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一幕「異常気象」

「…………最近雨が多いよな。」

「ああ。」

「でも今日は晴れだよな。」

「………ああ。」

 朝礼後、何気なく窓の外を見ていると前の席に座っている生徒(友達ではない)が話しかけてきた。

 僕は無感情に返事をした。

「梅雨入りっていつもどのくらいだったっけ。6月の下旬とか?」

「知らね。中旬じゃね。」

「中旬か~。で、今日は何月何日?」

「5月20日。」

「梅雨じゃねえじゃん。」

「僕に言うなよ………。」

 僕は呆れて溜め息を吐いた。




 20☓☓年5月20日——梅雨入らず。

 直近2週間の降水量は正に異常だった。

 至る所で洪水が起き、近所にある、通称「枯れ川」で有名な川が「溢れ川」になるほどだった。

 死亡者・行方不明者は、今までの豪雨災害では見たことのない数字を叩きだしていた。

 幸いにも僕の家は川の付近ではなかったため、僕が受けた被害といえば水たまりでずぶ濡れになったり、傘を3本ダメにしたくらい。

 天気予報では梅雨前線はできていないと言っていたが、このまま梅雨に入ると国が沈むんじゃないか。

 そう冗談交じりに思っていた矢先に、この快晴っぷり。

 久しぶりの太陽に、気象予報士の声がうわずるほど。(前日の天気予報では雨だった)

 今までのビショビショの生活から抜け出せた世間の人間たちは、水たまりだらけの地面をお構いなしにアウトドアを楽しんでいた。


 しかしなんとなく僕は、これも異常気象の一部だと考えた。

 何日も続いた災害級の豪雨。前触れもなく突如現れた快晴。

 異常気象なのは間違いないが、僕は何故かこれには裏があると感じていた。

 気象に裏がある、なんてことはきっと無いのだろうが、謎に確信めいたものを感じていた。

「お前はいつもそんな感じで気だるそうだよな。今日くらいもっとテンション上げろよ。」

「テンション上げたところで何にもなんねえよ。ほら、授業始まるぞ。前向けよ。」

「へいへーい。」

 異常気象のことを考えたところで何かできるわけでもない。。

 できないことをいつまでも考えるよりやるべきことに集中したほうが充実する。

 そう割り切った僕は、授業に集中しているうちに考えていたことを忘れてしまっていた。


「………えー、連絡はこのくらいかな…。はい。じゃあ、今日は晴れてるからといって走って帰らないように。水たまりで転ぶなんてのは小学生のすることだぞ。自転車通学の人はより注意するように。解散。」

 終礼が終わり生徒たちが続々と教室から出ていくなか、僕は一人で教室に残っていた。

 今朝僕に話しかけてきた男子生徒はどうやら友達とゲームセンターに行くらしい。

 しばらく経って校舎裏の山に太陽が隠れて薄暗くなった時、校門から出ていく生徒がいなくなった。

 そうか。しばらく続いた豪雨の影響で部活は中止になっていたんだったな。

 ということは今学校にいる生徒は僕一人だけか。

「なんだろうな……この感じ。」

 閉ざされた空間に自分一人だけ。

 日々、人間に囲まれていると味わえない、なんとも言えない孤独感と開放感。

 僕の両親は僕が小学生の頃に他界し、他に身寄りのなかった僕は施設に入れられた。

 転校した先の小学校では施設から通学していることを弄られ、階段を下るときに後ろから転ばされたり、大勢の児童の前で罵倒を受けたりした。

 中学生になってからはむやみに自分の情報を開示したりしなくなったため、ただの話しづらいやつとして生活していた。

 高校生になってからは中学生のとき同様、静かに過ごしていたが、今朝のように話しかけてくる輩が多いためか、圧迫感を感じていた。

 今までは部活動生が教室に残ったりしていて一人になれる環境がなかったが、今日は運よく一人になれた。

「異常気象に感謝することなんてあるんだな。」

 黄昏ながらそうつぶやいた時。



「あなた、おかしなことを言うのね。」



 一人の少女の声がした。

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