ルイネ1
「今度はメイドの方ですが、本当に困りました」と瑠璃は独り言を言ったつもりが、それに答える声がした。
「何じゃ瑠璃の気配がすると思ったが、瑠璃が居るじゃないか」、と神様がやって来た。
「おぉ、瑠璃もやるではないか」と瑠璃の傍に転がる死体を見て、他の神様が言うのだ。
「瑠璃よ、何をそんなに困っているのじゃ。
良ければ話してみなさい」と。
「そこのメイドですが、仕える主に躾と称した酷い虐待を受け、帰りたくないと言い、私にすがってきたのです」
「なんじゃ、簡単なことじゃよ。
瑠璃がメイドとして使ってやればよかろう。
神の使徒というやつじゃよ」
「一度聞いてみればよかろう。
ただし、神の使徒になるという事は、生涯独り身を貫く必要があるがな」と神様は言った。
「でも、私は借りものの一部屋しかなく、使徒を持つなどできません」
「そんなことはなかろう、金は十分持っていると思うが。
そうか、部屋は如何様にも出来よう、わしが手配しておくから安心しなさい」と話し神様は姿が見えなくなった。
では、私も覚悟を決めましょう、とまた独り言を言う瑠璃だ。
そして、メイドの意識を戻した。
「初めまして、私は瑠璃と言います。
ここへ来たので既に承知と思いますが、私は神です。
それで聞きますが、先ほどあなたはあの屋敷に帰りたくないと言ましたね。
私はあなたが居なくなることで、家族など困りはしないのかと。
あなたは誰もいない、と言った。
それで良いのですね」と、問う瑠璃に、はいと答えた。
「あなたの名前を教えてくれますか」の瑠璃の問いにメイドは名をルイネと言い歳は14歳だと言った。
「非常に重要な事を聞きますが、私に仕えたいというのなら、一生独身の覚悟がありますか。
男性とは一切の関りを断つことになりますよ。
よく考えて決めてくださいね。
その間に、私はこれを始末しますから」と瑠璃は死体へ向き直る。
いつの間にかゴズはアイテムボックスに戻っていた。
一瞬で終わる死体処理にわざと時間を掛け、死体を異空間に瑠璃自ら異空間に放り処理し終わり、ルイネに覚悟を聞いた。
ルイネはこれから一生をルリ様のために尽くすと、躊躇いなく言った。
それを聞き瑠璃はルイネを裸にし、鞭で打たれミミズ腫れの箇所や、打撲による内傷に体に満遍なく残る傷跡を神の御業である手当で、傷一つない綺麗な体に治した。
そして、新たな服としてアイテムボックスを探したが、服は一着も無かった。
困った瑠璃は神様を呼んでみた。
他の神を見たルイネは気絶していた。
「ちと刺激が強すぎたかのぅ」と神様が言い、スクール水着とは違い瑠璃に馴染みのメイド服を渡された。
神様曰く急に拵えた割に良い仕上がりになったと、満足気だった。
頭用のフリル付きの白地に黒色の1本のラインが入ったヘッドドレスは、精神攻撃耐性と物理攻撃耐性に毒耐性で、破壊不可なのだそうだ。
ミニタイプの白色のフリル付が付いた、黒色ジャンパースカート型のスカートに半タイプの淡い赤色のブラウスのメイド服は、付属の白色のワンピース型のエプロンと白いパンツがセットになったものだ。
ヘッドドレス同様の耐性と破壊不可の他、毒攻撃耐性も付くと。
白色の手袋は肘の上までカバーする長さの物で、服同様の能力を持つ物だ。
黒色の二―ソックスも服と同様の耐性で破壊不可。
靴は編み上げタイプで二―ソックスや服同様の耐性と破壊不可の優れ物なのだと。
それから重要なことだが、このパンツを履くと、周りからパンツが見えそうで見えないという、男心を擽り虜にする優れものなのだ。
これらの装備は、全て防水防臭と防汚の性能を持つ。
ただ、残念なことに、この少女は鍛えても強くならんから、その辺は気を使ってやれ。
以上じゃ、と神様は言い姿が消えると、裸のメイドの意識が戻った。
瑠璃はルイネの慎ましい胸を見て、ジャンパースカートのサイズと比較し心配になるが、心配は杞憂に終わった。
ルイネの胸は瑠璃程ではないが、14歳という歳のわりに膨らみが慎ましいからだ。
ルイネは新しいメイド服を着、靴を履きヘッドドレスをつけ手袋をはめて身支度が終わった。
慣れない編み上げの靴を履くのに少し手間取ったが、なじみのメイド服と大きく違い、とまどったようだ。
それは、膝上20センチの長さであり、スカート部分がパニエを用いた様に裾が広がり、少しの姿勢の変化で白色のパンツが見えそうになるからだ。
そこで、瑠璃が「今ルイネが着た服一式は、貴族や王族が身に着けるどの鎧よりも確実にルイネの身を守ってくれます。
それから、パンツが気になるようですが、このパンツは他人から絶対に見る事が出来ませんから安心してください。
しかし、あなたに戦闘は無理ですから、あなたの身はゴズが守ってくれるよう私が命じます」とルイネに聞かせる。
では、貴族街に戻りましょう。
そして、大きい部屋の確保も必要ですし、と言い瑠璃は貴族街を若葉の朝露亭に向けて歩き出した。
その後ろをゴズとルイネが並んで歩く。
神様謹製のメイド服はこの世界一般的なものと大きく違い、特にフリル付きジャンパースカートの着丈は短いし半袖と、シニヨンの代わりにヘッドドレスといった具合で、いわゆるゴスロリとメイド服が混ざったようなデザインは、貴族に付き従う従者からは奇異な目で見られる。
若葉の朝露亭が近くなったので、ことも無く瑠璃はゴズをしまい
どんどん進んで行き、若葉の朝露亭に入ってしまう。
高級宿の若葉の朝露亭と認識しているルイネは、入り口で立ち止まったままで、入るのを戸惑っている。
「さぁ、ここが私の宿ですから、入って来なさいルイネ」と瑠璃がルイネを呼び、その声に促されルイネは中に入った。
若葉の朝露亭に来るまでも注目を浴びたが、ここも同様で、ロビーで寛ぐ貴族や大商人らの注目を集めた。
瑠璃は受付のレスターにルイネをメイドと紹介し、部屋の変更を告げると、運よくルリ様にピッタリの部屋の空きがあると、笑顔のレスターが言うので、直ぐに部屋を変えてもらった。
「申し訳ありませんがルリ様、こちらの客室が3部屋付くタイプは、差額として320000イェンです」とレスターが言う。
「構いませんよ、たちまちは1か月という事でいいでしょうか」と瑠璃はレスターの目の前に、ローブから出すように見せて、金貨で320000イェンを支払った。
この前と同じようにレスターは、男を呼ぶのだが、瑠璃がそれを制した。
レスターの説明で新しい部屋は、3階の南向きの部屋となった。
ここは、日当たりが良く、前にレスターの日当たりが悪いと言った意味が瑠璃に分かった。
この角部屋は3方に大きな窓があり、室内が白色で統一されているのは変わらないが、こちらは、窓や壁の装飾が見事なのだ。
家具とテーブルはローズウッド材でその木目が美しく、椅子も全てローズウッド材で統一されたいた。
瑠璃は奥の窓際の部屋を使うと言い、奥の部屋のベッドは薄ピンク色の天蓋付きで手の込んだ鳥の刺繍が各所に使われてた物に変わった。
「ルイネ、あなたは隣の部屋を使いなさい」と瑠璃は言う。
今までルイネに自分の部屋は無く、コットン邸の場合はメイドを含め女は一纏めに大部屋で寝起きしたので、これが当たり前と思っていた分、高貴な貴族が出てきそうな部屋を貰えたことに、とまどうと共に瑠璃に感謝する。
破れたメイド服のみで他に持ってきた物も無いルイネにはあまりに広い、広すぎる部屋なので、落ち着けない。
そんな時、瑠璃がルイネを呼んだ。
「あの、なんとお呼びすればいいのでしょう」と、ルイネが聞いてくるので、「私は呼び名にこだわりはありませんが、ただ人前で神だけはやめてくださいね。
そうですね、瑠璃と呼んでください」
「ルリ様、それで、私は何をすればいいのでしょうか」とルイネが聞いてくるので、今は殆どやってもらうことがない、と瑠璃が答えると、ルイネは困った様な表情が顔に出た。
「では、コットン邸の一件が片付くまでは、あまり外に出ないでくださいね。
今はそれだけですよ」と、瑠璃が言う。
「ルイネはコットン邸を出る時に、白カードを持ってきましたか」と聞く瑠璃に、白カードは離さず持っていると答えたので、取り戻す面倒は無くなった。
夕食に良い時間になったので、「これから夕食に行きましょう」と言う瑠璃に、「ですが、私はルリ様と食事は出来ません」と、これまでの教えを常識のように答えた。
「いえ、良いのですよ」と瑠璃が言い、それが当たり前の様にルイネとレストランへ連れて行く。
席はいつもの瑠璃のお気に入りの席、案内してくれたのは、ガフだった。
ガフもルイネの扱いに困ったのだろうが、「ルイネは私のメイドなので、ルイネは私と同じテーブルにしてください」と瑠璃が、ガフに告げた。
「ルイネさん、ここはとても美味しいのよ。
あなた、食べたいものがありますか」と瑠璃がルイネに尋ねる。
ルイネは自分はメイド、まして神様と同席など畏れ多い事この上ない、硬くなったまま無言になる。
今のレストランは瑠璃の貸し切りとは違い、貴族や商会主が少なからず食事をしているのだが、瑠璃のテーブルに多くの視線が集まる。
そして、「おい、見てみろよ。
あいつは何やっているんだ」
「あの小娘に誰か常識を教えてやれよ」
「それに何なのだ、あの破廉恥な服は」
「小娘と小娘がなにやっているのやら、おい、常識を教えてやれ」などなど、瑠璃のテーブルが話題になっている。
周りのザワツキを瑠璃は気にすることも無く、ローストポークとチキンのセットと魚のテリーヌに根菜のシチューとコンソメスープを2人分注文した。
そして、運ばれてきた料理に、ルイネと他の食事客が驚いた。
ルイネの場合は、主と同じ物を同じ席で食べる事で、他の客は、メイドに同じものを食べさせる瑠璃の非常識さだ。
マイペースで食べすすめていると、一人の貴族が忠告に瑠璃のテーブルへ来たが、その時ちょうど瑠璃の頭から微かに煙が出ているのを見て、何も言わずに自分の席に戻っていった。
「ルイネさん美味しかったですか」の問いにルイネは小声で「今まで食べたことがないくらいに美味しいです」と答えた。
それを聞くと瑠璃は満足し、ルイネを連れ自室に戻ってきた。
「ルイネさん、このメイド服は汚れることはないのです。
それに、破けることもありませんし、ルイネさんあなたの成長に合わせて大きくなりますから」と言い、ルイネの服と体の埃を神威でとる。
瑠璃自身の埃も神威で取り除く。
「さぁ、これからが楽しみの時間ですよ」と言い、瑠璃は隠す必要が無くなったアイテムボックスから、2人分の紅茶のセットとチョコレートを使ったロールケーキとモンブランを出した。
「あなたもこちらへ来て、私と一緒に食べましょう。
恐らく初めての食べ物と思いますよ」と瑠璃の誘いに「あの、ルリ様先ほどといい、私ごときメイドが同席しても本当によろしいのでしょうか」
「私は気にしていませんよ」と何事もなかったように瑠璃は答える。
2人してスイーツを楽しみ夜は暮れていき、眠そうになったルイネを察し、ルイネを下がらせるため今夜は用が無いと告げた。
ルイネの話
嫌がる私にメイド長等が、これも貴族の家に勤めるメイドの務めと言い、ヨーゼフのもとに送りつけ、ヨーゼフに何度も何度も犯され続けた。
最近のヨーゼフは私を犯すその途中でヨーゼフは必ず私の首を絞めてくるので、今夜こそは絞殺されるかもしれないと恐怖した夜もあった。
ヨーゼフに呼ばれるたびに、私の体に一つまた一つを傷が増え、日によっては私の体を求めるよりも、ただ気絶するまで殴り続ける事もあった。
コットン家の面子のためか、無傷なのは顔だけで体じゅうが、内傷で青や青黒くなるのはまだ程度がよく、息をするたびに右わき腹が酷く痛む日が数日続くこともあったが、肋骨の骨折かもしれないと思った。
金を出してくれた近所の人達に少しでも金を返そう思い、コットン家が他所よりも少し給金が高かったのだが、両親も死に今はその選択を後悔しても既に遅いのだった。
そんな日が続くある日の事、遠くでヨーゼフは衛兵班長の制服を着た美しい女の人と何か話していたが、屋敷の戸口でヨーゼフと偶然私とばったり会い、その日を境に躾と称しヨーゼフの私への扱いがさらに酷いものになった。
またヨーゼフのおもちゃにされるかと思うと、本当に夜になるのが怖かったが特に、この2日は屋敷にいるのが本当に怖かった。
最近は夜の痛みが朝まで続き、朝起きるのが苦痛で朝の仕事に遅れてしまい、それがヨーゼフの耳に入り、今日は朝から私はヨーゼフによって庭に引き出され鞭で打たれ続けた。
ヨーゼフの鞭打ちが止み、私が意識を失う間際に聞こえてきたのが、私をバルモア子爵に売ったから、あいつはバルモア子爵の私兵が片付けに来るから放っておけ、という声が聞こえた。
そして私は気絶した。
騒ぎ声で気が付くと、私兵と思しき男たちの怒声が聞こえて来た。
「あぁ、私は本当に売られたのだ。
バルモア子爵のおもちゃの次、行きつく先は性奴隷」と覚悟した。
しかし、怒声が止み通りが静かになるが、私を連れに来る者は誰もいないので、不思議に思い通りに目を向けると、私は奇跡を見たと思った。
それは、これまで見たことも無い黒髪の美しい青年が、私兵等を集めどこかへ運ぼうとしているのを見た。
それを見た私は、ここから抜け出せるチャンスは今しかないと思い、あとの事は何も考えず、美しい青年の後を付いていくことにした。
痛む脇腹は歩く度に痛い、もしかするとこれが邸を抜け出せる最後のチャンスかもしれないと、必死で後を追った。
青年も私に気づいたようで、少しまた少しと歩く速度を遅くしてくれ歩き続けると、前に見える白色のフードを被る少女は、恐らくだが青年を待っているように感じた。
白いフードを被る少女は、青年が持ち帰った死体を屈んで見ていたが、次に見た時は死体が跡形も無くなくなっていた。
これを見た私は凍り付き動けなくなった。
このゴズという青年の後を私が付いて来たことが、少女に都合が悪いように感じた。
本当に都合が悪いのなら、先程迄あった死体同様に私を殺してくれてもいいのだ、少女は簡単に人が殺せそうに感じるし。
と、思っていると少女が私に聞いてきた。
これに私は驚いた。
私はこれまで見たことのないところへ少女に連れてこられ、少女に色々と聞かれた。
そして、少女は、自分を神だと名乗り、名前はルリだと語った。
確か、神様の名はリルと思ったが、思い違いをしたのか。
一生独身を貫く覚悟があるか、と聞かれたので、私は覚悟を決め独身を通すと伝えた。
聞かれる途中で気絶したように感じる瞬間があり、気が付いた時に少女が裸になれと言ってきた。
ここで逆らっても良い事は何もないと諦め、少女の言うように裸になった。
すると少女は不思議な術を使い、私の打撲から内傷の青や赤黒くなった痣をまるで無かったように治した。
ついでに、骨折したあばら骨も元通りになり、次は肌の露出が多く、特にパンツが見えそうで恥ずかしい、メイド服を着ろと渡してきた。
何でもこの服は、貴族が戦で身に付ける鎧よりも優れた防御効果を持ち濡れないし汚れない物だと言った。
それに、暑さ寒さも耐えると説明を受けるが、にわかに信じがたい性能に、私は神の使徒になったと実感した。
次に神様が泊まる宿に連れて行かれた先が、ナルディ市を代表する誰もが知る高級宿で、私ごときは門前払いがいいところなのだが、ルリ様に入れと言われ、私は恐る恐る中に入った。
そして、3つ続く大きな部屋の一つをルリ様から頂いた。
夕食もこれまでの様な、食べ残しのゴミの様なものではなく、恐れ多い事にルリ様と同じテーブルで、ルリ様と同じものをいただいたが、そのどれもがおいしくて、コットン邸でヨーゼフが食べる物とは違い過ぎると感じた。
その後にルリ様は、これまで見たことがないお菓子を取り出して、私にも食べさせてくださった。
ナルディ育ちの私は、ナルディは王都ほどではないが、十分に都会と思っていた。
その私は世の中にこんなおいしい物がある事を知らなかった。
そして、もう用が無いからと、下がって良いと言われ、今こうして今日の起きた事を思い出しているが、本当に不思議な気分だ。
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