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神様になった  作者: 小原河童
冒険者編
13/497

捜査2

1ベイ=凡そ1メートルと理解ください。

明かりの主がアランであることに皆が願った。

瑠璃たちが乗る馬車の音に、野宿のアランは異常を感じて起きた。

焚き火の明かりを頼りに、剣を構えて緊張するアランは、気配から近づくのが馬車と感じ安心するが、まだ盗賊の恐れもあるからと、緊張は解かないまま馬車の気配を探る。

焚火の明かりで見る馬車は、衛兵が使用する馬車で、アランは家の戸に差し込まれていた手紙で、自分が面倒事に巻き込まれた、と直感が訴えてくる。

「やぁ、夜分驚かせないでくれますか。

盗賊の夜襲かと思いましたよ」と、愛想よく衛兵等の様子を伺った。

アランの予想とは少し違い、同じ衛兵でも此処へ来た者は、どれもが班長だったので、確実に面倒事に巻き込まれたと確信した。

「夜分にすまんね」と軽く挨拶をするのは、この隊のリーダーである、アルト班長だ。

「それにしても、夜分こんなところまで班長さんたちが来るなんて、一体何ごとでしょうか」と聞くアランを無視して「それより、お前は冒険者のアランだな」と本人確認は欠かさない。

今度は、対人専門である脳筋ともいわれるユルトが聞いた。

「ええ、私は冒険者のアランですけど、何用でしょうか」

そこで、ユルト班長の陰から瑠璃が出てアランに質問をする。

「まず、アランさんの住所ですが、西レミント通り6-8で間違いありませんか」

「あぁ、そうだ。

けどよぉ、普通はこれだけ班長さんが揃っているのに、なんでおめぇの様な小娘が偉そうにしやがるんだ」

「なんだぁ、衛兵本部で時間を掛けた尋問がお望みか」とユルトが意地悪くすごんでみせた。

そして、「おまえはなぁ、聞かれた事にだけ素直に答えれば良いんだよ」と言うユルトに瑠璃は対人専門を再認識した。

ユルトは黙っていると、優しい好青年なのだと思うと、少し残念と感じた。

それと、そのうち手が出ないかと、そっちが心配になる。

「悪かったよ、ただあんた等班長を差し置いて、小娘が偉そうに俺に聞くからな」

「で、何が聞きたいんだ、住所は間違っちゃいねぇよ」不満げに答える。

「では、ウッドマンとあなたの関係を教えてください」

「ウッドマンか、あいつが衛兵になる時に、スラム街の橋の下じゃ格好がつかないから、と言って同居している事にしてほしい」と言ってきたので、1000イェンで住所を貸してやったのさ」

「では、実際は同居していないと」

「あぁそうだ。

奴とは一晩だけ一緒に寝て、俺は翌朝ギルドの依頼達成のため、仕方なく簡単に出来る薬草採取に2~3日家を空け、帰った晩にウッドマンは帰って来なかった」

「その後、何処だったかの門でウッドマンの奴が偉そうにしていたんで聞いたら、良い住処が見つかった」と言っていた。

「ウッドマンの奴が新しい住処を衛兵本部に、届け出たかは知らない」とアランは言った。

色々考える事が多い現状、瑠璃の頭から煙が出ている自覚はあるが、幸い今は夜で、目立たないと思って安心することができた。

そして、「最近、何か変わった事、変な事が身の回りで起きたとかはないですか」と、瑠璃が聞いた。

「お前さん、何でそんな事までわかるんだ」と、アランがビックリした。

「2日前に帰ると、戸の隙間に変な依頼を書いた手紙が挟んであってよ。

それが指名依頼で3日と期間を切っての薬草採取で、今日はまだ初日だ。

変な依頼なので、ギルドで問い合わせると、確かの俺への指名依頼と言う形で、ギルドに依頼が出ていた」と。

「ふむふむ、3日間か」と考え込む瑠璃である。

「あなたの知り合や友人の中に、ここの班長さん同様の歳で身だしなみが、例えば、貴族が着るような服を普段から着る人はいますか」とアランに聞いた。

「そんな奴がいると本気で思っているのかぁ」とアランが答えると同時に、各班長が不思議に思ったのか瑠璃をみる。

「最後に、アランさんの家の中を見せてもらっても良いですか」

「俺は嘘をついちゃいねぇ、見たけりゃ勝手にせぃ。

ただ、散らかすなよ。

これでも俺は綺麗好きなんだよ」と、アランがニヤリと笑い了解を貰い本部へ引き返す事になった。

同時にエリソンがフクロウ召喚し、アランとのやり取りを手紙でリンツ隊長知らせた。

「これで、ゆっくり帰れるね」と言うセレスに瑠璃が呆れ気味に言う。

「あの、期限が迫っていますから」と。

「もうルリちゃんは硬いんだから、もっとこう力を抜こうよ」と、セレスが肘でいてくる。

行きと違い帰りは早いと感じたが衛兵本部に帰った時は昼の二番の鐘が鳴ったころだった。

同行した皆は本部の食堂へ行くが、瑠璃は直ぐリンツ隊長に面会を求めた。

リンツ隊長は瑠璃を待っていて、帰った知らせを受けると会いに行くつもりだったと話してくれた。

「早速だが、夜通しの移動で疲れたと思うが、まずはアランの話を聞かせてくれ」

「手紙以外で言えることは多くありません。

ほとんど手紙で知らせた通りですから」

「ただ、リンツ隊長に覚悟を聞いておこうと思って、直ぐにこちらへ来ました」

「覚悟?それは何の事だ」と、不思議がるリンツに、瑠璃は犯人捜査をどこまで広げるかと聞いた。

「なんだ、犯人はウッドマンという事だったが、他にもいるというのか」

「そうです、領主様が望むのは実行犯のウッドマンだけで良いのか」という事です。

「ふむ、ルリは他にも犯人、或いは共犯者がいると推理するのか」

「はい、アランさんの行動が気に掛かりますから」

「それは、どう言う事だ」、と聞くリンツに瑠璃は思うところを聞かせる事にした。

「大変聞きにくいのですがリンツ隊長、あなたのクビの事ですが班長の間で知っている者は誰ですか」

「班長の全員が知っているとは思えないですし、領主の館の方も含めて、どれ程の者が知っているのでしょうか」

「ワシにもはっきりとは分からんが、班長については、アントニオとジベルあたりは知っていると思うが。

おぉ、それにヘテルも」

「では、領主の館の方は、分からないと、言う事でしょうか」

「そうだな、恐らくだが、サンランド様の執事くらいは知っていると思う」

「なぁ、ルリは衛兵の身内を疑っているのか」と、不機嫌な表情をしたリンツが睨んでくる。

「いえ、今回アランの仕事が指名依頼で、しかも昨日から3日間も山に潜ませるように感じ、明らかに犯人逮捕の時間切れを狙った、強い意図を感じましたから」と、言う瑠璃の推理にリンツも納得する。

「先ずは手紙で知らせた様に、アラン宅の捜索許可を貰いに来ました」と、言う瑠璃に、呆れた表情をリンツがする。

リンツの話で知ったのが、ナルディア領の衛兵には強い権限があり、市民の家の捜索に特に隊長の許可などは必要としない。

それほどプライバシーは軽く、裁判と言った概念もなく領主の裁量一つで処罰が決まるというのだ。

今回に限っては、神のお告げで冤罪を禁止したから、面倒でも手間暇を掛けているのだとも語った。

この話に瑠璃は気まずい思いになるが、最低でも冤罪だけは防ぎたかったのだ。


徹夜の各班の隊長が遅い昼食のあと少しの仮眠をとった。

その後、西レミント通り5-6のアラン宅へ向かった。

セレス班長による鍵開けで中に入ると、すぐに居間になり室内一面が血の海、その中でウッドマンと思える上半身が迎えてくれた。

ソファーにもたれ掛かった上半身に頭は無く、ウッドマンから飛び散った血の一部がランプの笠に付いていた。

下半身はうつ伏せの状態で、真向いのソファーに横たわっている。

そして、肝心の頭はと言うと、両の太ももの間に置かれ、生前は決して見る事が出来ない位置から自分の尻を眺めていた。

瑠璃はウッドマンの体を切り分けた、その切り口の鋭さを見逃さなかった。

あばら骨が終わる辺りから、骨盤がはじまる辺りまでの間をほぼ真横に一刀で切り分ける、その切り口と手際に。

首はその後、直ぐに切り落とされたと推察でき、ランプの笠に飛び散った返り血の幾らかを犯人も浴びていると推察できるからだ。

本来検死はドールトの仕事であるが、今日の彼は別行動だった。


瑠璃の推理は、リンツが犯人と指摘した時の服と同じ灰緑色の衛兵の制服のままである。

一番怪しいアランは謎の指名依頼で既にナッシュ山に向かう途中にある。

それに、アランではあれだけ見事にウッドマンは切り分けられないし、ウッドマンもそれなりの剣の使い手であったからだ。

ウッドマンの住所を偽装した人物と貴族風の若者の存在も気になるところだ。

瑠璃はアラン宅の捜査を各班長に任せ、本部のリンツの下へ報告に急いだ。


瑠璃の報告を受けリンツは、手すきの隊員にドールトへ検死の要請を出し、瑠璃の推理を聞きたいと急かした。

「はっきりさせたい事が出てきました。

ウッドマンをはじめ衛兵隊員の住所録は何処で保管するのです」

「そうだな、隊員とその家族構成といった書類は、領主の館で保管されている。

もちろん領軍の関係者の者も同様だ」

「やはりそうですか」と腕を組んだ瑠璃はリンツ隊長の前を歩き回り、共犯もしくはウッドマンを殺害した者は、領主館にいるのだと確信した。

「それでリンツ隊長、ウッドマンとその共犯者、もしくは、ウッドマン殺害犯人も捜査しますか」

「私としては、まず犯人はウッドマン衛兵であることを領主様に報告してほしいと思います」

「その後は、領主様の指示で良いのでは」と、言う瑠璃は続けて、少し時間は速いが、今日一日の報告書と一緒に、幼児バラバラ殺人事件の解決の報告を第一報という形で報告してください」

「ルリ、お前にはまだ衛兵として働いてもらうぞ」と、言いリンツは部屋を出ようとしている瑠璃に言う。

「私は今から少し出てきます。

報告は明日の朝になると思いますから、出来れば、班長のグループを残してください」と、告げ瑠璃は衛兵本部を後にした。


それにしても不覚だった。

何故探知レーダーにウッドマンが引っかからなかったのか、その答えが、死人という形で分かった。

それも、昨日アラン宅前に来ていたのだが、元居た世界の常識と大きく違うこのルーノン、あの時衛兵の強権を知っていれば、状況は少し違っていたと瑠璃は思う。

人気の少ない通りに入り、人の気配が無いのを確認し、使い魔のブラックドッグを呼び出した。

するとすぐに人型に変身し「一週間で7日はいける瑠璃様の御用とは?

もしかして今夜は寝かせませんよ」と爽やかに現れた。

「それはないから、人型より犬に戻ってちょうだい。

それも、あまり大きくない方で」と言う瑠璃に、象より少し大きい大きさから、ラブラドールレトリバーくらいの大きさのブラックドックが現れた。

「ウッドマンの匂いは嗅ぎ分けられますよね。

それを追ってください」

「了解した、任せろ」

瑠璃が持たされている犬はブラックドッグ、いわゆる墓を守る黒妖犬という聖霊だ。

神様になると聖霊も使役できるらしいが、初めて会った時は神の使いと思い、扱いが今よりも丁寧だった。

昨日来た25分署よりも上流にあたる。

時は既に夕方に近く、ダウンタウンからジュード運河川沿いに食べ物を売る屋台と酒も売る屋台が出て、それに対抗するように、居酒屋と食堂は戸外にテラス席を出し、その大方が客で埋まっている。

客も行商の商人に家族ずれに冒険者グループなどが、犬を連れた瑠璃を珍しそうに観ているが、その中の青年が叫んだ。

「おい、あいつは悪魔だ!」と、そうか、本当に面倒だが、木の股越しに巻き角カチューシャの瑠璃を見て、叫んだのだ。

「馬鹿かおめえはよぉ、ありゃ普通の小娘だろうがぁ」

「チョット、何言っているのよ、ロートはもう酔ったの。

本当にしょうがないのだから、もっとこうシャキッとしなさいよ」

とかの声が聞こえてきた。

ロートと言われる男にしか巻き角カチューシャが見られなかったのは幸いだが、意外に目撃される件数が多いようで、先の事を考えると不安になる。

ジュード運河が終わりに近づくころ、ボロの川船が多数放置してある場所で、ブラックドッグが止まり人型に戻った。

「瑠璃様、ここですね。

このような汚い不潔なところへ瑠璃様を案内する事をお許しください」

「あれ、一週間で7日とかは言わないのですね」と、瑠璃がツッコミを入れると、「TPOをわきまえるのは従者として当たり前です」とブラックドッグが胸を張る。

何時もこの調子なら頼りになるのだが、と思う瑠璃に、ブラックドッグの本心は他にあるように感じた。

異臭、それも風向きで時々強烈な動物などの腐敗臭の様な臭いに、瑠璃は鳥肌が立つし、その後に吐き気も出てきた。

ボロい小屋のような建物だが、ドアと鍵は真新しい物に付け変わっている、それが不自然に感じるし、何か重要な物が保管されているように感じる。

「じゃ中に入ってみましょうか」とブラックドッグに告げ、瑠璃はドアの鍵をまるで鍵が掛かっていない様に開ける。

「私が先に入り中を確認してまいりますから、瑠璃様は出来ればその後にお入りください」

「いいから、そんな心配はいりませんよ」と、言い瑠璃は異臭が充満する室内へ歩を進める。

ボロい外観と違い室内は意外なほどにきれいで、しかも機能的に整理がされた、狭い空間に合う小さな白木のテーブルにのる白い大皿、異臭の元はその大皿に載るどす黒い錆色の小さい物のようだ。

それは、人血の他にじみ出ている汁が、気持ち悪くなる物だ。

瑠璃の神眼が幼女の肝臓と告げると、強烈な吐き気が襲ってくるのを5ベイ足らずの距離を我慢し、ジュード運河に走り我慢を開放するが、ほぼ丸一日何も食べていないので、吐き出せるものは何もなかった。

そもそも、瑠璃が食べた物は異空間処理されるので、吐き気がするだけで何も出てこないのだ。

川岸で何度も深呼吸をし、新鮮な空気を肺に入れ再度小屋へ入り、次は奥の部屋を見る事にした。

どうやら、この不気味な部屋がウッドマンの寝室の様で、壁際に据えられた小ぶりで黒く光る真新しいクローゼットから、衛兵の制服が数着と変わった色をしたシャツを見つけ出した。

シャツのわりにそれは、ゴワゴワした感触で肌着には適さないのが、2着出てきた。

「ウッドマンの死体、あれが着ている肌着について、ドールトに聞いてみなくては」と、瑠璃の独り言に、ブラックドッグが「これは人皮と存じます」と、告げた。

瑠璃の神眼もこの肌着は、幼女の人皮、それも背中の部分と告げている。

ここにあるだけの肌着に幼女が何人必要だったか、その人数を考えるとウッドマンの異常さと共に、大皿に載った肝臓の用途を考えると眩暈がしてきた。

ついこの間神界で聞いた、聞かされた瑠璃自身の体のその後の用途と重なって、目の前が暗くなった。

気が付くと、ジュード運河の護岸にブラックドッグに連れ出されたようで、ブラックドッグに寄りかかっていた。

「私も瑠璃様のつらい体験はよく存じています。

ですが今は私が瑠璃様を全力でお守りしますから、どうかご安心ください」とブラックドッグが安心させてくれた。

「ありがとう、私はもう大丈夫、これからはもっと強くなりますから。

ドアを閉めて衛兵本部に帰りましょう」これだけ言うと本部へ引き返した。

ウッドマンの小屋からわずか100ベイ離れると、悪臭の事を何も知らない市民たちの喧騒の日常に戻ることが出来る、これが今の瑠璃にとっては何よりもうれしい事だ。


衛兵本部には山へ同行した班長達と検死から戻ったドールトが話し合っていた。

瑠璃は今日もう疲れたから帰る、それと、ウッドマンの住居を見つけた事を言い残し若葉の朝露亭に帰った。

若葉の朝露亭へ戻るとレスターが応対をしてくれた。

そして、ルリの部屋の鍵が合わなく、中へ入れなかったので、掃除やベットメイキング他何も手付かずだと。

これは瑠璃の大失敗だ。

と、言うのも、衛兵の初勤務で知らず知らずに興奮し、部屋の鍵を元に戻すどころか、夜は山へ行き鍵を部屋に置いて閉めてしまったから。

「ルリ様大変言いにくいのですが、錠前の改造位は結構ですが、外出される時は、元の状態に戻してください」と、レスターに言われ恐縮する瑠璃なのだ。

「それからルリ様、面会の場合はロビー脇のラウンジかレストランをご利用ください。

他にも専用の談話室もありますから。

その客室は困りますので」のレスターの注意に、人型のブラックドッグをしまい忘れている事に、瑠璃は改めて気が付き、ウッドマンの住居で見た異常さに、大きく動揺している事に気が付いた。

「そうですね、失念していました。

少し散歩してきます」とレスターに伝え、人気のない場所を探し回り、ブラックドッグをアイテムボックスに戻した。

その時もブラックドッグから私をもっと頼ってくれ、と言われ瑠璃は嬉しくなった。

若葉の朝露亭に戻った瑠璃は、フロントのレスターに戻った事を告げ、朝まで起こさないでほしいと言い部屋へ戻った。

部屋で見る月は、ちょうど瑠璃の部屋からよく見え、昨日ヘテル班長に言われたように、今夜も欠けることなくまん丸の満月が紫の光を放っている。

ベッドに横になるのは、2回目だが今夜は魔王のカチューシャの巻き角が邪魔で、ローブと一緒にアイテムボックスに戻した。

そして、思い出したように、お茶のセットとシュークリームを取り出した。

つい先ほどまで、ウッドマンの住居を見た後だが、シュークリームと紅茶は美味しく、食べ終わると何事もなかった様に気分が爽快になる。

幸いな事に、シュークリームと紅茶では、頭から煙が出る事は無かったから、慣らしも少しは進んだようだと、瑠璃は思った。

このまま後幾らかの時間が経てば、この世界の美味しい物が満喫できるだろうと、考えると自然と微笑みがこぼれる。


翌朝少し早めに下へ降りてフロントを見ると、昨夜のレスターからリーズに変わっていた。

瑠璃はリーズにその辺を聞いてみると、リーズはこの前の対応と違い、恥ずかしそうに瑠璃を観るのだ。

何故?と考え自身をよく見ると、瑠璃はスクール水着姿で、フロントへ来たことを恥ずかしく思い、今日は朝から失敗だと小声でつぶやいた。

2階の自室へ戻り、アイテムボックスからローブを装備し、改めてリーズに話を聞く。

曰く、フロントの受付業務はレスターの二人体制で、都合が悪い時はオーナーのスチュアート様が代わりを務めます、との事だ。

「あの、リーズさん先ほど見たことは忘れてくださると私は嬉しいのですが」と、瑠璃が言う。

「勿論です、そんな些細な事、何でもありませんよ」と言い、見事な営業スマイルで瑠璃をレストランに案内してくれる。

今朝もレストランは瑠璃の貸し切り状態で、窓際の席に着くと給仕の女性が直ぐにきた。

制服の刺繍はピンデールと読め、身長はリーズよりは若干低く、薄緑色のショートボブのヘアに、豊かな胸にウエストのくびれといい、素晴らしい美少女だ。

胸も魅力なのだが彼女の顔、その下唇左にある小さい黒子が、小悪魔的にも感じさせる。

朝よりも夜の方が、より彼女は輝くと瑠璃は思った。

メニューの中から瑠璃が選んだのは、野菜たっぷりのシチューとフルーツサラーダとミルクティーだ。

この世界に来るまでの瑠璃は、朝からカレーはもちろんの事、朝からステーキでも問題なくおいしく食べられたのだが、あの頭から出る煙の事を考えると、自然に消化の良い物を選んでしまう。

瑠璃の人としての経験と、食べ物を分解に使うメモリー消費は関係が無い様に思うが、そこは、気は心というやつだ。

それでも不安になり、ピンデールに頼んでシチューの量を少なくしてもらった。

心配した煙は、少し出ているように感じられるが、気にしないことにして、食後のミルクティーのお代わりを楽しんだ。

本当に若葉の朝露亭の料理はおいしい、頭から出る煙を気にせず食事が楽しめる時がそのうち来ると思い、瑠璃はレストランを後にした。

給仕のピンデールに、今朝もおいしかったと告げる瑠璃に、小悪魔の様な微笑で、「それは、ようございました、ありがとうございます」と言われ、「あなたの笑顔に惚れた!」と感じた。


衛兵本部は特に何事もなくスムースに、瑠璃はリンツ隊長の執務室まで来ることが出来た。

中に入ると、五班班長のアン班長と六班班長のセレスがリンツと打ち合わせの最中だった。

「おぉ、来たか。

早速だがウッドマンの住居を突き止めたというが、詳しく聞かせてくれるか」と、リンツが瑠璃に言ってくる。

「その前に領主様の結論を先に話してください」

「そうだったな、すまんなルリよ。

そのなんだ、ウッドマンが犯人で何者かに殺害されていた」と、言うリンツ隊長の話で、リンツ隊長のクビは無くなり、不思議な事に、それ以上の捜査は必要ない、との沙汰が出たと、リンツ隊長が話した。

「それでは私の番ですね。

ウッドマンの住居はジュード運河上流、ジェストラード川との合流付近、ボロ船が多数捨てられたところにありました」

「九班の連中も見つけられなかったのに、本当にルリちゃんは優秀ね」と、アン班長が頭をナデナデしてくる。

それが気持ちよくて瑠璃も嫌ではないが、話が進まなくなる。

「これで、ルリの優秀さがお前たちにも分かったと思うが」と何故か偉そうにリンツ隊長が言い出した。

「本当にそうね、アラン探しにしても、簡単に見つけちゃうし。

6班が欲しい」とセレスが言う。

「それはダメです、ルリちゃんは5班に入るんだから」

「アンのところは回復特化、だから6班がいいのよ」

「ちょっと、待ってください」と瑠璃が制止、リンツ隊長に続きを促すのだ。

リンツ隊長、ウッドマンの検視は終わっているのですね。

「ああ、昨日のうちに検視報告が挙がっている」

「ドールトさんはウッドマン着ていた下着について、何か言っていたか報告に記述がありますか」と、確認してみる。

数枚の報告書をめくり確認するリンツは、死体の切り口や使用されたと刃物の種類などの記述はあるが、着衣に関する記述はないとリンツは言った。

「そうですか、後でドールトさんに聞いてみます」

「少し話が長くなりますが、時間はありますか」

「隊長朝礼の時間です」のセレスの言葉に、セレス、アン班長、瑠璃に隊長の順で訓練場へ移動だ。

朝礼でアランの家から、ウッドマンが死体で発見された事の領主への報告で、捜査の終了と事件の解決がなされた、とリンツ隊長は告げた。

しかし、事件の完全解決のため2班の一部は、ウッドマン殺人事件に引き続き行うとも。

朝礼の解散後、アラン捜索に加わった各班長と瑠璃が所属する班は、リンツ隊長と共に、昨日ウッドマンの住居捜索の明細な説明を聞いた。

それから瑠璃がドールトに、ウッドマンが着ていた服、特に肌着について聞いたが、ドールトは調べていないと答えた。

次に瑠璃は、ウッドマンの住居内で見たことを詳しく話した。

皿に載った腐った肝臓の話は平然と聞いた衛兵たちも、人皮で作った肌着の話で、セレスとユルトの顔は青くなり、ブルブルと震えていたのが、瑠璃は意外に思った。

特にユルトは脳筋なのだが、精神は意外なほど繊細な感じだから。

同時に、アン班長の動揺は感じなかったが、これは仕事柄現場で色々見てきたためだろうと、瑠璃は思った。


総勢9名でウッドマンの住居へ家宅捜索に向かった。

途中誰が言うでもなく、ウッドマンの家宅捜索前に飯を食うか、食うと吐くから食わないかの話になり、先に現場を見た瑠璃はのんきな話と思え、憂鬱な気分が幾らか和らいだ。

狭いウッドマンの住居へ9人が入るのだが、そこはそれで手際よく捜索が始まるのだ。

温かい気候のためか、昨日よりも肝臓の腐敗は一段と進み、異臭も比例してより強く感じる。

で、問題はクローゼットの中にある人皮の肌着だ。

寝室の捜査にあたっていた者、ほぼ全員がそれを見て一瞬顔が青くなるなか、ドールトだけは興味深そうに見ていた。

「おそらく幼女の背中の部分が使われていると思いますが、1着作るのに、何人分が必要になりますかね」と瑠璃がドールトに聞いたが、当のドールトは無反応である。

「おい、ドールト」とラーダ班長が、ドールトの体を突いた。

ドールトは「うっ!」とだけ、うめき声を残し戸口を目指して駆け出し、そのままの勢いで運河の護岸で、朝食べた朝食を川へぶちまけた。

前日にそれを経験した瑠璃は、「そうだろう、そうなるよね」と内心思い、心配そうにドールトのもとへ駆け寄る。

「ドールトさん大丈夫ですか。

私も昨日はそうなりましたから」と瑠璃が言う。

瑠璃と一緒に来ていた、ポーラーも顔が青いのだ。

ポーラーは何とか我慢してやり過ごすことが出来たが、ドールトの方は一度では済まなかったようで、その後2度吐いた。

幾らか気分が良くなったのを察して、瑠璃がドールトへ聞いた。

「ドールトさん気分は良くなりましたか。

その申し訳ないのですが、幼女の人皮であの肌着を作るとすると、何人分要りますか」

切り刻まれた幼女の詳しい体格は分からないが、と前置きしてドールトは凡そ1着に8人分は要るだろうと話した。

と、すると、あそこにある2着で16人分の人皮が要る。

「ドールトさん幼女惨殺事件の被害者数と16人分の人皮で数が合いますか」

「いや、隊に報告が出ている数は44件だ」

「すると、仮に死体のウッドマンが着ていたとして、24人分ですね。

残りの20人分の人皮が不明のままか」

「あとでラーダ班長やポーラーさんネリナさんにも聞いてみますが、ウッドマンは手先が器用な方ですか。

特に衣服が作れるとか」と、瑠璃が聞きにくそうに言う。

この世界の衣服は、そのどれもが高価であり、手先が器用な者は自作するし、大抵の庶民は古着を買い求めるのが常識だ。

「いや、奴の手先が器用とかは、本人からも聞いたことがないな」とドールトが答える。

「だとすると、早計かもしれませんが、人皮で肌着を作った人物がいる、という事のようですね」と、瑠璃はつぶやく。

ネリナが手配した25分署から衛兵が来て、ウッドマンの住居から、色々物色した物を本部2班の隊舎へ運ぶ手筈がついた。

時刻は昼の鐘が鳴り、これから飯時なのだが、率先して昼飯を食べようという出す者はいなかった。

まぁ、あれを見た後でも飯が食える強者はいないのだ。

強いて言えば、朝食のほとんど運河に流したドールトは、多少の食欲はあるように感じるのだ。

対して吐き気を我慢でやり過ごしたポーラーは、今は夕食も要らないと言っていた。

同行した班長達も昼飯に関しては、ハムやソーセージといった肉類は無で、簡単な野菜と根菜の煮込みと堅焼のパンで済ませるそうだ。

と、言う話で近くの昨日も行った、ビンス食堂のテラス席に陣取った。

テラス席については、ラーダの強い要望を皆が聞いたためだが、それは、対瑠璃用という事を知っているのは、2班員だけだろうと瑠璃は思う。

昼食後に各班長達は、日常業務の指揮のために、今日のところは解散の運びになった。

2班は隊舎へ戻り、ウッドマンの住居から運び込まれた品の見分と、

幼女の捜索届け出などの地味な書類仕事に就いた。

改めてドールトがウッドマンの検死を行い、ウッドマンが人皮の肌着を身に着けていたことを見つけ出した。

もう一つは、肌着をウッドマンが自作に関する道具が、何一つないと報告してきた。

「やはり、ルリの推理のとおりだ」とラーダは思った。

そして、瑠璃も同様に思ったことだが、テーブルの腐った肝臓の用途だ。

まるで食材の様に感じるあの置き方は、誰かの食材のように感じるからだ。

2班隊舎へ来たリンツ隊長に、ウッドマンの住居の状況を大まかに話したラーダは、今後の方針をリンツ隊長に求めた。

リンツ隊長は、「ルリを含めた今の班員で続行だ」と言った。

瑠璃に意見を求めたいリンツ隊長は、あの人皮製の肌着を見る瑠璃のまじめさに、改めて瑠璃を採用してよかったと思うのだ。

ただ、瑠璃の衛兵の仕事の契約は、今週は今日で終わる事になっている。

その事を思い出したリンツ隊長は、夕方に臨時に会議をするので各班長に対し、終業の鐘すなわち夕刻2番の鐘が鳴る前に、執務室に集合の指令を待機する班員に告げた。

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