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神様になった  作者: 小原河童
冒険者編
15/495

ゴズ

翌朝は少し霧が出ていたが、朝食を食べている間に消えていた。

瑠璃は朝の2番の鐘が鳴ると、このナルディ市の探索に出かけると決め、まだ行ったことがない貴族街から領主の館の方へと歩き出した。

昨日も感じたが、本当にこのナルディという街は、緑が多い街だと。

ダウンタウン方面よりも、こちら貴族街のほうが街路樹を含め道端は花壇が設置され、花壇には赤、紫、ピンクに黄色と色とりどりの花々が咲き乱れて、甘い香りが周りに広がっている。

誰が管理しているのか、流石に貴族街といったところか、瑠璃はこの一帯がいたく気に入った。

各貴族の館も緑が豊かで、どれもが良く手入れがなされて、お互いの家が競い合っているようにさえ思えるのだ。

本当にここは静かで、聞こえるのは鳥の囀りの他、かすかに使用人と思える人の会話の一部で、貴族達が活動を起こすには、まだ時間が早いのだろうと、瑠璃は考える。

貴族街の通りが勾配がゆるい九十九坂道に変わり始めると、行き止まりに建つ領主の館に通じる専用の通りに変わるのだ。

領主の館の表門が見えはじめるところで、瑠璃はここまでと思い振り返ると、朝日に輝くダウンタウン辺りまで眺望ができ、領主の館は本当に良い場所にあることを感じる。

若葉の朝露亭を出て、家を持つなら私もこのような場所に家を建てたいと瑠璃は思った。

引き返す途中で、来た道と別れ右の道を選び、ダウンタウンを目標にあるき出す。

この道は真っ直ぐではなく、適度に曲がりくねった道で、表通りとは違う落ち着いた雰囲気を持つのだ。

適当な例えが見つからないが、瑠璃は大きい通りの方は、分譲の住宅地とすると、こちらは、昔からの歴史を感じる一戸建てで権力のある貴族が住むといった感じだろうか。

道幅は狭いが、瑠璃はこちらにより魅力を感じる。

途中に何箇所もの十字路があるが、真っ直ぐ歩き続けると、若葉の朝露亭の近くで、瑠璃が先程歩いた大きな通りに出た。

次はダウンタウンを通り、スネール川の先にある住宅地を目指した。

途中の中央広場の女神像の前は、女神像を見ないように意識して足早に通り過ぎる。

それには二つの理由がある。

一つは、瑠璃を模した女神像は、今の瑠璃よりも立派すぎるし、その美化し過ぎに苦手意識があるのだ。

もう一つは、あの女神教という怪しい人に会いたくない。

ナルディ市の人たちは、瑠璃が神様とは思ってはいないし、ただあの像を女神様と信じているだけなので、自意識過剰なのは良く分かっているのだが、それでも中央広場に来ると、自然と足が早くなる。

瑠璃はこのまま一人で歩いても面白くないと考え、人気のない裏道に入りブラックドッグ呼び出し、人形に変身させ連れ歩くことにした。

「一週間で7日はいける瑠璃様、今日から夜のお相手が許されるということでしょうか」と、このブラックドッグは相変わらずだ。

「私は昨日のような対応でお願いしたのだけど」と、いつものセリフは聞き飽きた、と瑠璃が言うのだ。

「TPOをわきまえるこのブラックドッグ、本日はこちらの方向でいきます」と宣言されてしまうのだ。

「主の言うことが聞けない犬は、元に戻しますよ」と瑠璃は言うが、問題ないといった感じのブラックドッグの所作に瑠璃は諦めた。

犬の躾が全く出来ない瑠璃なのだ。

しかし会話の相手がいると思うと、心強く感じる瑠璃は、初めてのスネール川に架かる立派な吊り橋を渡り、市民の住宅地へ入った。

こちらは、通りの中央に植えられた街路樹が大きく、程よい木陰を作り、ここの通りも石畳みの舗装が施してある。

貴族街の通りよりも、こちらに歴史があるように感じられるのだ。

そう言えば、まだ瑠璃は未舗装の道を歩いた事がないと思い、四大貴族ナルディア侯爵の力の一端を知るのだ。

「ねぇ、私思ったのだけど、あなたに名前が無いのは不便なので名前を付けようと思うの、どうでしょう」

「私ごときに名前を、それに瑠璃様が直の名付けなど、勿体ないことです」

「と、言うことは、嫌ではないと言うことですね」

「私のような卑しい物に、名前は」と言うブラックドッグが言うのをその後は言うなと制した。

「決めました、名前をつけますよ」と微笑む瑠璃に、ブラックドッグは俯いたままだ。

「あなたの名前は、ゴッド、ゴッズいや、そうあなたの名前は、ゴズにします」と宣言する。

すると、ブラックドッグの体が一瞬黄金色の光りに包まれ、その光は時間にして一秒くらいで消えた。

瑠璃は、相変わらず執事服のままで外見が変わらないブラックドッグだったゴズを鑑定してみると、潜在能力値が50倍高くなっていた。

大満足の瑠璃はゴズの顔を見ると、ゴズの瞳の色が赤色から金色に変わっていた。

その瞳から、涙の雫が見えた。

「あなた、泣いていたのね。喜んでもらえて私は嬉しいですよ」

「私も涙が出るとは思いませんでした。

本当にありがとうございます。

さらに強くなったこの身で、瑠璃様を今後も全力でお守りします」

「名付け前でもあなた相手に敵う者がこの世界にいるとは思いませんが、強くなる事はいいことですね」

「じゃ、続きの探検に行きますよ」という瑠璃と並んで歩くゴズは非常に目立つのだ。

ゴズの正体を知らないで、すれ違う少女らの、ゴズを見る目の色が違うのだ。

ゴズに対し恋愛感情の好意を持っているのが、瑠璃のフード裏の緑色の点の輝きに頼らなくても、瑠璃にはよく分かるのだ。

時には、ゴズといる瑠璃が恋敵に思うものまで現れてくるから、「あれ、もしかして名付けは失敗か」と一瞬瑠璃は思った。

住宅地のとある十字路を右に曲がったところで、リンツ隊長にバッタリ出会った。

「これは隊長様、今日はどちらへ」と瑠璃が聞くと、ここが我が家だと言う。

「それは失礼しました。

隊長様も貴族ですから、私は貴族街に邸があると思っていましたから」

リンツ隊長が不思議そうにゴズを見ていた。

「失礼しました、紹介がまだでしたね。

この者は私の従者のゴズです。

ウッドマンの住居探しは、彼の功績が大きいのですよ」と、告げる瑠璃に、リンツ隊長は何かを感じたのか、諦めた表情に変わり、家へ瑠璃たちを招いた。

「お母さん、お父さんが帰ってきたよ」と庭で遊んでいた幼女が、リンツの足に抱きついた。

「紹介しよう、これが末娘のエリスだ」

「はじめまして、私はエリス・グラッソン、今年で6歳です」と瑠璃に貴族風の挨拶をした。

その姿が本当にかわいいのだ。

「はじめまして、私は瑠璃、11歳です。

あなたとお父さんにお世話になっています」と瑠璃が挨拶をするのだが、途中からエリスに呼ばれた母のスーナが庭に出てきた。

その後に続きて、ジーン9歳とエレン14歳の姉妹とシン7歳という男子が出てきた。

リンツの話では、まだ今年成人した長女のジーナ15歳に長男のネイト17歳と次男のハース16歳がいると言うのだ。

成人組は職業もスキルも世に言うハズレの類ではないが、誰でも持つありふれた物なので、今はスキルのレベルアップ狙いで冒険者をやっていると言うことだと。

「紹介しよう、妻のスーナだ」

「ルリだ。

仕事もだがエリスついても大変に世話になった」

「そして、こちらはゴズ、こちらにも世話になった」

「スーナ、立ち話もいいが、中にワシが案内するから、お茶の用意をしてくれないか」

「わかりました、あなたのいやグラッソン家の大恩人ですから、取って置きを用意しましょう」と笑顔でリンツに返すスーナを見ると、家族の暖かさに良い家庭とルリは思う。

「今日はあの事件が一応の解決をみたのでな、休みをとったのだ。

それで、散歩と久しぶりに体を動かそうと、剣の訓練にとスネール川に行こうとしたところだよ」

「そうですか、なんか邪魔したようですね」

と話していたところに、スーナがお茶と手作りのクッキーを持って来た。

「この度はリンツがお世話になりました。

本当に感謝しています」と、言うスーナは、この季節にすると厚着なのだ。

寒がりなのかと瑠璃は感じた。

スーナも何かを感じ取り、後はリンツに任せ子供たちの方へ行く後ろ姿が、寂しそうに感じられた。

「お世辞抜きに申しますが、本当に素敵で美人の奥様ですね」と瑠璃が言う。

「そうだゴズ、あなたはお子たちのお相手、お願いできますか」

「はい、もちろんです」と言い残しゴズは庭の方へ行った。

「俺の自慢なんだよ、スーナはな」と、言うリンツはなんとなく複雑な表情を作る。

「もしスーナさんの事で不安があるなら、私に話してみませんか。

こう見えても私、とっても口は堅いのですよ」と瑠璃は言うが、11歳の小娘の言い草に、言った本人は気恥ずかしくなるのだ。

しばしの無言の時が流れ、リンツが話しはじめた。

今でこそグラッソンと名乗っているが、ワシの家は何処にでもある極普通の家だった。

当時のワシは家計の足しにと思い、14歳になると冒険者登録をし冒険者になったのだ。

未成年の冒険者がする仕事は、市内各地区にある下水道の掃除の他は、安く買い叩かれるありふれた薬草の採取の二つだ。

ワシはその両方をやったが、下水道の掃除よりも薬草採取がいつの間にか得意になった。

薬草採取は、その全てが自己責任でサボっても結果が収入で跳ね返ってくるだけで、採取量が多ければ下水道掃除よりも収入は多くなるのだ。

同じ仕事を1年近くも続けると要領が分かり、成人して職業の戦士を賜った。

同時に発現したスキル・破剣は戦士に相性が良く、レベル上げを兼ねて、ありふれた薬草から少々珍しい薬草採取と行動範囲もどんどん広がるのだ。

そんなある日のこと、村外れの街道で奴隷商の商隊がゴブリンの群れに襲われているところへ遭遇したのだ。

ユニーク化したゴブリンが率いる群れは狡猾で、先に護衛の冒険者を倒し、次は奴隷商等を囲んでいた。

当時のワシは自分の力を過信するバカで、後先を考えず奴隷商等を囲むゴブリンの群れにツッコミ、必死で斧を振るったのだ。

奴隷商等を始末したゴブリンは、獲物の奴隷とワシ相手と二手に分かれ、ワシの方にユニーク種が大剣を振りながら襲いかかってきた。

普通のゴブリンとそのパワーが違い過ぎて、ワシは死ぬところまで追い詰められた。

奴が振るった剣が、ワシの頭を掠め直ぐ横の木の幹に見事に刺さり、大剣が抜けなった一瞬の隙をつき、ワシはユニーク種をギリギリのところで倒すことが出来た。

獲物の奴隷に襲いかかったゴブリン共は、ワシと同じ歳格好をした冒険者チームによって倒されていたのだ。

その中の一人に、ナルディア侯爵家の現当主サンランド様がいたのだ。

ワシの向こう見ずの蛮勇をサンランド様が気に入り、これが切っ掛けで、サンランド様の推挙で2年後に騎士になれるはずだった。

しかし、そう簡単に騎士になれる訳ではなかった。

ゴブリン共の襲撃から奴隷の一人、生き残りがおったのだ。

リンツが手で瑠璃を制し、「まぁ最後まで聞け」と言った。

その生き残った奴隷がスーナなのだ。

奴隷商が死んでスーナを所有するものがいなくなったのだ。

贔屓目に見ても、当時から町中で出会う男の10人中9人は、確実に振り返る程の美少女のスーナに、ワシはひと目で惚れた。

サンランド様の冒険者チームは、皆が貴族の嫡男で、奴隷に興味は全く無く、自然にスーナの所有権がワシという事になった。

スーナの方も万更ではなく、ワシはスーナと結婚した。

騎士への推挙に妻が奴隷と知れ問題になった。

スーナを所有していた奴隷商は、スーナの白カードを持っていなかったのだ。

なにか特別な契約があったのか、奴隷商の死と共に白カードは消えたのか。

前にも話したと思うが、この世界の人族は皆が白カードと共に生まれ、死ぬと白カードは消滅するのだ。

スーナの白カードが無いと奴隷紋は消すことが絶対に出来ない。

それで、今でもスーナの背なに大きな奴隷紋が残ったままだ。

これからもっと暑くなるが、スーナは厳しい夏の暑さに耐えることになる。

その奴隷紋がワシの騎士爵を阻み、前の領主ジェイコブ様のゴリ押しで、他の四大貴族とその腰巾着の貴族等を黙らせ、ワシは一代騎士になれたのだ。

「あぁ茶が冷めたな、スーナ熱いお茶に代えてくれないか」と言うリンツの言葉に、スーナは直ぐに熱いお茶とビスケットを持ってきた。

ワシは貴族街ではなくここに住んでいるのだが、「ルリよ、ここは良いぞ」

「貴族街ほど夏でも暑くはないし、朝夕の景色は素晴らしいしな」

お茶とビスケットを楽しんでいると、ゴズが子どもたちと現れたが、子どもたちにゴズは何をしたのか大人気だ。

「すっかり話し込んでしまいましたね。

これで失礼します」

「今日はリンツ隊長の良い話が聞けて、そうですね。

明日特に予定がなければ、私が泊まっている若葉の朝露亭にスーナさんとエリスさんで来ませんか」

「今日のお礼とはいきませんが、良ければですがね」

「もし来られるなら、これを庭に置いてください」と、アイテムボックスから出すところをローブから出すよう、細工し手のひら大の緑色のサイコロのような物をテーブルに置いた。

「これは?」と問うスーナに、瑠璃は留守の間の不審者を撃退する物です。

効果は庭に置いてから、凡そ一日です。

ですが、そんなに時間はかかりませんよ」

「それから、若葉の朝露亭においでの時は、こちらをお持ちください。

お二人の身を守ってくれるでしょうから」と、今度は、赤色のエリスの拳くらいの玉を二つスーナに手渡した。

「それでは私達は失礼します。

急に来てしまった事をお詫びします。

「出来れば明日お会いしたいと思います」と告げて瑠璃は、探検の途中で宿へ戻ることにした。

「ワシがおらんときでも構わんぞ。

度々来てくれ」とリンツが笑顔で別れの挨拶をしてきた。

子どもたちは、ゴズに別れの挨拶をしていた。

瑠璃は夕日に向かってダウンタウンの方へ向かって歩くが、途中ですれ違う女に少女と、その殆どがゴズの容姿に惹かれ、その女達の様子を見るのが楽しみな瑠璃なのだ。

ゴズは瑠璃の所有物なので、悪い気はしない。

ところが、思わぬ問題が起きたのだ。

ゴズの人気が凄すぎて、瑠璃達の後をついて来る特に少女を巻かなくては若葉の朝露亭に戻れなくなった。

既に中央広場は遠く過ぎ、木立から若葉の朝露亭が見え隠れする距離に来た。

後ろ10ベイほど離れたところを3人の少女が付いて来ている今は非常に困った展開になった。

「そうか、ゴズの住む家の特定か」と思った瑠璃は、領主の館へ向けて歩きはじめた。

領主の館の関係者と思えば、後を着いて来る少女たちも納得し引き返すだろう、との思いが的中し、この先は領主の館しか無い所で、振り返ると、少女姿が見えなくなっていた。

周りを一瞥すると、瑠璃は直ぐにゴズをアイテムボックスに戻し、若葉の朝露亭を目指して足早に戻るのだった。

評価よろしくお願いします。

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