が言ったことを伝えると、勿論待たせてもらうからルリ様は食事を楽しんでほしいと答えたと瑠璃に伝えた。
領主の館の使者の対応がこれまでとはまるで違う、人によって違うのか、それにしても、とガフは不思議に思う。
食後使者をあまり長く待たせるのもよくないと思い、食後のお茶は馬車の中でルイネと二人お茶を楽しんだ。
馬車よりも転移した方が遥かに早いのだが、と思う瑠璃なのだが、ナルディア新領主の面子もあるだろうしと、納得するのだが面倒に感じる。
馬車が止まるとJDホリソンがドアを開けてくれ、慇懃に挨拶をした。
そして、豪華な調度品が並ぶ廊下を歩いてアースンの私室に案内された。
ホリソンの扉をたたく音に「ルリ様、急な呼び出しに応じていただき感謝申し上げます。
実は、盗み聞きを心配して私の私室の方へ案内しました事お許しください。
瑠璃が見るアースンの私室は、アースンが好んで着る服と同じで、落ち着いた装飾に実用性が重視された家具で、華美な物は何もなかった。
しかし、高級な素材をふんだんに使った家具に調度の品々だった。
これも人柄だろうと、瑠璃は思う。
ルリ様もご存じと思いますが、たった今王国軍からの早馬が、明日サンランド等罪人をナルディ市に連れて入るから、市内の警護をお願いしたいと、伝えてきました。
サンランドのしぶとさに、王国軍が警戒しての事と思いますし、私も同様に考えます。
今でも少数の私を支持する領軍が、中立派の領軍がサンランド支持に回ると、JDは最悪の事態になると予想していますし、私もJDと同じと思います」。
その対策を私に聞きたいと言われるのは、少し違います。
私はあなたを新領主へ就ける段取りはしました。
今は、あなたの腕の見せ所ですから。
ただ一つ言える事は、私は昨日衛兵の中から勇者を一人作りましたから、その者に協力を要請するのが良いでしょう。
リンツ隊長を通し、勇者と衛兵に警護を任せてみてはいかがでしょうか。
市民も領軍も本当の勇者の強さにきっと驚くと思いますよ、ねぇルイネさんと言う。
処刑前にあなたが市民にナルディア家の恥ですが、サンランド等がやって来た事を知らせる事は、軍と市民に人気を上げる事に効果的と思いますし、実行すべきと思います。
それとは別に、先ほど告げた様にイストール魔王国にいるいる人の非難をお願いしますね。
と、瑠璃が言うと、JDがそれは既に手を打ちました、と言う。
さすが出来る執事と瑠璃は思った。
「とにかく私はアースンの領政に期待しています。
誰に遠慮もいりませんから、思うようにやってください。
そして、本当に困った時は私を頼ってください、決して悪い様にはしませんからね」と言う瑠璃にあらためて感謝するアースンだ。
瑠璃は転移し貴族街の何時もの所から歩いて帰る。
翌日サンランド等を逮捕した王国軍は数を減らし12人となったが、4番門から入る行進は見事なものだった。
門からは衛兵が手薄になった王国軍の警備し行進する中で、非常に目立つのはエステ班長が装備する武器と、その美貌だ。
特に赤色の長髪と整った顔は、アン班長と人気を分けるようだが、瑠璃は少し若いセレスも劣る所がない、美人と思うのだった。
リンツ隊長が指揮する衛兵の精鋭の警護のなかに、セレスも混ざっているが、人気が無いのが不思議になった。
そんな中で思ったとおりに領軍の30人ほどが奇襲してきた。
奇襲に遇った王国軍は先を急ぐと、次はSとAAランクの冒険者等が行く手を塞いだ。
その様子を瑠璃達は空中で見ているのだが、衛兵と違いさすがに領軍は強かった。
王国軍とサンランド等を守るエステの周りをSとAAランクの冒険者が多く囲むが、魔法が専門のエステだが、そのエステが軽々とSとAAランクの冒険者を圧倒する、それも不思議な色のショートソードを使い、それを見たSランクの冒険者から、「俺は聞いていないぞ、あいつは少々近接戦が出来る程度の魔法使いだろうが」と仲間に不満を言っている。
今まではSランクの冒険者には勝つのは同じSランクか上のSSランクなので、少人数の衛兵や軍人ではまず勝てないのが常識だったが、幼児を相手にする大人の様に、今は簡単に倒す事が出来るのだ。
エステは、「これは、本当に私はどうしてしまったんだろう」と思っていた。
そして、「そりゃお前たちは聞いていないだろうよ、私は昨日勇者になったからな。
それもお前たちがよく知る偽物とは違うから、強くて当り前さ。
諦めて武器を置き逃げる者は追わないでやるが、まだ逆らうなら今からは命懸けで来いよ」と、言う普段の明るいエステとは別者がいた。
冒険者を脅すと勝てないと悟った残りの冒険者は全員が武器を置き逃げ出した。
次は、劣勢のリンツ隊長の方に加勢し、サンランド等に付いた領軍のほとんどを一人で無力化した。
衛兵と領軍と王国軍はその鬼の様な強さに、今のエステに敵うものは誰もいない、正に向かうところ敵なし、といった感じに、口々におい、あの美人の衛兵は誰だと、言っている。
あれは何者だ、強すぎるぞと。
あれか、あれが真の勇者だよ、と口々にエステの戦を見た衛兵と領軍に王国軍の兵士が感想を述べあっていた。
後ろの方で騒ぎが収まったところに、アン班長の5班が負傷した者を手当てしている。
アン班長は今回敵方に回った兵士も、手を抜くことなく、公平に手当てする姿は素晴らしいと瑠璃は思った。
そして、無防備すぎるとも。
やがて中央広場端の処刑場に無事に着いた。
そこで待っていたのは、領主の席に座る新領主のアースンだ。
その高い位置から立ち上がり、多くの市民に向けアースンはサンランド等の処刑の決定と罪状を市民に告げる。
集まりの市民に告げます。
初めに私、アースン・ナルディアの方針を伝えます。
これからは、身分の区別なく誰でも罪を犯した者は、罪を償ってもらいます。
宜しいですね、我が領の配下の貴族と他領や他国の区別なく、必ず犯した罪は平等に償ってもらいます。
今日裁かれる罪人はその一例です。
と、アースン領主が話すと見物人の多くが騒ぎ始めた。
静まれ!
我が家の恥を語るようになりますが、これから告げる事は全てが真実です。
先ずは、そこのサンランドです。
かつては私の父であり領主だった男です。
一つ、この男は、処女権と言う己の欲望を満たすだけの領令を発布し、成人前後の少女をほぼ毎晩の様に秘密の離れに強引に連れ込み、時には廃人になるまで犯し続けた獣のような男です。
一つ、先日処刑した偽勇者イーライ・ナルディアが連続少女バラバラ殺人事件の真犯人と知り、犯人逮捕に衛兵隊長に無理な期限を設け、衛兵隊長のクビを画策し、事件を有耶無耶にしようとした罪。
以上で、この男は処刑します。
おぉ~と集まった市民から大歓声が起き、アースンと言う声が次第に大きくなってくる。
それを手を振り制して次を話す。
次は、かつて私の姉でした。
この女も酷い者です。
サンランドと同様に、己のゆがんだ性欲を満たすため、成人前後の多くの少年を牢屋に連れ込み、時に廃人になるまで痛めつけた罪で処刑です。
最後はかつて私の母親だった女、アイコです。
一つ、この者は、実の子を虐待し続け挙句牢屋で餓死させた鬼です。
一つ、サンランドとキャサリンが連れ込んだ少女と少年に、鞭打ちと拷問を繰り返し廃人にした罪で処刑します。
再びアースン、アースンの大合唱が会場全体にとどろくなか、断頭台によって次々に処刑が決行されて行くのを瑠璃はアースンはよくやったと眺めていた。
サンランド等の処刑が終わりアースンが宣言した。
ここに集まりの貴族と市民の皆に告げます。
この先私はジェイコブおじい様の言いつけに従います。
はじめに、このナルディア領に居る全貴族に告げます。
処女権は廃止です。
ナルディア領外の我が配下の貴族は、少年少女に手出しする事は許しません。
それに伴い他の領地から来ているいる貴族、と他国から来ている貴族も同様で、仕えている使用人にも範囲が及ぶと知りなさい。
このナルディア領に居る限りは、親子、身分の区別なく犯した罪は必ず償ってもらいます。
それが不満な者は即刻ナルディア領から出て行きなさい。
またアースン、アースンの大合唱が起きる。
それを大きな身振りで制し、今回サンランド等の処刑をナルディ市で行うよう格別な配慮を賜った、国王ジョージ6世様に感謝申し上げます。
そして、逮捕に多大な犠牲出しながら成し遂げられた王国軍の兵士一人一人に、ナルディア領主の名を持って敬意と感謝を表します。
本当にありがとうございました。
最後に、このナルディア領はルーデジア王国初となる、勇者をいただいた事を神に感謝します。
とアースンは告げた。
瑠璃は両手をメガホンの様にし、この会場は勿論の事ナルディア領内外の皆に聞こえる様に神威を使い告げた。
全ナルディア領の民の皆に告げる。
今日の新領主アースン・ナルディアの裁定は見事であった。
アースンがナルディア領の発展に力を尽くすなら、儂は手を貸すであろう。
しかし、逆に民を苦しめるときは、儂が許しはしない。
ナルディア領の民は、この先も今はこの若い新領主アースン・ナルディアを助けてやってほしい。
宜しく頼むぞ。
其処ら中で神様、本当に神様の声が聞こえた、と大騒ぎになったあたりで瑠璃は転移し貴族街の林の中、何時もの大木から若葉の朝露亭に戻った。
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