アン班長2
朝は習慣で早く起きたと思い、ルリ様の部屋行くと既に起床されていた。
「おはようございます、ルリ様カーテンを開けましょうか」とルイネが挨拶をした。
「おはよう、ルイネ。
今朝ルイネに用を頼むことがありますから、そのつもりでいてくださいね」と瑠璃はルイネに告げた。
傍のルイネは沈黙に間が持てないのか「あの、ルリ様にお茶お出ししたいのですが、そのこの部屋には何もないのですが」とルイネが聞いた。
「ルイネがお茶を飲みたいのなら、私が用意しますよ」と言う瑠璃にメイドのルイネがビックリする。
凡そルイネが知る主は、基本なにもしないで、身の回りの雑用などの仕事は全部メイドや執事任せだからだ。
「いえ、そうじゃないのです。
ルリ様がなさると私の仕事がなくなるから」と言うルイネに、瑠璃も納得するが、基本瑠璃がお茶の用意はするので、今は仕事が何も無いのだ。
「では、少し早いですが、朝食にしましょうか。
ルイネさんにお願いする仕事は、その後ですからね。
それに私は混み合うレストランよりも、早い時間の貸し切り状態が好きですからね」とほほ笑む瑠璃の後を付いて、下の受付に来た。
今日の担当は、リーズだ。
リーズに、私のメイドだとルイネを紹介すると、リーズは既に知っていたから、これには驚きだ。
レストランに入ると、ここでも同様でピンデールもルイネがメイドと知っていた。
ピンデールがいつもの席に案内してくれ、ルイネが窓際の席の椅子を引いてくれた。
メイドのルイネが席に着いたところで、朝食のメニューから今日はソーセージがメインに野菜サラダとコンソメスープを頼んだ。
ルイネに聞くと同じもので良いという事なので、2つピンデールに注文した。
運ばれてくる朝食を食べ終わり紅茶を頼むのが、ルイネは水を頼んだ。
「ルイネさんは紅茶は飲まないのですか」と瑠璃が聞くと顔を赤くしモジモジしながら、私はルリ様の使用人、メイドですからと言い出すから。
「私に遠慮しなくても良いのですよ」と瑠璃が言うが、水と言うので、ピンデールに紅茶2つと水ね、と瑠璃が勝手に頼んだ。
紅茶を飲みながら瑠璃が話すのを聞いた。
「ルイネさん今日の料理の味は如何でしたか」と。
「私はこの世界に来てまだ日が浅いのですが、ここの料理より旨い物を出すレストランをまだ知らないのですよ」と、ほほ笑む瑠璃にルイネは昨日見たあの不思議な空間を思い出し、改めてルリは神様だと思った。
そして、「私もです。
コットン邸でも此処の味には到底及びませんから」とルイネが答えた。
紅茶を飲み終わり瑠璃たちはレストランを後にし、自室へ戻った。
「ルイネさんに聞きますが、嫌な事を思い出すようで申し訳ないのですが、出来るだけ答えてくださいね」と瑠璃が言った。
「昨日私たちが通りかかった時、コットン侯爵からひどい仕打ちを受けていましたが、それについて何か心当たりがありますか。
普通に考えるに、何よりもメンツにこだわる貴族が自らのメンツを貶めるような行為はしないと思いましてね」の問いに対しルイネは日常的にやられていたのでよく分からないと答えた。
「では、昼からの鞭打ちも日常ですか」の問いに、ルイネは昨日が初めてですと答えた。
「ふむ、昨日の昼にヨーゼフはルイネさんに何か言いませんでした」と聞く瑠璃に、昼に近い時いきなり庭に引っ張り出され、後のことは覚えていないと話す。
これ以上ルイネに聞いても無駄と思う瑠璃は、衛兵本部へ行きリンツ隊長の許可を貰い、ここへアン班長とアンジーを連れてきてほしい、と仕事を言いつけた。
「それで、ルイネさんだけでは不安なのでゴズに同行してもらいますから、安心してください」と言う瑠璃に、ルイネはただ従うだけなのだが、偉い人に会うのは出来れば避けたいというのが本音だ。
若葉の朝露亭を出て、少し歩いた人気のないところで、瑠璃はゴズを出し「ゴズ、ルイネさんを守ってくださいね」と言う。
「もちろん、我が身にかえても。
ではルイネさん行きましょうか」とゴズはいつもどおりに爽やかに言う。
「では頼みますね。
私は準備がありますから」と瑠璃は2人を見送り若葉の朝露亭にとって帰り、受付のリーズに談話室の予約を入れ自室に戻った。
そして、神威を使う。
「リンツよ、そなたを訪ねて少女が来るが、その少女に会って話を聞いてやれ。
さすれば、そなたの仕事が大きく進展するであろう。
良いな、リンツよ」と。
今度はそこはかとなく、神の威厳が発揮できたのではないかと、瑠璃は自画自賛するのだが、当事者のリンツはどのように思ったかは分からない。
宿の入り口がよく見える席で瑠璃はルイネがアンとアンジーを連れて帰って来るのを待つが、その間は、暇を持て余した貴族と商売のタネを探し回る商会主の注目を浴びてしまう。
と、言うのは、謎の存在である瑠璃が、いつの間にか変わったメイド服を着せたメイドを連れていた事にだ。
そのメイド服は今まで見たことがないデザインで、多少下品に見えないことはないが、男心をくすぐるもだ。
この世界のメイド服と言うのは、丈の長い黒一色で小さめのエプロンと頭のシニヨンで、実用的とは思うが何かが欠けていると思うのだ。
それが、瑠璃が連れてきたメイドのメイド服にはその欠けたもの全てがあるのを知ったからだ。
そのあたりを是非瑠璃に聞いてみたい、と思う好奇心はあるが、瑠璃の格好、特に瑠璃が付けているこれまで見たことがない色と輝きのローブが、躊躇させる。
その思惑が混じる視線を瑠璃は無視し、ヨーゼフについて隣のメイドの話やジャクソン家の事について、考えを巡らしている。
瑠璃がルイネを衛兵本部へ送りだしたころ、執務室でウッディーとヘテル班長と談笑しているリンツ隊長の頭の中に、神のお告げが突然響いた。
この前の切羽詰まった時と違い、今は多少の余裕があり、お告げを良く理解できた。
「すまん、今日はアンを予定から外してくれ」と、突然のリンツ隊長が突然言い出した。
瑠璃が来ない今日は、2班以外は皆通常業務なので、訳が分からないと言うふうに思うのは、11班長のウッディーなのだ。
定時の朝礼も終わり、執務室でアン班長を待たせていると、衛兵から執事と下品な格好したメイドが、リンツ隊長に面会を求めて下に来ています、と報告が来た。
「来たか」と思うリンツ隊長は、「そのメイドに会おう、ここへ連れて来い」とだけ言った。
リンツ隊長が初めて会うメイドはルリの使いだと話す。
「執事のゴズをさしおいて、下品な格好のメイドが」と思ってリンツは、ルイネを睨むのだが、ゴズは部外者のような振る舞いに、執事とメイドにソファーに座るよう勧めるのだが、執事のゴズはメイドの後ろに立ち、その様子はまるでメイドの護衛のように感じとれる。
「初めまして、私はルリ様のメイドをしている者で、名をルイネと申します。
今朝は主、ルリ様の要件でこちらへ参りました。
ルリ様の要件とは、アン班長とアンジーと言う人を若葉の朝露亭に連れてきてほしいとの命を受け参りました」と、実に堂々と話した。
先ほどのお告げのとおりだと、リンツは思った。
アン班長は、この場合はメイドよりも執事が言うべきことをメイドが言う事を不思議に感じるが、神と思えるルリの事だからと快諾する。
後は、リンツ隊長の了解待ちと、リンツの方へ向く。
リンツは「ルリの言う事だ、良いだろう行け」と了解する。
「ルイネさん、アンジーの支度がありますから、少し時間を貰えますか」とアンは言い、執務室を出るのに同行し、ルイネはリンツ隊長に礼を言いゴズと共に執務室を出た。
アンはルリのローブ姿は見慣れていたが、ルイネと名乗るルリのメイドの服を見ると、見慣れたメイド服とは違い、パンツが見える程足を出し過ぎるメイド服が下品に見えるのだが、その反面整った顔立ちといい姿が服によく似合い、とてもかわいいと思った。
それに前に会っている筈の執事の名前は聞いていたが思い出せない、金色の瞳が非常に魅力的な黒髪の美しい青年に好意を感じている自分を不思議に感じる。
若葉の朝露亭のロビーで瑠璃はアン班長達を待っていた。
「アン班長、今日は私の無理なお願いを聞いて下さり感謝しています。
ゴズ、途中何もなかったようでなによりです。
ありがとう」と言う瑠璃に、ゴズは私に礼は無用です瑠璃様と言う。
「談話室を借りていますから、詳しい話しはそれからという事にしましょう。
その前に、ルイネにレストランで軽くつまめる物と飲み物、紅茶を4人分の注文をお願いしますね」と言い談話室1に入った。
一口大のサンドイッチの盛り合わせとクッキーに4人分の紅茶をガフが持ってきて、ルイネが手伝ってそれらを各自の前に置いた。
アンは紅茶の数が少ないのではないかと、不思議に思った。
「その紅茶はルイネ、あなたのよ」と瑠璃が言うとルイネとアンが不思議に思うだ。
「ルイネ、あなたもここへお座りなさい」と瑠璃は命じると、遠慮がちにルイネは座る。
「では、これで準備は済みました。
ここでの話と中は覗けなくしました。
さぁ、先ずはお茶を召し上がり、つまんでください。
此処のはとても美味しいから、きっと満足してもらえます。
今日アン班長とアンジーさんをお呼びしたのは、私とゴズが偶然にロンスを見つけ今捕まえていますから、アンジーさんに確かめてもらいたいのです」
「ロンスから凡その話は聞いていますが、やはりアンジーさんに本人と確認してほしいのですよ」とアンジーに向かって瑠璃がほほ笑む。
「ロンスの奴は何処にいるのですか、あの野郎は」と唇をかみ怒りをあらわにするアンジーの身の上を知る瑠璃とアンは同情する。
「これから見る事は秘密にしてください」と瑠璃が言うとアン班長とアンジーは初めて見る何もない空間に驚き、そこに置かれている男を見た。
「アンジー、この男に見覚えがありますよね」の問いに、こいつですよ。
「私に酷いことをした男は」と言い倒れている男を足で蹴りだすアンジーの顔に涙が流れていた。
しばらくアンジーの好きにさせた瑠璃は、ロンスに近づき手をかざし元に戻した。
「ロンス、お前がした事をアン班長に話しなさい」と瑠璃が言うが、素直に応じないロンスをアンジーがロンスの顔を蹴り上げた。
「ぐぅ、痛てぇじゃねえか、何しやがる小娘が。
おっ、おめぇは、この間の小娘じゃねぇか。
俺が忘れられなくなったっかぁ」と下卑た笑みを浮かべた。
「ゲスが、黙れよ」とゴズの拳がロンスの腹にめり込んだ。
「ロンスの確認がとれたので、アンジーさんはここまでね」と言う瑠璃の言葉で、次の瞬間は何事も無かったように、談話室でお茶を前にしていた。
「ゴズ、あなたはアンジーさんを衛兵本部へ送りなさい」の言葉にゴズはお任せを、と返し不安がるアンジーを連れて談話室を出た。
「ロンスについては、ラーダ班長と一緒に取り調べをしてくださいね」
「それよりもアン班長、あなたの事を今日は聞きたいのですよ」
此処にいるルイネは、あなたが良く知るヨーゼフ・コットン邸でメイドとして働いて、と言うよりも、ヨーゼフの憂さ晴らしの相手をさせられていたのですよ。
私とゴズが通りかかった時は、屋敷の庭でそれも昼間から」
「それで、アン班長に聞きたいのですが、あなたはこの間の貴族街で話していた件といい、ヨーゼフと知り合いなのですよね。
是非詳しく話してください、あなたの力になれると思いますから」と瑠璃がいきさつを話し、アンに聞いた。
黙ったままのアンは覚悟決めたのか、それとも諦めたのか、話しはじめた。
ヨーゼフとは幼馴染で許嫁なのだと話しはじめた。
それはコットン家が爵位と仕事の上で上司であるため絶対に断れない事で、ジャクソン家もほぼ仕方なく受け入れたのだと。
地元でも市民から人気が無いコットン家、アン自身も貴族としての嗜みと許嫁の事は理解していた。
だが、相手の悪いうわさしか聞かないヨーゼフに、ジャクソン家からコットン家にアンは家出したと話、ナルディア領主サンランド様を頼りナルディ市に来たのだという。
そこで、ウッドマンを捜索中に貴族街でウッドマンの聞き込みで、アンは偶然ヨーゼフに見つかり、ヨーゼフはアンの所在をコットン侯爵に知らせたと、あの2班が見たアンとヨーゼフの姿を見た時は、アンはヨーゼフから呼び出され、結婚を前提の付き合いを迫られていたのだと。
アンはヨーゼフがナルディ市に来ているとは全く知らなかった、と話し、ジャクソン家の事を考え独自でヨーゼフの周りを調べてみると、昔の悪い癖は治るよりは悪化しメイドを代わる代わる虐待している事を知ったと。
アンジーを瑠璃が連れてきた夜に、コットン家からヨーゼフの所へコットン家から結婚を進める手紙が来たと。
近いうちに、ジャクソン家からも結婚についての手紙が来るだろうと、アンは瑠璃に話したのだ。
その話を聞いていたルイネは、ヨーゼフにされた酷いことをすべて話した、そして、泣き出した。
「アン班長よく話してくれました、悪いようにはしませんから安心してください。
一つ確認ですが、アン班長はこのままナルディ市で衛兵の職を希望されるのですね」の問いに、私は衛兵を辞めたくありません、ときっぱり宣言した。
ベルを鳴らすとガフが来たので、紅茶を3人分頼みこれからの予定をアンに話した。
「おや、もう昼になりますね。
ついでですから、アン班長ここで食事にしましょう」とレストランでの昼食を進める。
私がアン班長を招いたのですから、と言う瑠璃の誘いを仕方なく受けた。
瑠璃と同席し食事をするルイネをアンは不思議に思うが、これがルリのやり方なのだと思う反面、ゴズに対しては扱いが違いすぎ不思議に思った。
ルリが勧めるここの食事は確かにおいしい、ベッサー市でもこれほどのレストランをアンは知らないが、探せばあるのだろうと思う。
食事をしているとピンデールがルイネの所へ、ゴズが帰ったと知らせてきた。
瑠璃の指示は談話室で待つようにとゴズに告げ、気にせず食事を続ける。
食後リーズに談話室を返し、4人は若葉の朝露亭を出て人気のないところで、神界の瑠璃の部屋に転移しロンスを連れ戻った。
ロンスの意識を戻し、ゴズにアン班長に同行するよう命じ、アン班長はロンスを本部へ連行する手はずだ。
「ルリさん本当にありがとう」と言うアン班長に瑠璃は、今度困った時は御札に話してみてくださいね」とだけ告げた。
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