自己紹介
衛兵本部に朝2番の鐘よりも早く来てしまい、瑠璃はする事がないのでリンツ隊長の部屋の前に来た。
リンツは既に来ているようで、部下に指示を色々出しているのが声で判断できた。
瑠璃がノックをすると返事があり、部下がドアを開けてくれた。
部下の「なんだ、小娘かぁ」という声をリンツが一括し黙らせる。
「おはようございます、リンツ隊長。
私、瑠璃はリンツ隊長からの指名依頼で冒険者ギルドから来ました。
少し早すぎましたか」と、瑠璃自身はさわやかに挨拶したつもりが、リンツ隊長の部下2人には、小娘の戯言にしかとられなかった。
清々しい朝のはずが、梅雨の様などんよりとした気分に瑠璃はなった。
しかし、リンツ隊長はというと、怖いくらいの笑顔で、瑠璃に昨日の礼を言い、その場で部下に瑠璃を紹介した。
背の高い細身でも筋肉質の鍛えた体に、金髪がまぶしく感じる20代後半と思える青年が自己紹介をする。
「初めましてルリさん、先ほどは大変失礼した」
「私は3班班長のアントニオ・ビスチェットと申します」
「衛兵として各門の門番の他に治安維持が主な仕事です」
と、自己紹介してくれた。
もう一人はというと、茶髪でアントニオと同年代と推察できる。
「初めまして、私は4班班長のジベル・カッツェと申します」
「私の班は、衛兵として各門の門番の他は領軍に同行しモンスター討伐が主な仕事です」
「今はモンスターの脅威も少なく、今日は班員70名でウッドマン捜索を手伝います」
「この後、ルリを各班長とウッドマン捜索の班員の全員への紹介する。
お前らルリを小娘と侮るなよ、ルリがウッドマンの犯行と解き明かしてくれたのだからな。
ルリよ、こいつらは貴族の血を引く者で、はじめに自己紹介した金髪の方が三男、茶髪の方は四男だ
嫁入り先にはいいぞ」とリンツは言う。
「ジベルのところは70人か、それなら俺の班はそうだな、隊長100人出しましょう」
「衛兵業務が今日は無いにしても、100人も出すと残り待機が50名で心配ないか」と、リンツが言うが100人も捜査に出してくれるアントニオに感謝する。
朝二番の鐘が鳴るまで3人と瑠璃は、勧められるままに昨日の緑色の革張りのソファーで朝のお茶を飲んで過ごすのだが、この気まずい時間が瑠璃にとっては、永遠と感じられるほどに長く感じられた。
良い時間になったと、アントニオ、ジベルに瑠璃、最後に執務室のドアを閉めたリンツの順に、3階から1階に降りた。
行く先は、本部棟の奥に建つ別棟は衛兵全員が集まれる規模の広さをもつ訓練場だった。
訓練場に入ると、朝礼に参加する衛兵全員が班別にすでに整列して待っていた。
リンツ隊長が所定の位置につくと、3班班長のアントニオが口を切る。
「皆、リンツ隊長の前だ、私語を慎め!」
アントニオの注意にもかかわらず、衛兵は瑠璃を見て感想言い合っている。
バカにした者やかわいそうだの、小娘がどうとか、皆言いたい放題で、私語が止まないのだ。
リンツ隊長が何か言いかける前に、アントニオが各班長に私語を止めさせるよう指示を出す。
やっと静かになったところで、リンツ隊長が瑠璃を連れてステージに登場するとまた騒がしくなった。
「貴様ら、誰の許しを得て騒ぐ。
班長は班員の教育もろくに出来んのかぁ」
リンツ隊長は、隊長然とした威厳を纏い班長と班員に告げた。
「次に騒ぐ者は、ワシと剣の訓練に付き合ってもらうぞ」
最後、ニヤリと笑った笑顔に衛兵は皆青くなった。
この一声で会場は静かになった。
ジベルが今日の主な仕事が、幼女バラバラ惨殺事件の犯人が衛兵のウッドマンであると告げ、ウッドマンはなるべく生かして捕まえたいが、こちら側に危害が及ぶようなら、生死は問わない」と皆に告げる。
念を押すようにリンツ隊長に確認をとると、リンツは了解した。
それから、アントニオによって瑠璃が紹介された。
「衛兵の皆さ~ん、冒険者ギルドから指名依頼で来た瑠璃だよぉ。
よろしくねぇ。
私の事は瑠璃と呼んでくれるとうれしいなっ」
と、笑顔のあいさつの後ローブの裾をスクール水着が見える際どいところまで持ち上げて貴族式のお辞儀をした。
瑠璃の自己紹介に苦笑したのはリンツ隊長とアントニオにジベルだが、先頭に立つ各班長、副班長や班員には好評で、特に前の方の班員は「紺色のパンツが見えた」とか騒ぎが起きたが、瑠璃の自己紹介はおおむね好評に終わった。
今日の進行役のアントニオ班長から説明を求められ、2班班長ラーダにウッドマンの人相に主な潜伏先と交友関係の説明がされた。
「本日の各門の担当は、7班、8班、9班、10班、11班、12班だ。
班長とウッドマン逮捕の要員以外は、解散してよし」
「ウッドマン捜索逮捕要員は班長の指示があるまで待機」とアントニオが告げる。
「各班長はウッドマンの明細を説明するのでこちらへ」とジベルが付け足す。
そして、リンツ隊長のもとに集まった各班長に、2班班長からさらに詳しくウッドマンの情報が知らされる段取りだ。
「厄介なのは奴の犯罪者という職業で、スキルはついこの間完成したと自慢していた」とラーダは各班長に告げた。
さらに、この犯罪者という厄介な職業で、犯罪者の手口から立ち回り先など、スキルが完成というレベルマックスなので、我々犯罪捜査に特化した2班でも悔しいが、ウッドマンの立ち回りは予想がつかない」
「ウッドマンの変装も考慮に入れて探してほしい」とラーダは話した。
「ところでラーダ、ウッドマンのスキルがどの様な物か。
お前は知らないのか」と聞いたのは、12班班長ヘテル・ジ・マットだ。
後で聞いたところでは、彼は魔公爵の次男だそうだ。
次男というと、長男の代理の意味もある重要な人物なのだが、衛兵などやっていても良いのだろうか、と瑠璃は思った。
「奴は謎の多い男で、衛兵の登録情報は偽と思う」とラーダが悔しそうにつぶやいた。
「と、いう事は、ルリさんが犯人をウッドマンと見つけるまでは、ウッドマンはやりたい放題、殺し放題だったの」とさわやかな笑顔の20代成りたてと思える美女が、さらりと怖いことを言う。
その声の主はエステという美女が率いる8班は魔法使いの集団だ。
ただ、エステ個人に限っては体力も申し分ないので、治安維持も務めるのだという。
ちなみに、エステ・トルテはトルテ男爵家の二女で、赤毛のミデァムロングの緩くウェーブが掛かった髪は情熱的で、官能的なスタイルとともに本人にその気が無くても見る人を大いに惑わす。
「ルリは2班に入ってもらう。
昨日見たところ奴は相当に腕が立つ。
ルリはウッドマンの居場所の特定だけで、逮捕は班員全員で掛かるように」とリンツが締めた。
リンツの指示を受けて、ジベルが班の区分けを班長に伝える。
「1班はスラムと貧民街だ。
2班は遊撃という事で市内全域を担当。
3班はダウンタウン周辺。
4班は商業区とそれに続く住宅街も。
5班は高級商業区と貴族街だ。
6班は範囲が広いが、西の住宅街と軍の演習地。
7班は軍の演習地。
8班も軍の演習地。
9班はジュード運河とジェストラード川合流点から上流スネール川合流点まで。
10班はスネール川を遡り壁まで。
11班は演習地沿いのスネール川からジェストラード川合流点下流壁まで。
12班は貴族街を中心に、以上だ」
「では、各員5名が組んで捜査開始だ」と、ジベルの声に全員が動き出した。
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