プロローグ
彼女の潤んだ瞳は、僕をただ一点に見つめていた。
瞳に反射した白い光が僕の目に入る。
腕のなかの柔らかな感触と温かなぬくもりは、僕の冷たい手と心に優しさを与えてくれる。
彼女の銀髪は艶やかに靡く。
時々触れる肌がこそばゆい。
彼女は死んでいた————僕の腕に抱かれて。
まだ硬直しきっていない身体は、未だに体温を保っていた。
それに反して徐々に冷たくなっていく血液は、とっくに彼女が死んでいることを嫌が応にも自覚させてくる。
彼女の身体は思ったよりも軽かった。
それはそうだろう。何故ならば、腰から下が無くなっているのだから。
切り口はまるで切断されたように綺麗だった。
どす黒い断面から飛び出た内臓が、白い地面をキャンバスに変えていた。
力無い手には小型の銃が握られており、僕の腹に押し当てられていた。
僕を殺すつもりだったのか、指が引き金にかかっていた。
結局その引き金が引かれることは無かったが。
「ああ……………今日はツイてないな……。」
と、悲しさのような、また、安堵のような笑みを僕は浮かべた。
——死んだ少女を抱く青年の図。
それは筆でも舌でも表せるほどに単純明快な光景だった。
しかし彼らを取り巻く景色は、見る者を酷く悩ませるかもしれない。
何故なら—————
夏真っ盛りのこの日———辺り一面が、真っ白な雪景色に変わっていたのだから。